王様の言うとおり!!~Tyrant game~
「一週間お疲れ様乾杯!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
生徒会長の座を巡り水泳対決に向けて三人の人魚(笑)は溺れながらも水に慣れていたが、僕の仕事は別にカナヅチ三人組の面倒を見ることだけじゃない。例えば今の時期だと、教育実習生への指導だ。
ここんとこ選挙やらで忘れられがちだが、教育実習生の皆様も実習が終盤に近づいてきていた。実習を通して各々がどのような物を得たかは僕には知り得ないが、たまにはパーッと行こう! ってことで、理事長からお小遣い(諭吉ウン枚)を貰い、お疲れ気味の実習生のみんなを労おうと飲み会を企画したのだ。メンバーは八人の実習生と、僕、加納先生、キリのいつもの若者三人組で近くの以心伝心みたいな名前の居酒屋で飲み明かしているというわけ。ただの飲み会と思うかもしれないが、実習生のメンタルケアも教師の仕事の一つだよ。
まあ僕はそこまでお酒に強くないのと、加納先生は禁止令を理事長直々に頂いているので、実際に飲んでいるのはキリと実習生ぐらいだ。さて、今宵は酒の勢いで何が飛び出るか。楽しみなような怖いような……。
――
何でやねん。
「王様ゲーム!!」
「「「「いえーい!!」」」」
「い、いえーい……」
どうしてこうなった。初めの内は確か互いに実習の愚痴や勉強になったことなど意見交換が行われていたはずだ。「○○先生の手つきがやらしいし息が臭い!!」
「指導案が上手く書けない!」
「彼氏に振られたっ!」
「麻生さんマジ可愛い」
とまあ普段いえないことや、凄いリアクションに困る個人情報を話してくれた。ただ伊織に手を出されたら困るので、不届き者には、タバスコ入りのブラッディーマリーを飲んでもらったが。
そんな折りに、急にキリが、
「すっげえどうでも良いけどさ、男女四人ずつって合コンみたいじゃないか?」
と本当にどうでも良いことを言ったんだ。まあアイツも深い意味で聞いたんじゃないだろう。その話題はそこで終わるはずだった。しかし、我々は一人危険な猛獣を飼っていることを忘れていた。人は彼女を尊敬と畏怖の念をもって合コン戦士と呼ぶ。
「王様ゲームがしたいれふ!!」
そう、加納先生が止めの一撃を繰り出したのだ。
「てかアンタ何お酒飲んでんだよ! いつの間に注文したんだよ!」
「アンラがトイレに行ってる間に有り難く頂いたわ」
「理事長ごめんなさい! 僕にはこの蟒蛇を倒す手段がありませんした!」
目を離したスキにちゃっかり酒を頂いている。一杯しか飲んでないのに、加納先生はベロンベロンに酔っていた。誰が介抱するんだと思ってるんですか。
「王様ゲーム行っちゃうぅ?」
「行っちゃうぅ!!」
「王様ゲーム!!」
「「「「いえーい!!」」」」
と本来の趣旨から離れて、王様ゲームという合コンの定番ゲームをすることになってしまった。
王様ゲーム、いつごろ生まれたかは定かではないが、くじを引いて王様になったものは命令が出来る。王様の命令には絶対という不可侵の掟があるのだ。
参加者
南雲航 地歴教師
加納早苗 物理教師
桐村賢治 音楽教師
赤城陽菜 英語科目実習生
栗山芳樹 保険体育科目実習生
春原晋爾 英語科目実習生
園田真弓 音楽科目実習生
永野良一 理科科目実習生
氷上三琴 地歴科目実習生
真中慶一郎 数学科目実習生
三宅みゆき 美術科目実習生
ラウンド1
「王様ゲーム!!」
「「「「いえーい!!」」」」
真中君の合図のもと箸が配られていく。全員に配り終えると、
「王様だーれだ!!」
僕は四番だな。
「あたひよぅ!!」
最悪だああああ!! 初っ端から最凶に当たっちまったよ! 暴君や! 暴君がおるでぇ!
「ほれひゃあ王様のめいへいを発表しまふ!! 四番があらひにキスしなふぁい!!」
しかも僕だあああああああ!!
「「「「……早くね?」」」」
いきなりチッスという空気の読めない命令、しかも自分にという暴君っぷりを見せる。
「なにほう! 命令は絶対なのよう!!」
「あ、ああ! 四番だーれだ!?」
正気に戻った真中君が確認するように言う。
「僕だ……」
「「「「ドンマイ」」」」
実習生達は意気消沈モードの僕を励ます。
「マジでか……」
事情を知っているキリだけは複雑な顔をしている。
「ちょっとぅ、四番だれよぉ!? あらひにチッスをしなひゃい!」
暴君は我慢できないといった感じだ。この万年男日照りが……。
「行きますよ……」
「ってなんで南雲が来るのよぅ! 四番が来なひゃいよぉ!」
「僕四番なんですけど……」
「へっ?」
素に戻って驚く加納先生を無視して唇に触れる。
「「「「……」」」」
実習生達は思いがけない光景に驚いているようだ。
「ま、あの二人には色々あったんだよ。触れてあげないのが優しさだ」
キリが微妙なフォローを入れる。そう含みを持たしたら逆に煽りそうな気がするが……。
「ばたんきゅ~」
暴君も予想外の展開に頭が追いつかず倒れてしまう。
「さあ、王様ゲームを再開しようか」
もう何も恐くない。恐くはない。
ラウンド2
「王様だーれだ!!」
「はいっ! 俺で~す!」
今度の王様は永野君らしい。ちなみに僕はまたしても四番だ。なお、加納先生は再起不能のため、彼女を除いたメンツで続けている。
「それじゃあ……、四番と八番が見つめ合って愛の告白をするっ!」
また来たああああああ!!
「また僕かよ……。四番で~す、八番は誰だ……」
神よ、願わくば女子が良いです……。
「俺だ……」 神は死んだ。なんでキリ相手にやらにゃならんのだ! しかもさっきから教師ばっか当たってないか!?
「はぁはぁ……」
園田さんが何故かはぁはぁしている。具合でも悪いのか?
「桐村先生×南雲先生……、いや南雲先生のヘタレ攻めも……」
そうですね、具合が悪いみたいです。特に頭の中が腐ってますね!!
「はぁはぁ……、早くしちゃってください……」
「やらなきゃダメか?」
キリはスッゴく嫌そうだ。もちろん、僕も嫌だ。
「さあ! 早くその熱くたぎるリビドーをぶつけ合っちゃって!!」
王様よりもテンションが高い腐女子はもう止まりそうにない。彼女の脳内では一体何が起きているのだろうか……。レスリングか?
「やるよ……」
「あ、ああ……」
バラの花が咲きそうだ……。
「俺さ、初めてお前を見たときから……」
「僕も君にあった時電流が走ったよ……」
「南雲……好きだ……」
「僕もキリじゃないといやだ……」
吐き気しかしねえ!!
「そこよ! 押し倒すのよジョー!」
鼻血をナイアガラのように出しながら腐女子が騒いでいる。出血多量で死ぬんじゃね?
ラウンド3
「男性六人と女子三人でもするの?」
もはや合コンですらない。
「ぐぬぬ……」
男子実習生諸君は悔しそうだ。さっきから一部を除いて得しない命令ばかりだし、しかも次々脱落者が出てきている。
「こうなりゃやけだぁ! 王様だーれだ!!」
浅ましいほどに、男って馬鹿。
「あっ、僕だ」
ようやく四番から離れる。んだ? メール?
『四番と六番がキス』
真中君がこちらに目配せする。なるほど、汚いな!
「あ~、最後だろうし、四番と六番がキッス」
「来たあああああ! 四番でーす!!」
真中君はテンションマックスだ。で六番は誰だ?
「……俺だ」
体育科の栗山君が手を挙げる。彼は柔道の推薦で大学に行ったほどの良い男だ。オリンピックの強化選手にも選ばれていたはず。
「え? 真中君アベ趣味?」
「何でじゃああああああ!」
彼が指名した六番は栗山君だったのだ。
「何で!? 氷上さん六番だったじゃん!」
盗み見したな、コイツ。
「これ九番ですけど……」
氷上先生が見せたのは、『9』と書かれた箸。
『6』と『9』
「間違えたああああああ!!」
あ~あ、可哀相に。
「真中……、命令は絶対だ」
栗山君は何故か顔が真っ赤だ。
「た、助けて!!」
「真中君、」
「王様の命令は絶対だよ?」
「アーッ!!」
この日以来、真中君は王様ゲームがトラウマになったらしい。




