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どちらの選挙ショー~The broadcast of political views~

「出るつもりは無かったんです。でも会長には夏休み最初の一週間に宿泊研修があるんですよね? その間の天文部活動を潰されたくないので敢えて立候補しました。まあ周りがあまりにもしつこかったのと現会長直々の御指名でしたので」

 と宣うのは、我らが天文部部長かつ俺の嫁麻生伊織。ギリギリになって彼女も会長選挙に立候補したのだ。

「ってちょっと待って。同じクラスから二人生徒会長立候補者を出すのは出来ないんじゃないか!?」

 会長選はクラスをあげて行われる。同じクラスから二人出したらどっちつかずになるだろ? ちゃんと規約にも書いてたはず……。

「それですけど、香取さんが変えました」

 またかよ!!


『同じクラスから出せないなら違うクラスが推薦すればいいじゃない!』


「ということで僕は六組ではなく五組から出馬することになりました。五組の皆様も快く受け入れてくれてなによりです」

 ありかよそんな反則技……。

 とまあお蔭様で、御崎原史上最大級の会長選挙が行われることになったのだ。その盛り上がりっぷりはお祭りのようで、ある生徒達は誰が会長になるか賭けており、またある生徒はグッズ販売で儲けるという漫画の選挙みたいになってきた。むしろ逆に治安が悪くなってないか?



――



「面白ければなんでもいい」 理事長は手を組みその上に顎を置き、ジャンプの編集長みたいなことを言う。ただそのポーズはどちらかと言うとどこぞの司令官みたいだ。

「面白ければって言いますけど、僕はまったく面白くないですからね!」

 一々巻き込むのはそろそろ遠慮してほしいな。教職だけでも手一杯なのに、わけの分からない展開が続くのは健康的じゃないよ。

「嫌よ嫌よも?」


「嫌です」


「なんだ、つまらんヤツだな。」

 スンマセンね。期待に応えるような返答が出来なくて。


「しかし今年の選挙は梅雨のジメジメも吹き飛ばすぐらい派手になりそうじゃないか。何たって学園を代表する三人が会長の腕章と君を巡って戦うんだ、これほど面白いショーはラスベガスに行っても見れないぞ。それに今年から選挙期間に新しい試みを考えている。これがテレビなら高視聴率間違い無しだ」

 選挙をショー扱いかよ。まあ言わんとしてることは分からなくもないよ。今年の場合人気投票みたいなもんだからな。公約云々より見た目で決める人がほとんどじゃなかろうか。てか新しい試みってなんだ?

「なんでもいいだろう。その時になれば分かる。それで学園が盛り上がれば言う事はない。近年のマンネリを打破してくれるのであれば私は誰がなってくれても構わない。まあこれは選挙権の無い理事長としての意見だ。現場の意見は違うのだろう?」

 生徒の人気と教師の人気には違いがある。生徒たちからは理名ちゃんが一番人気らしいが、教師陳からのウケはよろしくない。彼女の素行を考えたら当然な気もしないでもないが、退屈を嫌う生徒たちにとって彼女は流星の如く現れたヒーローだ。何より退屈を嫌い面白いことに全てを賭ける。生徒たちの代弁者と言えよう。

「まあ君は夜道で刺されないように気をつけるのだな。あの三人に好かれているんだ、全校生徒、特に男子の嫉妬はすべて君のところに来るだろう。モテる男というのも考え物だな、早いうちに答えを出すべきだ」

 真顔で怖いことをさらっと言う。

「き、気をつけまーす」

 僕はそれしか言えなかった。胸元にジャンプでも隠しておこうかしら?


「南雲先生」


「なんですか?」


「ゲームの深夜販売に代わりに行ってくれ」


「自分で行け!!」


「それは困る。私学の理事長が並んでまでエロゲを買うなんて前代未聞のスキャンダルだ」


「んじゃやんなよ!!」



――



 選挙期間に入り学校はより盛り上がりを見せる。学園祭でもここまで盛り上がることはあったか? ってレベルだ。知らない人がみたらアイドルでも来たのではないかと間違えるんじゃないかな?

 もちろんそれは学園のアイドルが三人立候補しているということもあるが、何よりも理事長が用意した新しい試みが大きいのだろう。

 例えば三人の討論会を生放送する。



――



「第一回生徒会長立候補者公開討論会を始める。議長は私御崎原峰子が、書記は私の秘書の木村が務める。異議のない方は拍手をもって承認してくれ」

 まあ朝までやってるあの番組みたいなことをしようというわけだ。あの番組基本的に人の話聞かない人ばかり出るんだよな。


「さて、今回の討論テーマを発表する。テーマはこちらっ!」


「げんぱ」


「ストーップ!!」

 その話題はデリケート過ぎるだろ!! チェンジチェンジチェーンジ!!


「玄白の解体新書について討論してもらおうと思ったんだが」

「ターヘルアナトミア!?」

 何を討論すんだよ!! 杉田玄白の討論会を生放送するってどんな暴挙だよ!!

「冗談だ。テーマはこちら、カラオケでのアニソンの是非について討論してもらおう」

 もうなんでも良いです……。

 ちなみに、三人ともアニソンに詳しくないため、どこからがアニソンになるかというテーマに変更されました。勇者王はガチだと思う。



――



 例えば、PVを流す。



――



 選挙期間になると、テレビでも政党のCMを流したり、選挙に行こうと言う放送が流れる。あの船のCMは個人的に沈没してほしかったが、このような宣伝活動は効果的だろう。映画研究部やクラスの協力を経て、それぞれのカラーを出したPVが出来上がった。


――


Case1 姉さんの場合

 映されたのは暗闇。バックに美しいヴァイオリンの音楽が流れる中、ライトアップされる。そこにいたのは、

『やあみんな! 南雲航だよっ!』

『村上ジョニーだ』

「そして私が、南雲美桜! 生徒会長に立候補しちゃいました!」

 ビデオを見ると、姉さんが腹話術をしているように見えるが、実は姉さんに隠れて町田が人形にアテレコしている。姉さんはそれに合わせて人形を動かしているのだ。

『どうして美桜は会長に立候補者したんだい?』

 僕に似た人形が話す。ちなみに名前も南雲航と完璧に僕がモデルだ。『南雲先生と旅行が出来るからか?』

 いきなり核心突きやがったよ!!

「違うよ! 失礼しちゃうわ!」

 いや、実際そうでしょうが。

「私が生徒会長に立候補した理由、それは皆が誇れる学校にしたいからです。卒業して歳をとっても色褪せない思い出って素敵だと思いませんか? 私はまだ一年生です。正直言うとまだこの学校のことを分かってないと思います。ですが私だからこそ出来ることもあるはずです。」

『『それは?』』

 町田が合いの手を入れる。前から思ってたんだけど、人間同時に二つの声を出せるのか?

 姉さんはニコッと笑い、

「皆さんが実現したい夢を叶えるために、走り回りますよ」

『意見箱でも作るのかい?』

「いいえ。意見箱を作らなくても、」

「皆さんの要望は私の耳に入りますよ」

 そう言って姉さんは、

「簡単にでしたが、私の政見放送を終わらせて頂きます」

 と締めくくる。シンプルな内容だったが、クセも無く姉さんの主張を通せたんじゃないかな。しかし茅原が意外に協力的だったな。姉さんからの演奏依頼を無償で引き受けるなんて。40億の音色がタダとはお得だ。



Case2 麻生伊織の場合

 日本一の富豪の孫ということで、小泉さんとか県知事とかが出てくるんじゃないかと思ったが、そんな生徒会選挙ごときに大金を使うなんて事は無く、伊織一人で勝負に出たようだ。

「さて、こちらの写真をご覧下さい。一枚目の写真と二枚目の写真は同じ学校です。さしずめビフォーアフターと言っても良いかも知れませんね」

 彼女が提示した写真は、不良高校と呼ばれた学校が再生したというものらしい。

「この学校にはヤクザの娘の先生だったり、元暴走族の先生もいません。生徒たちと先生方が真剣に向き合った、それだけで変わるのです」


「御崎原高校は悪評等もたたない良い学校です。また今年は変革の年と言って良いほど、カリキュラム等が見直されています。それでも伝統は守らなければなりません。古きを知って新しきを知る必要があります。」


「私が生徒会長になった時には、風紀の見直しに取り掛かります。堅苦しいと思われるかも知れませんが、10年後、20年後も素敵な学校であって欲しいのです。皆さまが気持ち良く過ごせる学校作りに力をいれます」

 模範生の伊織らしい公約だ。生徒たちのウケを狙わず、真摯に自分の公約を伝えたところに好感が持てる。惚れた弱みかね?



Case3 香取理名の場合

 彼女に関しては、本当に嫌な予感しかしないのだ。そして嫌な予感は的中する。

 これから下は、スタン=ハンセンの音楽を流して下さい。


「そこの不良A! 何制服着てタバコ吸っとるんじゃああ!」

「そこのチャラ男B! 嫌がっとるんが見えんのかあああ!」

「そこのJKC! スカートが短い! 見せパンかあああ!」


「そこのサラリーマンD! 痴漢は犯罪じゃあああ!」


「そこの国会議員E! 貰った金はどこ行ったあああ!」


 何と言うか、ジェノサイドPVなのだ。学校だけに留まらず、町、電車、挙げ句の果てに永田町まで体行ってバッタバッタと悪を薙ぎ倒していく。


「おっほん! 正義の味方、香取理名よ!!」

 暴力を持って正義を名乗らないでほしいかも。


「この学校に嵐を吹き起こしに来たわ! 私が生徒会長になった時には、365日学園祭学園生活を提唱します!! 毎日が楽しく刺激的に過ごせるように尽力するわ! そうね……、学園行事を増やします!! この学校だからこそ出来る行事をあなたたちに提供するわよ!! そこの宇宙人F! この国の通過使いなさあああい!」


 茶番だ……。だから彼女のロケハンは異様なまでに疲弊していたのか。けど生徒たちには大ウケなわけでして、予想屋によると一番人気らしい。ホントに勘弁してください。



――



 良くも悪くも、今回の選挙は有権者たる生徒たちに非常に近い距離で行われた。峰子さんの思いつきに振り回された感がどうしても否めないけど、結果的に選挙への関心が高まったと言えるだろう。

 日に日に三人の活動もエスカレートしていき、そして運命の日がやって来るのだった。

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