南雲インミラーランド~Masquerade~
鏡の国に入るなんてまるでアリスの世界だな――。
と、思っていた時期が僕にもありました。
「ここは……?」
鏡の世界に無理矢理連れてかれた僕は、意識を失っていたのか、ベッドの上で目が覚める。誰かが運んでくれたのだろうか。
『おはよう、僕。ここはお城にある城主達の寝室だよ。どんなスイートルームに泊まっても、マウリス家が使ってたっていう無駄に高価なベッドで寝るなんて経験は出来ないよ』
重い瞼を開けると、そこには同じ顔をした好青年が映っていた。
『なに自分で好青年とかいっちゃってるわけ~、ドン引きなんですけどどんだけ~』
その横には、天文部部長のそっくりさんが、いちいちウザい絡みをして来る。元ネタとのキャラのギャップが激し過ぎるため、イマイチまだ馴れそうにない。
「ど、どんだけ~」
無理に相手に合わす必要はないよ、伊織さん。
『さて、あの二人を探すとしようかな』
鏡の僕――コウはそう言って、携帯を見ると、
『ここに長々といれるとも思えないからね、ソッコーで片をつけるよ!! みんな着いてきて!』
場所に心当たりがあるのか、迷うことなく走り出す。
「ちょ、待てよ!」
モノマネをするつもりはなかったが、どっかで聞いたことのあるような文句を言いつつも追いかける。
「どこにいるか分かるの?」
『分かるさ!! なんせ姉さんの弟だからね!!』
どんな理屈だ。うちの姉さんみたいなことを口にする。
――
「鏡の中っていうことだけあって、部屋の配置は反対になっているんですね」
伊織が指摘するように、部屋の配置は、僕らがいた世界とは正反対のようだ。
『まあ鏡の世界だからね。そうそう、利き腕ってどっちだい?』
「右利きだけど……、ってことは」
『そう。僕は左利きさ。この世界では左利きの方が人口が多いんだよ』
人体の構造も反転しているみたいだ。
「みんな逆子で生まれたりして」
「もしかしたら、心臓とかも逆に位置するかもしれませんね。僕たちが内臓逆位なのかも」
一つ目人間のの国に行った人間のことを思い出す。見世物にしようと一つ目人間を捕まえようとしたが、彼らからしたら二つ目人間のほうがおかしく、逆に見世物にされると言う昔話だ。
「なんだかねえ」
誰にも気づかれないような小声でつぶやく。
――
『多分ここにいるよ』
コウに連れてこられた所は、
「地下牢獄?」
だだっ広い城だとは思っていたが、こんな地下にまであったとは。
「こんなところがあったなんて……」
所有者すら始めて見る場所らしい。麻生のお爺さんはどこまで忠実に再現しているんだろうか。電気が通っておらず、携帯のライトがないと暗くて見えない。
「こう君!!」
「姉さん!!」
奥の檻に姉さんを見つける。
「こう君、どうしてここ……、って二人ぃぃぃ!?」
やっぱそれビックリするよな。ってことは姉さんは見てないのか?
――
「反転鏡……ねえ。それでこう君が二人という有り難いシチュエーションが生まれたってわけね。これだけは感謝しなきゃね。二人とも抱きしめてよかですか?」
鏡の中にいても、姉さんは平常運転のようだ。しかし、コウはと言うと、
『ホントに姉さん?』
ギャップに戸惑っているみたいだ。どんな姉が出てくるんだ、一体?
「鏡の中から手が伸びたと思ったら、そのまま引きずり込まれたの。気付いたら牢獄の中ってわけよ。誰に引きずられたかまでは分からないの、ごめんね」
『いや、犯人はあの人しかいませんから。気にしないでください』
コウは爽やかスマイルで言う。あの人ってのは、あの人なんだろうな……。
『しかしここを開けるにゃ鍵がいるね。姉さん持ち帰りやがったなこりゃ……悪いけど、もちっと待っててくれるかな? こっちの世界の姉さんから鍵を取り返さないといけないしね。一応どこにいるか見当はついてんだけど……。後アソウはここにいて見張っててくれ』
『ちょwww出番終了のお知らせwwwありえないんですけど~』
『足疲れてるだろ』
『それも一理ある』
少々心配だが、コギャルな伊織と姉さんを地下に残して、姉さんがいるらしい場所へ急ぐ。
――
『姉さんの性格なら、間違いなく1番広い部屋にいるはずだよ、そしてそこは……』
「ダンスホール?」
「そうなんですね。実は城内で1番広い場所なんです。城主は度々ダンスホールに多くの客人を招いてダンスパーティーを開いたってことでしょうか? それとも、意外に城の秘密があったりして」
そういやマウリス家って未だ多くの謎があるんだよな。いつの日か彼等も歴史の表舞台に立つ日がくるのだろうか。
――
ダンスホールに入った僕らを待っていたのは、
「暗っ!」
『電気が消えている?』
自分の立ち位置すらハッキリしない漆黒の闇だった。
そして、闇の中で響く声。
『良くここまで来たわね。褒めてあげるわ、でもここまでよっ!! ライトアップアーンドスタートザミュージック!!』
闇に轟く合図とともに、ダンスホールはライトアップされ、
『イッツアショータイッ!!』
お立ち台の上に、パピヨンマスク、ボンテージ、当たれば痛そうな鞭を持った変態がそこにいた。
タッタラータラッタタッタタッタタッタラータッタッタータラッタラータラッタラー♪
『行こう♪行こう♪火の山へ♪ ってアホかあああああ!! ストップ! ストップザミュージック!! なんでこのシーンでフニクリフニクラかけるのよ!! 明らかに選曲ミスでしょうが!! 音響はだれ!?』
『俺ですっ!』
『なんでそんなに嬉しそうなんだこのブタ野郎!!』
『あひぃぃん!! ミオしゃま~ありがたきしあわへ~』
『ヒィィィ!! 気持ちわるっ! 気を取り直して、スタートザミュージックテイクツヴァイ!!』
パピヨンマスク達のある意味18禁なSMショーという名の茶番劇を見せられた後、音楽がフィギュアスケートとかで流れそうなダンスミュージックに変わる。
『仮面舞踏会へようこそ! 歓迎してあげるわ!』
パピヨンマスクは歓迎してくれるらしい。けどね、言っちゃダメなんだろうけど、
「あれ、鏡の世界の姉さん?」
『恥ずかしながら……』
『オーホッホッホ!! よく聞きなさい愚民ども!! 私様はナグモミオではないわ! パピヨン=アンリ=シャルロット=ミオ=ルナティック=ソクラテス=サイン=コサイン=タンジェント=サウスクラウド=ワールドエンド=ルイーズ=マウリスよ!』
「サウスクラウドミオじゃねえかああああ!! そして申し訳程度にマウリスの名前名乗ってんじゃねええよ!!」
バーロー=新一的に捉えてあげて下さい。サウスクラウドミオ、一体何者なんだ?
『あなた達がここにきた理由は分かっているわ。ズバリ、これが欲しいんでしょ?』
ジャラリと鍵の束を見せる。
『牢屋の鍵だ!! 悪いけど返してもらうよ!!』
『ふん、まったくもって愚弟ね。このマウリスの恥さらしがっ!!』
パピヨンは鞭を振りかぶると、一気にそれが伸びて、
『いてっ!!』
コウに直撃する。
「大丈夫ですか!?」
『はは、情けない話だけど、慣れちゃったって言うか……』
同じ顔をした相手が鞭で叩かれるのは、僕もいい気がしない。
「パピヨンマスク!! 鍵は返してもらうよ!」
伸縮しつつある鞭にしがみついて、パピヨンマスクに飛び掛る。
『ちょ、えええええ!?』
「これが、伝家の宝刀、パッチギや!!」
そのまま頭突きを食らわし、その衝撃で鍵が宙を舞う。
『コウ、伊織!! 姉さんを頼む!! 取ったら走れ!!』
鍵をつかんだ僕は、それを 下の二人に投げ渡す。
『イテテ、よくもこの私様に一撃を……、野郎共! であえであえ!!』
時代劇の悪代官みたいな台詞を言い、鞭が鳴らす合図とともに大量のパピヨンマスクがなだれ込んできた! って多くね!?
『彼らは私様に心から心酔する愚民どもよ。無知には鞭を、愚か者にはその身に直接味わう必要がありそうね』
心から心酔って日本語おかしくね?
『キィィィィ!! 心から心酔してんのよ!!』
あ、さらにキレた。
『愚民ども!! やっておしまい!!』
『ヒョー!!』
戦闘員というかバ○ログみたいな奇声をあげ、パピヨンマスクは飛び掛ってくる!!
「うわあああ!!」
何もおきない? 見ると戦闘員たちは全員倒れている。
『あ、あなたまさか……』
『パピヨン=アンリ=シャルロット=ミオ=ルナティック=ソクラテス=サイン=コサイン=タンジェント=サウスクラウド=ワールドエンド=ルイーズ=マウリス……、あんたの悪事もここまでよ!!』
そして僕の前にいたのは、
『ったく、何やってんのよ先生』
ヒーローみたいなスカーフをつけた、善本幸子が立っていた。




