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十章 真夜中の船内にて



「どうでした、湯加減は?」


 臨時の船着場から乗った深夜便でシャワーを拝借し、数日で溜まった汚れを残らず落とす。久々に生き返った気分だ。レンタルのタオルで髪を拭きながら席に着く。

「消灯は十二時だそうです。早く食べて下さい」

 船内販売で買った弁当を開けながら神父が言う。甘辛い匂いに食欲を誘われ、俺も置かれていた自分の分に手を掛けた。蓋を開け、中へ割り箸を伸ばす。


「美味い!」


 勿論普段ならそこまで喜ぶ物ではない。普通の幕の内弁当、しかも飯は冷えてるし唐揚げはゴムみたいに固い。だが、生きる理由を取り戻した身体には何よりの御馳走だ。

「一応もう一つ買ってありますが、如何ですか?」目の前でガツガツ食う俺に神父が言った。

「準備が良いな。貰おう、ありがと」

 差し出された海苔弁もあっという間に完食し、食後のカップ烏龍茶を啜る。数日空だった腹が満たされ、ようやく一心地付いた。

(俺、生きているんだな)心臓に手を当て、深い満足感に浸る。(まーくんに与えられた命が、ここにしっかり根付いて……凄いよな、それって)

「そんなに空腹だったのですか?早食いは身体に毒ですよ」

 人には早くと言いつつ、当の本人は豚の生姜焼きをしっかり咀嚼し、ゆっくり味わって食べていた。まだ白米も付け合わせのポテトサラダも半分以上残っている。

「ジロジロ見てどうかしましたか?まだ欲しいんですか?」

「いや」言葉を続ける前に、烏龍茶を一口含む。苦みが口の中をサッパリさせてくれた。「お前も食べれるんだな、焼いた肉」オリオールと一緒で。

「―――ああ、成程。ええ、好きですよ豚の生姜焼き。ほら、あるでしょう?偶に濃いソースのベトベト掛かった脂肪塗れの物が食べたくなる時」

 好物の割に酷い言い草だ。

「心配なさらずとも、我々に食に対しての戒律はありません。殆どの不死族は六種と変わらない食事をしています。輸血や微量ミネラルの調整も二、三ヶ月に一回すれば全く支障ありません」苦笑。「大体、そう簡単に習慣は変えられないでしょう?ウィルベルクさんも、仮に明日から甘い物を止めろと言われても無理ですよね?」

 反射的に首肯。スイーツの無い人生など味気無さ過ぎる。―――ん?習慣、だって?それに「輸血は三月に一回?だが」

「別です」最後の一切れを行儀良く口内へ収め、よく噛んでから飲み込む。「あの方は特別なのです」

 溢れる尊敬を籠めて奴は呟いた。

「そりゃ特別だろうな。何せ至宝の守人だ」クスッ。「何がおかしい?」

「いえ。どうやら未だ大きな誤解をなさっているようなので、つい」

 誤解、と来たか。まぁここまで来れば、仮令何が待っていようと進むしかない。

「守護者でなかったら何なんだ?何故戦えないのに、盗人からの奪還なんて危険な任務に就く?」

「そこがそもそもの間違いなんですよ。”黒の燐光”を坊ちゃまが探していた、と言う前提自体が」

 そう言えば……“黒の燐光“の名前を最初に耳にしたのは確か環紗での初日、天宝商店から出た直後だ。あの時はてっきり記憶が戻ったのかと思ったが、よく考えればおかしい。他の事を思い出した様子は一切無かったし、誠自身も目的の物をはっきり知らないようだった。とすると一体誰が……あ、もしかして詩野さんが?

(あの時の彼女は、エルの事で随分思い詰めていた。模様を消したい一心でジプリールから聞いた話をして、一緒に探してもらおうと思っても不思議じゃない)

 何て健気な女性だろう。羨まし過ぎるぞ、弟よ。ただ生憎これで仮説は完全な白紙に戻ったがな。

「つまり二人の無断外出は偶々タイミングが重なっただけで、“燐光”とは無関係って訳か?」

「いいえ、関係は大いにあります。あの馬風情が……拾ってやった恩も忘れ、とんでもない事をしでかしてくれた物です」

 心底呆れた風に首を横に振り、今夜だけで何度も見た作り笑いを浮かべた。

「あなた方が小晶 誠と呼ぶ御方が、最も宝に近しい不死族には違いありません。しかも他の同族の誰もが決して仲間とは思わない尊い存在です」

「まどろっこしいな。はっきり言ってくれ、まーくんは一体何の役目を」

「正直、私はあなた方が羨ましい」

「?」

「あなた方はいつも坊ちゃまと対等に接する事が出来る。素晴らしき無知故に」

 底の知れない不気味な笑みを見せられ、思わずカップを握る手に力が籠もる。

「馬鹿にしてるだろ?」

「まさか。―――あの方の幸せは、我々の無上の幸福」

 遠い目をして神父は呟く。

「何としても守らねばなりません。そのためには……あなたの力がどうしても必要なのです、ウィルベルクさん」

「まさか」

 願望はあったが、彼は本当に生きてるのか?

「到着すれば分かります。―――そう、主のおわす聖地。“黒の都”へ行けば、ね」

 自分達の首都の名前を口にし、失礼、奴は三つの空の弁当箱を回収して席を立った。




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