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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
南雲姉弟と氷上姉弟
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生徒会役員志望共~Trio~

「どうして生徒会選挙に出ないのよ!」


「どうして生徒会選挙に出なきゃならないのよ!」


 生徒会長立候補者募集期間も明日が最終日というギリギリになった今日、朝っぱらから元気な理名ちゃんが今日も熱烈なる歓迎にやってきた。しかしそれは“迷惑”とも言うものだが。

「普通ここまで来たら受けて立つわ! の一言があっても良いでしょ!?」

「ごめんなさい。貴女の普通と私達の普通は違うの。自分の物差しで計らないでくれる?」

 ごめんなさい。その言葉、そっくり姉さんに返します。普通の姉弟は、ガチで婚姻届なんか用意しませんし、勝手に役所に提出しようとしません。


「あ、アンタにだけは普通を語られたくないわ!」 それはごもっともですが、僕からしたら、アンタら二人ともアブノーマルですよ。

「また来るわ! その時には良い返事を期待しているわ!」

 理名ちゃんは捨て台詞を吐いて教室を出る。


「はぁ、あの子も懲りないなぁ」

 姉さんは思わず溜息をつく。懲りないのは貴女も一緒です。

 しかし忘れがちだけど、理名ちゃんは姉さんより年上なんだよね……。年上相手にあの子ってアンタ。


「そこまで言われてんだから美桜も出たら良いのに。アタシ応援するよ?」

 毎日しつこいぐらいに勧誘に来るので、クラスどころか全学年に姉さんの名前は知られてしまった。中にはもう投票すると言っているヤツもいる。そんなことしても無効票になるんだけどな……。

 もろに被害を受けているうちのクラスの中にもいっそのこと姉さんを擁立しようという動きがある。尤も、本当に姉さんに学校を良くして欲しいと思っているのはごく少数で、実際のところは、良いところに退屈凌ぎが出来るというところだろう。まったく、うちの姉さんをなんだと思ってんだか。

「ありがと。でも私生徒会長に興味ないんだ」

 そんなこんなで周りの期待を一心に受ける姉さんだが、本人はイマイチ乗り気ではない。贅沢な悩みと思うかもしれないが、僕としても姉さんに余り目立って欲しくない。どこから姉さんのヒミツがばれるか分からないんだ、ならみすみす目立つようなマネをする必要はないだろう。


「はぁ、どうしたものかね……」

 ついつい溜息をしちゃう梅雨前の昼下がり。この悩みも流して欲しいものだよ。悪い子ではないんだよな、あの子も。


 姉さんを勝手に(恋の)ライバル扱いしている理名ちゃんは、姉さんが選挙に出ないなら、何をしでかすか分からない。わざわざ校則を捩曲げたぐらいだ。主に僕が碌な目に遭わないに決まってる。



――



「そういえば生徒会選挙の時期ですね。懐かしいなぁ。私これでも生徒会長だったんですよ」

 ジャジーなBGMをバックに、氷上先生は昔を思い返すように言う。今僕は、氷上先生の知り合いがマスターをしているという洒落たバーに来ていた。先日のお詫びをしたいとのことで、案内してもらったのだ。ちなみに、同じく迷惑をかけたとして、姉さんについてはお中元みたいなゼリー詰め合わせを渡していた。なかなか義理堅い子だ。しかし重度のブラコンでもある。

「南雲先生はお酒飲まれないんですか?」

「はは、情けない話だけど、お酒は苦手なんだ」

 強くないのもあるけど、いつも酔い潰れた加納先生の介抱をしていたからな。自然と酒を飲む習慣が途切れていった。家にも殆どないし、飲むとしても最近は先生方の飲み会か、月一回キリの家で飲むぐらいだ。

「じゃあ悪酔いしたら介抱お願いしますね」

「おいおい、そこまでは教育実習の範囲じゃないよ」

「それもそうですね」


 なお、先日の一件の後日談的な話だが、氷上はちゃんと姉と向き合ったらしい。


「恥ずかしい話ですが、あれだけマー君マー君言ってたのに、マー君と本気で向き合ったことって無かったんですよね。自分勝手に行き過ぎましたからね、それはマー君も逃げますよ」

 そう言う彼女の顔は憑き物が落ちたように、実に晴やかだった。



――



「さあ! 今日がラストチャンスよ! 生徒会長選挙に立候補しなさい!」

「もはや命令系じゃん……」

 生徒会長立候補者募集期間最終日。彼女は相変わらず姉さんに立候補するように迫っている。もしかしたらそろそろ人質とか出てくるんじゃないか?


「出ないって言うの?」

「出ないって言うの。流石にクドイよ?」

 周囲のみんなも慣れたもので、最初はいちいち行動を止めて二人のやり取りを珍しそうに見ていたのだが、いつの間にか飽きてきたのか、彼女が乱入して来てもいつも通りの日常を過ごしている。せめて助けてやれよ。ほらそこ、今姉さんから目を反らしたろ。


「飽くまで出ないつもりなわけ?」

「出る理由がないもん」


「そうねぇ……」

 理名ちゃんは腕を組んで考え込む。なんでかな? すっげー嫌な予感がする。


「閃いたわ!!」

 やめてくれー!

「ちょっと待ってて!」

 僕の心の叫びが届くことも無く、理名ちゃんはどこかへと走り去ってしまう。


「こう君、もしかしなくても私素直に選挙に出た方が良かったかも……」

「僕も今全く同じことを思ったよ。何かあったら姉さん責任とってよね?」

「結婚?」

「結構」



――



「待たせたわね!」

 来ちゃったああああ!!

「ちょっと説得に時間がかかったけど、はいこれっ!」

 説得ってなんだよ!?

 理名ちゃんはこっちの沸き上がる疑問にも目を向けず、先日貰った紙と同じモノを渡す。読まなきゃダメ?


「何々……」


『折角一年生にも門戸を開いたというのに、未だ立候補者が香取理名だけなので、テコ入れとして、生徒会長になった者には、南雲先生と供に研修に参加してもらう。なお、研修は夏休みの一週間を予定している。御崎原峰子』


「って、なんじゃこりゃあああああ!!」


 恐ろしいことに、その紙には人を景品にするという恐ろしい内容が書かれていた。しかも理事長のサインまで貰ってやがる! 理事長が許可したら、うちの学校では認められるんだ!! 何をやっても許されるんだ!


「つまり、こう先生との宿泊研修が待っているのよ。これなら立候補しないなんて選択肢は選べないはず。どう? 出る気になったかしら?」


 理名ちゃんは、男ならぶん殴られるウザサのドヤ顔で言う。

「いくら何でも一緒に暮らしてるんだから、宿泊研修もなんとも思っ……」


「立候補するわ!!」


 えええええ!?

「い、一緒に暮らしてるんだからさ、別に一緒に宿泊する必要はないじゃんか!」

「別腹よ!!」



 エライコトになってきたぞ……。


「よくぞ言ったわ南雲美桜! それでこそ私のライバルよ! サラバ! また会おう!」

「私そのつもりはないんだけどな……」

 姉さんの呟きに気付かず、満足した理名ちゃんは疾風の如く教室を去っていった。


「……、授業したいんだけど、立候補しちゃったので、今から選挙責任者を決めます。誰か相棒になる人いませんか?」



――



「南雲先生、今年の選挙は盛り上がりますよ!」

 これから先僕を待ち受ける受難の日々を思うと、どうしても足が重くなる。

「ゴメン、君ダレ?」

「江原だよ! 生徒会長だよ!!」

「あれ? 伊織じゃないの?」

「アンタ先生だろ!」

 モブキャラに話し掛けられたと思ったら三郎丸君だった。

「三郎丸じゃねえよ!! アンタ放送聞いてたじゃないか!」

「で、選挙が盛り上がるってのは?」


「いやぁ、今年は三人も立候補しましてね! しかも全員別嬪さんという女の戦いなわけですよ!」

 随分馴れ馴れしいヤツだな。しかし驚くべき事に、あの後もう一人立候補者が出たみたいだ。あの二人に勝てると思えるのがまず凄いな。

「嵐の如く学校を巻き込む台風少女、一年生ながら立候補した超大型ルーキー、経済界のドンの孫娘……、誰が勝つと思いますか?」




「ちょっと待って!」


「プレイバック?」


「いやそうじゃなくて、今なんて言った?」


「プレイバック?」


「下手なギャグをすんじゃねえ! それより前だよ!」


「経済界のドンの孫娘?」


「もしやとは思うんだ。その人って、『あ』から始まって『り』で終わる人?」


「そうですけど」



 『あ』そういお『り』



「伊織ぃぃぃぃぃ!!」


 史上最悪の三つ巴バトルが始まる!!

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