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人恋しさは冬の寒さにも似て

 その不器用さが父にそっくりだと、霖之助は言う。

 意地になって言い返したけれど、彼は笑って取り合ってくれなかった。

 大嫌いな父に似ているだなんて、誰が嬉しいものか。

 誰が——嬉しいものか。


    ×××


 大抵何をするにしてもひとりでいるのは寂しいもので、冬となればその傾向が一層強くなる。

 ついさっきまで私は家で魔法の研究に打ち込んでいたのだが、ふと気がついて周りを見渡してみると誰もいない。窓から差し込む黄金色の夕日も相まって、私は妙に感傷的な気分になった。つまり、人肌が恋しくなったのだ。

 何とも情けない話だが、そんな経緯があって私はいま、木枯らしの吹く小道を香霖堂に向かって歩いているのだった。

「おー、さむさむ」

 きつく巻いたマフラーに顔を埋め、肩を高くして歩く。相当に着込んで来たつもりだったが、私の見込みは甘かったようだ。冷たい冬の風は情け容赦なく私の体に吹きつけ、体温を奪ってゆく。気合いの入った冬将軍の仕事にも、人間の私はただただ辟易へきえきするばかりだ。どこを見回しても目に入るのは軒並み葉の落ちた枝ばかりで、生命力に欠けた風景は目の毒だった。

 手が冷えないよう両手に息を吐きかけながら、考える。

 香霖堂には誰がいるだろうか。霖之助は相も変わらず店の奥でしけたマッチみたいに座っているのだろうが、ほかに来ている人物といえば——霊夢くらいか? 彼女は頻繁に香霖堂へ出向いているから、運がよければ会えるだろう。一緒に酒を酌み交わすのも悪くない。

 いるとすればそのくらいだな。香霖堂は一応道具屋だが、客足が絶望的に見込めない。せいぜいが冷やかし止まりだろう。それならそれとして、いつもの顔ぶれで取り留めのない話をできれば十分だ。

 考えながら歩いているうちに、香霖堂の建物が見えてきた。

 商売っ気のまるでない古ぼけた店構えは、掲げられた「香霖堂」の看板がなければ限りなく民家の外観に等しい。悪い意味でそのあたりには店主の性格が出ていると言える。いまでこそ夕日に照らされてそれなりの見栄えを保ってはいるが、日が落ちてしまえば小奇麗な空き家程度の印象に成り下がってしまうこと請け合いだ。

 さんざ憎まれ口を叩かせてもらったが、そんな香霖堂の見てくれに少なからず安堵を覚えてしまうのも、また事実だった。

 幾度となく訪れたこの場所は、いつしか自分の家のような暖かい安息を内包していた。

 ひんやりと冷たいノブを握り、扉を押し開ける。

「邪魔するぜ、香霖」

 軽やかなドアベルの音が私を出迎えるも、かび臭い店内に人影はなかった。

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