表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/263

4月1日に生まれて~Born on the first of april~

 4月1日は何の日? と聞かれたら、真っ先に出てくるのがエイプリルフールだろう。この日だけは嘘をついてもいいという一風変わった習慣ではあるが、その起源は知られていない。そもそも本当かどうか確証がないから一概にこうだとも言えない。気になる人はGoogle先生とかWikipediaをご覧あれ。僕の授業で取り扱ってもいいが、色々脱線しそうだから遠慮しておこう。シャルル9世っていきなり言われても何した人か分からないって声が挙がるだろうし。

 さっそく脱線してしまった。話を戻そう。実は4月1日はエイプリルフール以外にも記念日がある。といっても、この日だけに関わらず毎日が何らかの記念日ではある。別に付き合って一ヶ月記念とかそういうんではないぞ。ちゃんとどっかの企業やらが勝手に制定したものだ。

 例えばストラップの日。これは割かし最近作られた記念日らしい。なんでもストラップ用の穴があいた携帯が発売された日を祝おうという魂胆だと。もちろん、これは世界規模じゃなくて日本限定に限る。どうも日本人は何かとくだらない記念日を作りたい人種なようだ。

そんな4月1日だが、実は僕の誕生日でもある。ギリギリ早生まれってやつだな。つまり今日で僕は24歳になりました。わーい、また一歩死に近づいたね。

誕生日ぐらい素直に喜べないのかって? 言っておくと、僕はこの日が嫌いだ。嘘をつく日に生まれたなんて疑われるに決まってる。

「こいつは嘘をついてプレゼントをクスネる気だ」って。

 そんなつもりは毛頭ないんだがなぁ、この日に生まれた宿命か。4月1日生まれは365日の中で不憫な誕生日ランキングでも上位に組み込むだろう。因みに他は誕生日プレゼントとサンタさんからの贈り物を一緒くたにされ一つでまかなわれるクリスマスがランクインしています。勿論、僕的ランキングであることを追記しておく。

 まぁそれぐらいならまだ我慢できる。嘘だといわれても戸籍を調べたら僕の潔白は証明されるわけだ、さほど気にする必要もないし、皆が皆真剣にそう思っているわけじゃないことぐらい分かる。

 じゃあどうしてだって話だが、皆様、10年前のこの日何があったか思い出して欲しい。その日何があった? ほら、いただろう? これ異常ないぐらい残念な理由でタイムスリップをして10年間寂しい思いをさせた挙句、タイムマシンが片道切符なため帰るに帰れなくなったJK予備軍が。10年前を思い出すたびに

色々な感情がごちゃ混ぜになる。情けないやら、アホくさいやら、

 でもまぁ、今となればそこまで気にかけることもないのだろう。なんせ姉は今懐かしの南雲家でスヤスヤと眠っている。ったく、なんとも無防備な寝顔だな。色々この人のことで整理し切れてないことは沢山あるが、流石に僕も疲れた。色々仕事が溜まってはいるけど睡魔には勝てそうにない。よく勘違いされるけど、春休みだからっていってもそれは生徒の話であって、教師陣には悲しいかな、休みなんかないかんね。

 


 今日は色々ありすぎた……お休み。姉さん……。



 タッタッタッタ……、なんだろうか、凄く懐かしい音が聞こえる。階段を走っているのか、ドンドンと忙しない。そしてその足音は僕の部屋の前で止まり、

「こう君、おはよう!!! 絶好の実験日和だよ!!」

 元気いっぱいの声で姉は部屋に突入してきた。

「ってまだ寝てた? まったく、こう君はいつまでたってもお寝坊さんだなぁ。背は高くなってもそういうところは変わってないねー! 起きろー!!」

 勢いよくシェイクされる。って痛い痛い!! ベッドの角に頭が当たる!!

「あるぇー、まだ起きないのー? って事は……フフフ……」

 なんでしょうか、スッゲー嫌な予感がする。 

「イントゥーザベーッドアーンドゥイタダキマーウス!!」

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」

 貞操を奪われかけました。おはようございます、姉さん。クソさわやかな朝ですね。

「チッ、あら、おはようこう君。お目覚めでですかー」

「ええ。誰かさんのおかげで最高の目覚めですよ」

「えへへー褒めるな褒めるなー」

「褒めてねえよこの尼」

「うう……こう君が汚らしい言葉を使うよぉ、そのうち私もサノバビッチって言われちゃうんだぁ……時の流れは残酷ね……ヨヨヨ……サノバビッチてどういう意味か知らないんだけどね」

「嘘泣きすんじゃねえよサノバビッチ」

「早速使われた!?」

「後、間違えのないように言うけどサノバビッチって男性に対する蔑称だからね」

「別称?」

「おっと、日本語の難しいところだ。同音異義語ってややこしいよね。別称じゃなくて蔑称。違う呼び方じゃなくて人を馬鹿にした言い方だよ。今後の姉さんのために言っておくけど、それ外人の皆様に使うと問答無用で鉄拳が飛んでくっから外で使わないでね」

 朝っぱらからくだらないやり取りを繰り広げる。ここ10年はご無沙汰だったが、これが南雲家の日常お目覚め編である。「○○編」ってついてるけど、他にいくつもカテゴライズされているわけでもないからね。期待はしないでください。

「で、何のようさ、わざわざ起こしに来るなんてさ。まだ寝てても良いだろうに」

「早起きは三文の得だよ、こう君。って時間でもないんだけどね」

 へっ? どういうこと? なんのこっちゃ分からない僕を尻目に姉さんは時計に目をやる。僕も釣られて見てみる、どれどれ……9時13分かぁ。寝すぎたなぁ。てへっ///

「てへっ///じゃねええええええええ!!職員会議10時からじゃねええかあああ!!!!!」

「春休みなのに大変だねー」

 あんたはのんきで良いよなぁ!!とにかく急がねば!!!

 ベッドから飛び降り支度を始める。このまま最速ラップをたたき出せば間に合う!!

「こう君ガンバレー。朝ごはん下にあるからねぇ」

「食べてる場合じゃねーよ!!」

「だいじょーぶ。サンドイッチだから口にくわえて走っても絵になるよ」

「姉さん、グッジョブ!!」

 何か嫌なフラグが立った気がするけどこの際何でもいいや。思わずサムズアップする。姉も親指を立てて返す。嗚呼、素晴らしき哉、姉弟愛。束の間の感動に浸っていると、姉がおもむろに何か白衣の裏から取り出した。箱?

「それとこう君、はい、これあげる」

 ええと、何ですか急に?

「はい!! 誕生日プレゼント!! 開けてみてー」

「は?」

「こう君忘れちゃってた? でもお姉ちゃんが忘れるわけないじゃない。こう君のことならなんでも知ってるよ。何故なら私はお姉ちゃんだから!!」

 胸を張りがら決め台詞をはく。姉に促され箱を開ける。中には……

「時計?」

「そ! 10年前のものだけど新品だからじゃんじゃん使えるよ!! しかも伊織ちゃんに聞いたら、今は生産中止になったプレミアもんだって!」

 なんとも今日はサプライズの連続だな。しみじみと思う。手の届かない遠いところに行ったと思っていた姉は帰ってきた。しかも、誕生日プレゼントを10年前からわざわざ用意して。なんだろう。初めてこの日がいい日に思えてきた。

「ありがとう、姉さん。大切に使うよ」

 もらった時計を腕につける。ちょうど良かった、前の時計壊れてたんだよな。

「うんうん、喜んでくれてよかったよ。あの時のオルゴールもまだ綺麗なままだし」

 使ってなかったからな、あの時以来。これを回すと嫌なことを思い出しそうだったから、意図的に避けていた。そんな僕の事情も知らないで姉はオルゴールのねじを回す。あの時の僕、そこから流れる音楽は寂しさを募らしただけだったね。でも今は違うんだ、僕は今一人じゃない、隣にはお姉ちゃんがいる。

 ハッピーバースデートゥーユーハッピーバースデートゥユーハッピバースデーディアこう君♪ハッピバースデートゥーユー  

「お誕生日おめでとう、こう君」

 満面の笑みを見せる。心から僕を祝福するように、ただ優しい笑顔を。

 どうやら年に一回楽しみな日が増えてしまいました。






 ってあれ?姉さんがもし過去に帰ってたら渡せてなくね?

「……」

 あのー、姉さん? 何でそんな真っ青な顔をしてらっしゃいますか?まさか……

「最初から居座る気だった……?」

「ハッピーバースデー、こう君」

「こんにゃろ感動返しやがれええええええええええ!!!」

「ってこう君職員会議の時間だよ」

「ああああああ、もう誕生日なんか嫌いじゃあああああ!!!!」

 絶叫しながらサンドイッチを咥え走り出す。

「気をつけて行ってらっしゃーい」

 









 誰かに見送られるってのも、悪くないな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ