ばた足人魚~Mermaid?~
「生徒会長は水泳勝負で決めよう。どの程度までカナヅチかは知らないが、条件としては同じ位だろう。そもそも自分の苦手と向き合わずして生徒会長が務まるわけがないしな。何より美少女の水着は萌……、ゲフンゲフン。まあ再選挙をしたところで結果は変わらないだろうしな。君たちも覚悟を決めたまえ」
生徒会長が生徒のトップなら、理事長は学園のトップだ。彼女に逆らうこと、それは即ち……。ああ! 口に出すのも恐ろしい!
「「「分かりました……」」」
明らかに不服そうだが、ここで逃げたらこれまでの頑張りが無駄になる。支えてくれたクラスのみんな、自分達に期待してくれた308人の生徒達を裏切ってしまうのは、彼女達としても許せないことだろう。最初は各々不純? な動機で会長選に臨んでいたが、いつの間にか会長候補者としての自覚も生まれてきたようだ。
「よし! その返事を待っていた。試合はそうだな、一週間後の金曜日の放課後としよう。その日は教育実習の最終日だな。うむ、ちょうどいい区切りではないか。君たちには試合までの間プールで練習していただいても構わない。プールの使用については、水泳部に私から直接お願いしておこう。流石に大会も近いから貸してくれるかは難しいところだが、無理なら麻生さん、一つプールを工面してもらいたい」
理事長はさも当たり前のように伊織に頼む。プールまで生徒に頼むのかよ。
「……、分かりました。少し掛け合ってみます」
別に拒絶してもいいだろうに。僕としては、むしろここで一発ガツンと決めて欲しかった。
「私からは以上だ。南雲先生からはあるか?」
「いや……、特には」
僕があれこれ言ったところで、これはもう覆しようのない決定事項だろうしな。僕一人のちっぽけな力だけでは、残念ながら何かが変わるわけでもないのだ。
「そうか。それではこの場を解散としよう。私も早く帰って取り溜めたアニ……メの表現の自由について討論された番組を観なければならないんでな」
あんたの場合、討論よりアニメそのものだろ。無理に教育者ぶるなよな。
「ふん、私とて討論ぐらいするさ」
「あんたの場合、どうせ二次嫁討論だろ」
後ひと月もすりゃ嫁の名前が変わっているだろ。
「何か問題でも?」
「べっつに~」
――
翌日。今日は土曜日と言うこともあり、学生諸君を憂鬱にさせる授業は午前中に終わる。ホームルームが終わると、解放された笑顔を見せる皆様は、各々自由に過ごしてもらっていいのだが、三名ほど浮かない顔をして放課後を迎えるのだった。
「さあ! プールに行こう!」
対照的に僕は頑張って明るく宣言する。頑張らないと、僕も彼女達みたいに気が滅入りそうだ。
「「「……」」」
全員無言。元気が有り余りすぎて台風と呼ばれる少女も、今回に限っては微風もしくは無風状態だ。まあそれもその筈。彼女達は悪魔の実を食べてしまったらしく、泳ぐことが出来ないらしいのだ。学園を代表する三人の美少女が泳いでる姿は、想像するだけでは、まるで人魚たちの競演と言っても良さそうだけど、実際の所はライフセーバーが常勤必死な、ばた足で溺れるカナヅチさん達だ。全く泳げないというのは、嘘だと思っていたけど、
「あっぷっぷ……」
「いき……でき……」
「ブクブクブク……」
三者三様の気泡を生み出しながら、足の着く浅いプールに溺れていく。三人とも五メートルも行ってないぞ。
「ははは……、これは手強そうですね……」
苦笑いを浮かべながらそう言うのは、水泳インストラクターの波田野さん。水着がよく似合う健康的な美人だ。うちの高校のOGらしく、わざわざ彼女達の指導のために来て下さったのだ。ちなみに、僕たちは今学校のプールを使っている。水泳部はどうしたよ? って話だけど、彼らは麻生さん提供の設備の整ったプールで快適に練習している。大会前ということもあり、良い環境を提供する代わりに、学校のプールを貸してもらおうと言うわけです。
プールと言うことで、もちろん姉さん達も水着に着替えている。着衣水泳もそそるっちゃあそそるが、別にそうする必要は米粒に書かれた般若心経レベルもない。
水着を着てるのは、アニメとかで言うサービス回ではあるが、彼女達は全員スク水というなんともまあマニアックなコスチュームを身にまとっている。ただまあ、姉さんは何つうか、目に毒だ。特に、こぼれそうな胸部が。
「こう君、何みてるの?」
ハッハッハ、自重しろ僕。
「う~ん、まずは水に慣れることが先決ですね。とりあえず水中を歩いてみましょうか。足はつくので怖くないと思います」
波田野さんは小学生相手に教えるみたいに指導を始める。この人達がビート板がいらなくなるまでどれぐらいかかるのやら……。
結局この日は、水に慣れることだけで終わった。
「みてみて、前転!」
水中で前転出来るぐらいには水に慣れたらしい。これ、間に合うのか?
――
日曜日。クラブに所属していない生徒達にとっては休息の一日ではあるが、ここに例外がいたりする。
「さて、今日はビート板を使いましょうか。でもまずは息継ぎから練習しましょう」
「ブクブクブク……」
「あのおねえちゃんたちおぼれているよ~」
「へたくそだ~」
「ブクブクブク……」
子供達のヤジが飛ぶ。僕達は今、小学校のプールを使っているのだ。高校のプールでは溺れてしまったのもあり、子供用のプールで息継ぎの練習をしている。まあ波田野さん自身も忙しいこともあり、予定されていた小学校の子供達への水泳指導に姉さん達が参加していると言った方が良さそうだ。
「ブクブクブク……」
子供用プールで、学園のアイドル三人が、仲良く並んで水に顔を浸けているというのは、非常にシュールな光景だ。他の誰も知らない彼女達の一面と考えると、周りに自慢したくなるな。
――
「おねえちゃんたちプカプカしてる~」
「あれしんでんじゃないの~」
ひどい言われようだ。姉さん達は達磨のように丸くなり、プカプカと浮いている。一瞬だけ土左衛門という縁起でもない言葉が頭をよぎったが、頭を振って忘れようとする。
「はい行きますよ~、沈みま~す」
波田野さんはマリモみたいに浮いている三人を軽く押さえて沈めていく。そういや僕も小さい頃こんな感じで水に慣れさせられた気がする。
――
「はい。それじゃあばた足の練習をしましょう」
プールサイドに三人並んでばた足をしている。素人目から見てもばた足と言うより、悪あがきに見える
「麻生さんは膝が曲がり過ぎていますね。少し曲がるのは仕方ないですが、一度けのびしてもらってもう一回ばた足をしてもらえますか? 香取さんは力が入りすぎですね。上げるときは力まず自然とのばして下さい。そうです、その調子です。南雲さんはそうですね……、自転車を漕いでいるみたいです。膝を曲げすぎですね」
的確な指示の下、姉さん達のばた足はまだ見れるレベルになっていく。教え方なのか、受け取る側なのか分からないが徐々に水泳らしくなってきた。
「そうですね。それではお待ちかねのビート板です」
ビート板によって浮力を補助された姉さん達は、息継ぎとばた足と今日指導されたことを駆使して泳ぎ出す。今は良いけど、後々大変になるだろうしな。精々ビート板があるプールを楽しみなさいな。地獄はこれからだ。




