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崎校の教師達~Room of clergymen~

先生だってつらいんです。

 阿鼻叫喚の地獄絵図から何とか逃げ出してようやく学校に着いたときには既に11時になっていた。1時間の遅刻です、社会人の域に達していませんね。いや、逆に考えよう。あれだけの災難にも拘らず遅刻は1時間程度で済んだ、のだと。寝坊はともかくとして後半のドロップキック、サンズリバー、内ゲバ騒動は完璧に僕のせいではない。情状酌量の余地はまだあるはずだ。



「で、誰がそんな言い訳を信じるとでも? んん?」

 はい、無理でしたー。職員会議終わってましたー。何食わぬ顔で職員室に入ったら普通にお説教タイムが始まりました。

「南雲先生あなた二年目でしょ。いつまで学生気分でいるんだ。もっと聖職者としての自覚を持って生徒達の鑑となっていただきたい。まったく、これだからゆとり世代は……」

 グチグチと生徒指導の藤堂にあーだこーだ言われる。なんで先生が生徒指導に説教されにゃならんのだ。後ゆとり世代とか余計なお世話じゃ。と思っても、正論を言われているので何も返す言葉がなく(ゆとりうんたらはどうかと思うが)ナイーブになっていると、意外なところからフォローが入った。

「藤堂先生は聖職者を名乗っちゃ駄目ですよー。だってキャバクラはしごする様な人なんですからー。イヤホント気前いいですよねー。あれだけバンバンドンペリ空けちゃうんですから。ケド、それとこれとは話が別ですよー。あのお店おさわりパブじゃないですからねー。あっ、これがホントの性職者。なんちって」

 訂正。フォローどころか非常に軽いノリでとんでもないことを口に出した。

「み、三宅先生、何をおっしゃってるのやら……」

 あるぇ? 藤堂先生、図星っすか?

「あれ? 知りませんでした? 先生のお気に入りのミユキちゃんですけど、あの子私の妹なんですよー。」

 ミユキちゃんという言葉に反応し、見る見るうちに真っ青になっていく。血の気が引いてよかったですね、高血圧で苦労していたんですから。

「ミユちゃんからよく聞きますよー。ドンペリをバンバン空けるけどホント相手したくない客がいるって。親父ギャグは寒いわ、セクハラしてくるわっていつも愚痴を聞かされるんですよー。確かそのお客さんはまっき「とにかく!! 今後このようなことの内容にくれぐれもお願いしますよ!」」

 藤堂先生は話を遮り、僕に釘を押した後、職員室にいづらくなったのかそのまま退室してしまった。プライベートの片鱗を暴露された藤堂先生に同情すると共に、内心ざまあとほくそ笑む。

「三宅先生、ありがとうございます」

「気にしないでいいよー。私も少しイラッとしてつい出来心で暴露しちゃっただけだしー、まあ他の先生のもあるんですケド……、南雲先生聞きたいですかー?」

 職員室内の温度が一気に下がった。ちょっとまって、先生方皆弱みにぎられれてんの!? 何人かマナーモードかってぐらい震えているし……。って僕も何か握られてる!?

「さー、どうでしょー?気になりますかー? 聞いちゃえば楽になりますよー。極楽浄土的な意味で」

 どういう意味で楽になんの!? しがらみから開放されるってこと!? ここまで引っ張られたら気になってきたが……

「いや、遠慮しときます」

 世の中には知らないほうがいいことが沢山ある。知ってしまったときに残るのが後悔だけならまだ幸せなのだ。

「ざんねーん。それじゃあまた聞きたいときに聞きに来てねー。たいていの情報なら揃ってるからさー」

「あなたいったい何者ですか……」

 先生ははにかみ、

「ただの国語教師ですよ」

 そう言って三宅先生は職員室を退席する。絶対あの人ただの国語教師じゃねえよ……。


「ずいぶんな重役出勤だな、南雲大先生よぉ」

「うるせー、こちとら色々アンビリバブルな事が起きすぎたんだよ」

「なんじゃそりゃ」

「曲がり角で女の子にぶつかりそうになったら思いっきりドロップキックをかまされるわ、お巡りさん混ざってのうちゲバ騒動に発展するわ、挙句の果てには今年受け持つクラスの一人が高校生にもなって闇属性暴力少女という超展開の連続だったんだよ。僕1年間あいつの面倒見きれる自信ないぞ……」

「なんだ、そのラノベ的展開は……」

「僕もそう思う」

「生徒といえば、ほら、お前のクラスにいたじゃん。天才ヴァイオリン少女。俺あの子の前で授業できる自信ないぞ……。ったく、なんでまた崎高に来たのかねぇ。この学校ブラバンぐらいしかないぞ。ここから4駅向こうに音楽科のある高校あるというのにさ……」

 二人で溜息をつく。すると職員室のドアが開き、

「桐村せんせーい、合奏を始めたいのですが……」

「あー、了解。今から行くわ」

 吹奏楽部員だろうか。呼ばれた桐村は楽譜やらを持って職員室を出て行く。

「キリ、なんか今年はお互い大変そうだな」

「今年も、の間違いだな」

「それも一理ある」

 これから1年間待っているであろう大変な未来に苦笑いし、キリを見送る。

 キリ――と呼んでいるのはこの学校で僕ぐらいだが――こと桐村賢治(きりむらけんじ)はうちの高校に昨年赴任した音楽教師である。僕と同い年の新人教師ということもあり、僕とキリ(時々加納先生つき)よく一緒に飲んで愚痴大会をしていた。モンペがどうとか彼女ができないやら、加納先生どうしようとか、こいつとは気軽に話せるため崎校の教師陣の中では一番仲がいいだろう。なんだかんだ文句を言うだろうがあいつも同じことを思っているはずだ。

 決してBL的な意味じゃないのでそこんとこ間違えないように。 

 キリは音楽教師ということもあり予想通り吹奏楽部の顧問をしている。自慢させてもらうと、うちの高校は全国でも結構な名門校らしい。全国大会にも何回か出場したことがあると聞くから相当なものなんだろう。そういや僕が在学していたときにも一度全国大会に進んでいた気がする。

 名門校の吹奏楽部の看板というのは決して軽いものじゃない。むしろ僕みたいに、天文部で伊織の持ってくるお菓子を満喫しているほうが異常なのだ。しかもキリはもともと弦楽出身らしいから、吹奏楽は得意分野じゃないそうだ。一見おちゃらけているように見えて、あいつもあいつなりに苦労している。

「吹奏にしろオケにしろ一度舞台に立っちまったら、その瞬間から学年だとかそいつが歩んできた経緯とか関係なくなるからな。いくら俺が新米教師だからって言ってもさ、そんな都合は観客や審査員にとっては知ったこっちゃねえ。崎校のブランド背負ってんだからウダウダ言ってらんねえよ」

 いつぞやの飲みであいつはそう言っていた。まったく、よく出来た同僚だよ。

「南雲先生、理事長がお呼びですよ。なんでも重要な話だって」

 教頭に呼ばれて現実に意識を戻す。重要な話ってなんだ? 姉さんのことか?

「分かりました。今から向かいます」

 そういって僕は理事長室に向かう。

 でもその前に。

「教頭先生、今回の賭けも僕の勝ちでしたね」

「なっ、2ヶ月で終わっただと!?」

「ええ。という事で食堂Aセットはゴチになります」

「ぐぬぬぬ……」

 教頭は悔しそうにこちらを見つめる。あの、初老の男性のそういう顔、需要ないんで結構です。

「チッ、分かりました。賭けは賭けですからね、もってけドロボー!!」

 そういって食件を6枚頂く。食券、ゲットだぜ!!

「あざーす!!」

「これで何連敗だよ……、って今気付いたが加納先生は? 今日の会議にいませんでしたが」

「二日酔いでダウンしてるんじゃないですか?」

「藤堂先生みたくあーだこーだ言いたくないですけど、加納先生には困ったものですね……。賭けの対称にしている人間が言えた台詞でもないですが」

 僕と教頭は加納先生に彼氏が出来るたびに、こんな賭けをしている。いつまで続くか○ヶ月で賭けてみよう!ってな具合に。因みに今のとこ4戦中3勝1敗。食券を財布に入れようとすると、ピンポンパンポーンとチャイムが鳴った。

「シスコンに定評のある南雲先生、好みの女性はなんだかんだ言いながら姉な南雲先生、とっとと理事長室にきやがれ。1分以内にこなかったらさらに恥ずかしい秘密暴露な。いーち、にーさーんじゅー」

 ってやば!! 呼ばれてたんだった!! 減給なんか冗談じゃない! 僕は今日二度目の全力ダッシュをするのであった。

ちなみに桐村先生は部員達からはキリケンと呼ばれ愛されています。

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