結婚同窓会~Old friends~
愛に年齢も立場も人種も性別も種族も次元も関係ない。高校の時に誰かが言っていた言葉だ。出来れば最後三つは関係有って欲しいけど、まあそうだろうな。友達の母親と結婚した野球選手もいるし、光源氏は日本最古のロリコンだ。可哀相なシンデレラは最終的に王子様と結ばれたし、愛の前ではあらゆるモノが無力なんだろう。愛こそが全て、ラブイズオール。
さて、どうしてまた愛を語る似非哲学者みたいなことを思ったのかというと、僕自身が愛やら結婚やらについて考えさせられる出来事があったからだ。
――
「あっ、南雲君久しぶり~! 元気してたぁ?」
高校時代の友人たちと久々に会う。前の同窓会はこちらの都合で行けなかったこともあり、こういう場に来るのも久しぶりかもな。
「あれ~、ひょっとして私のこと忘れたぁ?」
肘でツンツンされる。こういう馴れ馴れしいスキンシップが多いところも変わっていないみたいだ。
「いや、久しぶりだなって。葛」
「よかったぁ、覚えててくれたんだ。忘れられてたら直接頭を刺激してあげようと思ったよ」
いつの間にか彼女の右手にはスリッパが持たれていた。
「ははっ、遠慮しとくよ」
葛の十八番スリッパチョップは地味に痛い。高速で振り下ろされるそれは、確実に脳へ直接のダメージ、ダイレクトアタックをかましてくれるのだ。下手したら記憶に混乱が生まれるぐらいだ。室内で星は見たくないよ。
「ちぇ、残念」
本当に残念そうな顔をして言う。そんなに僕を叩きたかったのか?
「南雲君が一番良い音鳴るもん。さすが優等生は詰まってるモンが違うのかね」
人を西瓜みたいに言わないで欲しい。
「おっ、南雲に弥生ちゃん! おっひさー」
葛と高校時代のようなくだらないやりとりをしていると、ホスト風の男に話しかけられた。
「ゴメン、あんた誰?」
僕の知り合いにホストはいないはずだ。
「ちょっ、ヒドくね!? 確かに俺が同窓会とかに行くときに限って欠席してるから仕方ないっちゃ仕方ねえけどよ……」
「南雲君、目元目元」
葛に言われて目元を見てみる。すると右目の斜め下ぐらいに泣きボクロを発見した。
「この泣きボクロって……、お前篠宮(しのみや!?)」
「そっ、篠宮琢朗だよ」
篠宮琢郎。高校の時はぽっちゃり体型で、一部の心ない連中からは豚郎と呼ばれていたぐらいだ。なかなかにうまいネーミングだったこともあり、周りもいつの間にか豚郎、豚郎と一歩間違えなくてもイジメなノリになっていた。
「これまた随分減量に成功したな……、フェザー級でも出るのか?」
今や前の彼の名残は、申し訳なさそうにある泣きボクロだけだ。
「ボクサーじゃないよ! 豚郎コールがあまりにも悔しくて毎日ダイエットに励んだらこうなったの。今では店のナンバー2さ」
「ホスト?」
「そうだな、言い方が悪かったな。今俺中古車販売の営業やってんの。南雲も弥生ちゃんも車が欲しけりゃ連絡頂戴」
そういって篠宮は名刺を渡す。結構有名な中古車販売業者の名前の横に篠宮琢郎の名が書かれていた。
「私前もこれ貰ったんだけどな……」
「いいじゃんいいじゃん。別に減るもんじゃないんだし」
積極的で痩せた篠宮なんて篠宮じゃないよね!!
「そういや南雲って今何してるの?」
話題の矛先がこちらに向く。
「聞いてない? 僕今御崎原で社会科教えてる」
「マジ? 母校に帰っちゃった系?」
「僕は別にヤンキーじゃないぞ」
母校に帰ったっちゃあ帰ったけど。
「だったら中居先生ってまだ崎高にいるの?」
中居先生というのは僕らの担任だった先生だ。生憎その翌年に転勤されたらしいが、同窓会とかにはたまに顔を見せるらしいけど、残念ながら僕は上手いこと鉢合わせては無かったりする。つくづくタイミングが悪いこった。
「いいや、転勤されたよ。でも教え子と元同僚の結婚式だし呼ばれてるんじゃないの?」
先生は生徒達からも慕われていた良い先生だった。未だに年賀状を送っている生徒もいるらしい。恩師というのは離れていても切れないモノなのかもね。
「僕もあの人みたいな先生になれるのかね?」
「誰みたいな先生、ですかな?」
「うわっ!?」
急に後ろから声をかけられる。振り向いてみると、
「やあ南雲君、篠宮君、葛さん、いつ以来でしょうかね?」
「「「中居先生!!」」」
噂をすれば何とやらってことわざほど当たるモノは無いと思う。
「中居先生、お久しぶりです」
「おひさー!」
「ご無沙汰しています」
六年ほど前に比べて、どういうトリックを使ったのか髪の毛が生えた気がするけど、それ以外はあの時のままの仏のようにニコニコしている恩師と出会う。
「先生来られていたんですか」
ついつい頭に乗っかっている黒いモノに気がいってしまうが、久しぶりってことで色々つもる話もあるのだ。
「ええ、瀬川君にスピーチをお願いされましてね、学校を卒業したとてかわいい私の生徒には代わりありません。特に彼はやんちゃでしたからね、今でも彼のことは鮮明に覚えています。こういった人前で話すモノには慣れていないのですが、瀬川君たっての願いと言うことで引き受けさせて頂きました」
ニコニコ顔を変えることなく言う。まあ瀬川は結構な問題児だったからな。教師という彼と同じ立場に立って初めて中居先生の気持ちが分かった気がする。
「南雲君は御崎原で教師をしていると聞きます。どうですか? 私たちの人知られない苦労を味わいましたか?」
「ははっ、お陰様で絶賛苦労中ですよ」
姉さんが過去から来たり、アベさんに追っかけ回されたり、鏡の中に吸い込まれたり大変ですとも。……あまり教師関係ねぇな……。
「それは大変ですな。しかし彼らから学ぶモノも沢山あります。何事にも真摯に向き合うことが大事です」
やっぱりベテランが言うと言葉の重みってもんが違うね。
「そうっすね」
自分のクラスの生徒達の顔を思い浮かべる。僕はアイツらと真摯に向き合えているのだろうか、ちゃんと先生出来ているのだろうか、考えても分からないか。
――
「南雲……君?」
懐かしい皆との歓談も落ち着き、椅子で休んでいると儚げな美人に声をかけられた。
「えっと……」
あれ……、誰だっけ? 僕の知り合いにいたかな……。
「もしかして……忘れちゃった?」
「ごめんなさい……、どなた様だっけ?」 見たことあるような気もするんだけどな……、思い出せない。
「いいの、私の影が薄いだけだから……」
謎の美女は悲しそうに言う。……薄い?
「あっ! ひょっとして碓氷さん?」
「そうです! 私碓氷杏子です!」
彼女は名前を当てられて嬉しそうだ。碓氷杏子。僕のクラスにいた子だが、正直言って存在感がある方ではなく、地味で影の薄い子だった。
「ははっ、ゴメン。悪意はあったんじゃないんだけど」
「仕方ないよ。私地味だから忘れられやすいもん」
「でも久しぶりだね。卒業式以来かな?」
「そうかな? それじゃあ覚えてなくてもおかしくないよね……、やっぱり私は地味なんだ……、驚きの白さなんだ……」
「だからゴメンって……」
何故かデジャヴを感じる。気のせいだよな、後ろにスタンドみたいにネガティヴなコッコが見えるのは気のせいだよな?
「うふふ、冗談ですよ。焦った顔面白かったよ」
「ひどいなぁ……」
悪戯が成功したみたいに笑う。なんか僕手玉に取られてる感が凄いんだけどな……。
「碓氷さんって今何してるの?」
ふと気になって聞いてみる。
「それは……、瀬川君と橘先生の結婚式を待ってます」
天然かッ!?
「いやそういうつもりで聞いたんではは無いんだけど……」
「冗談よ冗談。実は今家事手伝いなの。あまり自慢できる話でも無いけどね。あ、でももう直ぐ新しい職場に移るよ、まあ長い間はいないかも知れないけど。南雲君は何してるの?」
「先生やってる。御崎原で教鞭ふるってるよ」
「御崎原、か……」
碓氷さんは意外そうな顔をして考え込む。御崎原が引っかかるのかな?
「どうかした?」
「い、いえっ! 別に何にもないよ。ただもう少し南雲君とは付き合うことになりそうだな……って」
「なんじゃそりゃ」
「ううん、いずれ分かるよ。その時をお楽しみに、ね」
変な碓氷さん。
「行こっ! そろそろ会場に入れるみたい!」
「ちょっ!」
碓氷さんに手を引かれて会場へと入っていく。この光景だけみたらカップルと思われそうだな。