さよならドッペルゲンガー~The courage that one step embarks on~
姉さんは勝った。同じ顔をした暴君に。
姉さんは負けた。同じ顔をしたブラコンに。
ただそれだけ。それだけの話だ。
「へ、へへ……、勝っちゃった」
「姉さん!」
皆でゴールにたどり着いた姉を迎える。そうだ、勝ったんだよ! 善本も救えるし僕たちも帰ることができる!!
「へへ……、ご褒美にこう君抱きしめてくれる?」
「いや、そこまでは認めない」
「さ、約束は約束だよ、ナグモミオ。善本を帰してもらう」
勝者に与えられるもの、今回の場合それは囚われのお姫様で……。
『そ、そうね……。や、約束だもんねえ。良いわ、もって帰りなさい』
「意外と素直に渡してくれるんだな」
『め、迷惑なのよ! イチイチネガティブイオン撒き散らされたら! そっちで処理して頂戴!!』
「そういうことなら喜んでもって帰るよ。ネガティブクイーンだろうが僕の生徒には変わりないんだからさ」
『茶番茶番茶番よ……』
――
「おい、起きろ。朝だぞ? 希望の朝だぞ? 喜びに何たらかんたらな朝だぞ」
「ん、んん……、何よ……」
「って南雲美桜!?」
「あはは……」
「そ、そうよ! 南雲美桜は化けてきたのよ!! 助けることができなかった私を呪い殺しにきたのだわ! そうに決まってるわ!! じゃないとおかしいんだもの! 鏡の中につれられて……」
「こ、ここ……、どこ?」
一から説明しにゃならんよなぁ……。さて、取り乱さずに受け入れてくれるかしら……。
――
「そ、そんなのし、信じられるわけが無いじゃない!! そろいもそろって私を馬鹿にしているのよ!! 部屋のインテリアとかを全部入れ替えただけに決まっているわ!! 私を狂った人間にしたいだけでしょ!! 分かっているわ! そうに決まっている! そうよ! 全部夢よ夢、悪夢よ!!」
まあ夢見たいな経験だとは思うけど……。これを見ても同じことが言えるかな?
「ま、証拠ってわけじゃないけど……、こちら鏡の世界の善本幸子、通称コッコです」
『どうも』
「ヒッ!? ドドドド、ドッペルゲンガアアアアアアアアア!? し、死ぬ! 二日三日後に死ぬ! 成り代わられるうううう!!」
ドッペルゲンガー、ねえ。この世には自分と同じ顔を持つ人間が3人いるとは言うけど、鏡の中ってカウントされるのか? むしろドッペルさんじゃないと怖いと思うんだけど。
『ほ、本当に私なわけ?』
「受け入れろ。すべてを」
かたやネガティブ上等、写真を撮ると漏れなく心霊現象が起きると評判の闇属性少女。
かたやレジスタンス上等、服の中から漏れなく手榴弾が出てくると評判の設定上は闇属性少女。
同じ顔と声を持っているのに、これだけ違うとは。もしかしたら、コッコが善本の本質なのかもしれないな。いずれ善本も彼女のように強くなれるのだろうか。担任として見守りたいところだ。
――
「というわけで、善本姫は見事俺らに救出されましたってわけ。ちゃんちゃん、目出度し目で」
「目出度くないわよ!!」
「はぁ?」
古村たちが善本に経緯を説明していたところ、彼女は叫んだ。
「な、なんで私なんかを助けたのよ!! わ、私はこ、ここで死んでおくべきだったのよ!! 皆だってそう思っているに決まってるわ!! 私のせいで巻き込まれて、私を助けるために頑張ったなんて……、頭おかしいんじゃないの!?」
「ちょ、善も」
「私は頼んでなんかない!! いつ私が助けてくださいなんていったの? 何時何分何秒地球が何週回ったとき? 一度も言った覚えないわ!! そ、そうよ! 私を助けたのも自分たちが帰るために決まってるわ!! 皆私のこと嫌いでしょ! 分かってんのよ! 内心死んでほ」
パチン!!
『がたがたうるさいのよ……、アンタいつまで自分が悲劇のヒロインだと思ってんのよ!! いつまで他人が優しくしてくれると思ってんのよ!! アンタまた拒絶したところで私は悪くない、勝手にしたアイツらが悪いって思うんじゃないの!?死んで欲しい思ってるなら、皆必死にならないわよ!! そりゃあ鏡から帰るためにはってのもあったかもしれないけど、皆はアンタを帰ることもできたのよ!! でも皆残った。巻き込まれた四人も理解してくれた。幸せじゃない、ここまで幸せなのに不幸ぶるなんてムカつくんだよ!!』
「コッコ……」
それは、不甲斐ない自分の分身への喝。自分が世界で一番不幸だなんて思っている彼女への怒り。
「……」
『何よその物言いた気な目は。あ~そっかぁ、そんなに死にたいってのなら、今ここで楽にしてあげる』
コッコはそういうと、服からナイフを取り出し、
「コッコ!?」
「な、な、何のつもりよ!」
『何って、そりゃあアンタを殺すのよ。死にたいんでしょ? でも自殺なんかする度胸はない。あるならとっくにあの世にいるもんねぇ?』
「ひっ! さ、刺したらアンタも死ぬのよ!」
『構わないわ。生き恥を晒すぐらいならいっそのこと千の風にでもなったげる。一人で死ぬのは寂しいでしょ? 私が一緒に死んだげる。心中なんてなかなか体験出来ないわよ?』
「あっ、ああ……」
『お望み通り死になさいっ!!』
ナイフを構え走り出す。
「こう君!」
「コッコ!!」
僕らも彼女を止めるべく走る。
「クッ!」
全力で走ったガタが来たのか、膝が思うように動かない!
「やめろおおお!」
「止めてええええええ!!」
善本の絶叫が響く。畜生……、
「こう君、違うよ」
「!?」
善本にはナイフなんか刺さっていなかった。
『はは……、イッツアジョーク。なんちて』
舌を出しながら手に持ったナイフを弄るコッコ。みるとナイフの刃の部分がぐにゃぐにゃ曲がっている。
「ゴムナイフ……?」
『そ。どう? びっくりした? ってあるぇ? どったんすか皆さん、なんでこちらを睨んで、』
「『お前が死ね!!』」
『えええ!?』
総攻撃チャンス!!
――
『痛いじゃん! シャイニングウィザードは女にする技じゃないでしょ!?』
レジスタンスのリーダーが何を言いますか。
『でもさ、分かったじゃんか。私は不幸だ死にたいだなんてぬかしときながら、いざ死に直面したら必死になるんだもん。死なないことに必死……ぷふっ』
「ちっ……」
善本は舌打ちをして目をそらす。よっぽど本心を見抜かれたのが恥ずかしいのかな?
『だからもう死にたいなんて言わないで。月並みな言葉だけど、アンタが死にたいと思った今日、は誰かが生きたいと願った今日なのよ。その言葉を忘れないことね』
「……善処するわ」
お前は政治家か。しかもそれ絶対しないだろ、行けたら行くは行かないみたいなもんだろ。
『それじゃあお別れね。ナグモミオはこちらで拘束するわ。尤も、アナタに負けたことで絶賛自失茫然なうだけど』
「茫然自失な、それ」
『……、鏡の世界だから逆転してるのよ』
その言い訳は苦しい。
――
『航!』
鏡の部屋に向かう道中、コウに呼び止められる。
『行っちゃうんだね。まあ色々あったけど、鏡の向こうを知れて中々興味深かったよ。また気が向いたら来てくれ』
「ははっ、悪い。当分行きたいとは思わないな」
『鏡の姉さん。姉さん、いやナグモミオも元々はこういうことをする人じゃ無かったんだ。姉さんがこうなったのは、多分アナタ達に嫉妬していたのかもしれない。この世界の姉さんってアナタと違って不器用だし』
コウは苦笑いをしながら言う。
『だからさ、いつかあの日の姉さんに戻ってくれたら、僕は嬉しいんだけどね』
「大丈夫、戻れるわ」
姉さんは優しく微笑み、
「だって私のオリジナルなんでしょ?」
姉さんがそう言うんなら戻れるだろう。ただ単にぶっ飛んだだけの姉さんに。
――
『私出番少なかったけど~、忘れないでって感じぃ?』
「ふふっ、多分忘れませんよ」
『じゃあな、航』
「ああ。コウも元気でな」
『ぜぇ……、ぜぇ……、ぜぇ……、わぶほっ!』
「あ~あ、無理して喋らなくて良いんじゃねえの?」
『楽しかったよ! また一緒に弾こうね!』
「えぇ。でも次はウォームアップの時間が欲しいわね」
『達者でな。』
「は、はは……、アナタは……元気でしょうね……」
『……気持ちはちゃんと言わなきゃダメ』
「ほえ? なんのこと?」
「ねえ、アナタ」
『ん?』
「あ、あ、ありがと。私を叱ってくれて」
『ありがとね。それは彼等にいいなよ?』
「わ、分かってるわよ!」
『じゃあね』
「……バイバイ」
「さようなら、もし縁があればまた鏡の向こうで」
『最後までムカつくヤツ……。畜生……』
――
それからのことを話そう。まず鏡から出てきた僕らを待っていたのは、
「おかえりなさい、と言えば良いのかのう?」
「お、御祖父様!?」
「御祖父様って……、アナタ麻生伝助氏!?」
伊織のおじいちゃん、つまりは麻生伝助氏というまさかのサプライズだった。
「御祖父様がどうしてここに……」
「本城から連絡があってな。奴さん大分慌てておったわい。話を聞くと、鏡が鏡が! と譫言のようにゆうものじゃからまさかと思ってきてみたら、予想通り反転鏡に取り込まれておったわ」
「御祖父様、申し訳ございません。私が一緒にいながら……」 しおらしく謝る。伊織がここまで下手に出るなんて……、ただ者ではないな。
「わしは別に怒ってはおらん。しかしこの鏡じゃがどうしたモノかの……。曰く付きとはいえなかなかに価値がある代物じゃからな、割るまでには気が乗らんの……。仕方ない。この部屋を封鎖して鏡には眠ってもらうとしよう。一年に一回ぐらいなら解放してやらんでもないぞ」
「……どうも」
麻生氏になんちゅう口の聞き方をっ!! と思ったが、善本は少しだけ嬉しそうだ。不器用なりにコッコみたいな強い女になっていけば良いさ。
「さて、話が変わるが……、君が南雲先生かね?」
「はっ、はいぃ!!」
急に名前を呼ばれ上擦った返事をしてしまう。これ……まずいんじゃね? どうしよう。孫に手を出したと思ってるよ絶対、俺の嫁とか内心思ってることバレたよ、これ僕に明るい未来はないよね?美食家の魚の餌になるのかな、地下労働を強制されるのかな、身ぐるみ剥がされアーッ! なビデオに出さされるのかな、怖いよ怖いよ怖いよ……。
「何故彼はマナーモードみたいに震えているのかのう?」
「現代医学では太刀打ち出来ない心の病気です」
人はそれを恐怖という。もうなにもかもが怖い。
「別に酷い目に遭わす気はないんじゃが……、孫がいつもお世話になっております」
「へっ?」
「伊織からはちらほらとお話は聞いております。なんでも生徒思いの良い先生だと」
僕、褒められてる?
「これからも孫をよろしくお願い致します」
「は、はあ。こちらこそいお、麻生さんに助けてもらってバッカリですので……。未熟者ですが精進します」
「それは心強いの。さて、わしは戻るとしよう。皆様も寄り道せずにお帰りください」
伝助氏は一礼をして部屋から去っていく。その間際に、
「合格じゃな」
と言ってた気がするけど、何が合格なんだ?
「……」
伊織も黙りこくってしまう。僕の知らないところで何か動いてるのか?
「あの人……」
姉さんも何か知ってるそぶりを見せる。いやなフラグじゃないでしょうね?
「今何時だ……、ゲッ! 結構遅い時間だぞこれ!!」
「みんなは既に帰ったのかしら?」
古村に言われて時計を見てみる。
「かくれんぼとっくに終わってるじゃないか!!」
19時過ぎてるじゃないか……。
グリュリュリュ……
「うう……、南雲っち、お腹空いた……」
「僕も空いた……かも」
「い、今のは違うわよ!」
僕昼飯食ってないもんなぁ……。
「でしたら皆さん、今日のお詫びってことで私の知っているお店に招待します。お金は気にしなくて結構ですよ?」
「マジっすか!?」
「あら、麻生家のオススメとは気になるわね」
「みんな! 晩飯食べに行くよ!」
何故か姉さんが音頭をとる。
「アンタが払うわけじゃないでしょ……」
こうして鏡の中の大冒険は幕を閉じた。一人の少女に、前に進む勇気を与えて。
「コッコ、私頑張ってみるわ」
「何か言ったか?」
「言ってないっ!」
ところであのもや何だったんだ?




