我慢できないこともある~Short short~
「やったー! 私泳げるようになったぁ!」
元気一杯な声が聞こえる。インストラクターの波田野さんの指導のもと、ここに一人カナヅチを克服したっ!
小学生が。
一方高校生はというと、
「あっぷあっぷ……」
「た……て…」
「ブクブクブク……」
重石をつけているわけでもないのに、プールの底の悪魔に飲み込まれていくように沈んでいく。ビート板を無くしたら、ご覧の有り様だ。小学生の方が上達は早かった。
「人間の体は浮くように出来ていないの!」
「泳げないんじゃなくて泳がないんです!」
「ハンガリー人はみんな金槌なの!」
三者三様の非常にくだらない言い訳をする。そうだね、後の二人も残念なんだけど、とりあえず理名ちゃんはハンガリー人に謝ろうか。あの国確か水球が強かったと思うぞ。それ以前にあなた日本人だろうが。
「アイツら泳げないんだぜ! だっせー!」
ああ、子供は無垢故に残酷だ! 無知というのは恐ろしい。君は小学校一年にして生涯もののトラウマを受けることになるぞ!
「悔しかったら泳いで……ヒッ!」
僕は彼が見た光景を知らない。だから彼が何で世界の終わりみたいな顔をしているのかも、三人が般若のような形相で金槌を持っているのも知らない。……知らない。
「うわあああああああああ!!」
何があったと聞かれたらこう答えよう。第三次大戦だ!
――
「ハンマーブロス怖いハンマーブロス怖いハンマーブロス怖いハンマーブロス怖いハンマーブロス怖い……」
「あのね、相手子供じゃんか」
「ハンマーブロス怖いハンマーブロス怖いハンマーブロス怖いハンマーブロス怖いハンマーブロス怖い……」
「見てよ。一生トンカチやらハンマーやらに彼は脅えないといけないわけよ。もうスマブラ出来ないよね、デデデ大王が怖いよね」
「「「だって……」」」
「言い訳をするな!! 確かに彼の言い方はすっげームカつくよ。けど彼らはまだ空気を読むとか年上を立てるとかの処世術を知らないわけよ。それを暖かく見守ってやるのが、生徒会長じゃないかな?」
「「「!?」」」
「さあみんなで謝りに行こう。さすれば赦されるさ」
「「「ゴメンナサイ」」」
「なんだよそのゴメンナサイは! もっとちゃんと謝れよな!」
「「「ハンマーチャーンス」」」
「ヒィィィィィィ!!」
大人気ねー。




