鏡よ鏡~Magic Mirror~
「善本! 姉さん! 返事をしろー!!」
「一体どこに……」
昼食の時間になっても戻ってこない姉さんと善本を探すため、モニタールームに戻ることにする。さっきから姉さんに電話をかけているが、一向に出る気配はない。城内はちゃんと電波があるし、姉さんもいつも携帯を持っているから、出ないはずがない。
「電池切れたか?」
とにかく連絡がつかない今、僕たちはモニタールームから探すしかない。
「電話? もしもし!?」
伊織の携帯に連絡が入る。
「姉さんから!?」
「いえ、本城です。少し待っててください」
どうやら執事から電話があったようだ。これで晩御飯いるかどうかって内容なら張り倒しているところだぞ。
「そんなっ!! アレは本当だったって言うの?」
伊織は青ざめた顔で報告を聞く。アレってなんだ?
「わかりました。急ぎます、本城はそのまま監視を続けて」
電話を終えた伊織は、申し訳なさそうにこっちを見て、
「ねえ先生、幽霊って信じますか?」
「いきなり何を……」
「そのままの意味です。僕は本当に取り返しのつかないことをしてしまった・・・・・・、先生お見せましょう。そして僕を、どうぞ恨んでください」
「どういう意味だ……」
なんなんだ、何が起こってるんだよ!!
――
「お待ちしていました、お嬢様、南雲様」
僕らをモニタールームで待っていたのは、先ほどの電話の主の本城さんだった。
「お嬢様、こちらです」
本城さんは装置を動かし、全モニターいっぱいに一つの部屋を映し出す。ここは、鏡?
「この城って言うのは、お爺ちゃんがヨーロッパを旅したときに、取り壊されることになった古城、マウリス城って言うんですが、それをそのまま再現したお城なんです。だから内装等はオリジナルの古城から引き取ったものなんです。さすがに、お城を丸ごと引越しなんて不可能な話ですからね」
「だから隠し部屋があったりするんです。マウリス城は隠し部屋だけでなく牢獄も合ったりするんですが……、それは今はいいですね。さて、オリジナルから引き取ったといいますが、その中にひとつの大きな鏡があったんです。あまり詳しくは知らないんですが、マウリス家が栄華を誇っていた時代の有名な職人が作ったといわれる鏡なんです。煌びやかな装飾のついたそれは、マウリスの永久に続くだろうといわれた輝かしい未来を写すもの、そう言われていました」
「しかし、驕れる者も久しからずとはよく言ったもので、栄華を極めたマウリス家はある日を境に凋落の一路を辿ることになります。どうしてかって言われると、実はその理由もよくわかってはいないんでなんとも言えません。例えば、伝染病が流行した、例えば農民たちの反乱にあったとは言われていますが、不思議なことに、マウリスについて記されたものが一切発見されていないんです。おかしな話だと思いませんか? このような大きなお城を持ち、さらに栄華を極めたとまで言われる一族の最期に関する情報がまったくといって言うほどない、あるのは湖のほとりにさびしく建っていたマウリス城だけなんです」
伊織はツアーコンダクターのように、麻生城の生い立ちを話す。しかしその鏡がどうしたって言うんだ? 鏡に呪われたって言いたいのか?
「僕はその考えも捨てきれないと思っています。おかしな話かもしれませんが、黒魔術とかオカルトなことが普通に行われていたような世界ですから、魔鏡と呼んでしまってもよいかもしれないですね。現に、これほどきれいな鏡なのに、誰一人手につけようとしなかった。まあ、持ち主すべてを不幸にするとかってやつではないかも知れませんが」
ふぅ、と伊織は一息つく。そして僕の顔をのぞき、
「信じてないと思われているでしょうし、美桜さん達の行方とどのような関係があるんだと思われていると思います。本城、その問題の部分というのを見せて」
「了解いたしました」
丁寧な礼をした本城さんは、機材を動かし時間を巻き戻していく。
「ここです」
そう言って巻き戻しをやめる。時間を見ると、昼食をとるため、一度モニタールームを出た後だった。
「黒いもや?」
そこに写っていたのは、明らかに異様な光景だった。鏡を中心にして、黒いもやがふわふわとしている。いや、これは……
「人が歩いてる……?」
ぼんやりとはしているが、もやは人の形をしているように見える。大きさからして、子供が歩いているみたいだ。
「本城、その少し前に戻って、音量は最大で」
伊織はさらに巻き戻す指示を出す。するとそこには、
『ふー、まさかあの部屋がばれちゃうなんてね……、何とか切り抜けたけど……ってこの部屋どこだろ?』
「姉さん!?」
1時間前の映像には、姉さんが鏡のある部屋に来ていた。そしてその横には、
『あ、あんたのせいで捕まりかけたじゃないの! そ、そうよ! あんた私をはめるつもりでしょ!! そうに決まっているわ!! こ、ここに仲間がいて捕まえるんでしょ!! ば、バレバレよ!!』
「と善本ぉ!?」
確かに二人とも逃げる側だったが、まさか一緒にいたとは……。
『私たち同じチームじゃん……』
『だったらあんたは裏切り者よ!!』
『私何かしたっけなぁ』
いつも通り絶賛ネガティブ平常運転な善本と、それにタジタジな姉さん。ある意味新鮮な光景ではあるが……。
『にしても派手な鏡だねぇ、鏡なんか映すだけでいいのに、見た目なんか気にしてもしょうがないでしょうに。これに写るとやせて見えるのかな?』
そういって姉さんは鏡の前でポーズを取り出す。スタイルがいいため、その様はモデルといっても違和感がないだろう。
『か、鏡なんかこっちに見せないで!! わ、私は自分を見たくないのよ!! まさかあんた私が鏡が怖いことを知ってここに連れて来たんじゃ……、そーよ!! それ以外にないわ!!』
『はいはい、わるーございましたーよ』
ついつい投げやりに返す姉さん。善本が苦手とは言っていたが、なるほど、そのようですね。
『なんでこうなったんだキャ!!』
『な、なによ、そんな可愛いひ……め』
姉さんの悲鳴が上がる。そこには、
『なによこれ!!』
信じられない光景が広がっている。モニターには、鏡から伸びる腕がはっきりと映っていた。
『よ、善本さん、助けて!!』
『な、なによこれ……、嘘よ……、そうよこれは夢よ、たちの悪い夢よ』
『たす……け……』
『ごめんさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
『こ……ん……』
「姉さん!!」
1時間も前の映像だ、叫んだところで、彼女を助けるとができない。
『い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
そんなことがあってたまるか、鏡に人が吸い込まれるなんて。
『こ、来ないで来ないで来ないでよお!!!』
腰が砕けた善本が拒絶する。そこにいたのは、
「善本?」
鏡の中から、善本がもう一人現れる。どうなっているのか、理解が追い付かない。
『来ないでええええええええええええ!!!!!!!!!』
絶叫もむなしく、善本も鏡の中へ吸い込まれていく。そこに残ったのは、
『……』
子供のような黒いもやだけだった。
――
「先生、僕を恨んでください、殺したいって思うほど憎んでください。すべて、僕が悪いんです。僕のせいで……」
今にも泣き出しそうな伊織。その表情は絶望と後悔に支配されていた。
「なあ、伊織。姉さんを取り返すことはできるのか? 僕も鏡に入れるのか?」
「えっ?」
「伊織はさ、悪くないじゃん。こんな超自然的な現象なんて誰に罪があるわけでもない。でも責任を感じるのは僕も同じだ。教師だってのに、二人のSOSに気付けなかった。だから僕らさ、同罪なんだよ」
伊織は僕を見る。僕の言葉の真意をはかるために、じっと瞳を見つめる。
「でもさ、教師が生徒に罪を与えるのはよくないよね。かぶる必要もないものをかぶるのは無意味だよ」
「先生……」
「ちょっとばかり助けに行ってくるよ」




