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南雲姉弟とその周囲の四月馬鹿~The APRILFOOL!~

ようやく本編に入ります。長かった……

「で、未来から帰れなくなってしまったということか。詰めが甘いのも相変わらずだな」

 そりゃそうだ。我が姉君南雲美桜は10年前からそのままの姿でやってきたわけだから、本質的には何も変わっていない。むしろようやく彼女に時代が追いついたという気がするけど。

「それもそうだな。だが、問題はこれからだ。どうしたらいいか分からないからこんな夜遅くにもかかわらず私のところに連絡をよこしたのだろう? にしてもだ、美桜といい君といい私の睡眠時間を奪うのだな。お肌に悪いだろうが。まったく、まだ10代に見られるといわれている自慢の美肌を損ないたくないのでな。で、何だっけ? 美桜をどうしたらよいかだったな? 簡単なことじゃないか、君の家に泊めればいいだろう。姉と弟が一緒に暮らして何が悪い、ごく自然なことじゃないか。世間的には兄と妹に見えるかもしれないが、どちらにせよ家族なんだから一緒に暮らすべきだ」

「普通はそうなんでしょうけど……」

「どうした、歯切れが悪いぞ。」

 はぁ、余り言いたくないんだけどなぁ……

「正直言うと、僕の貞操が危ないです」

「知るかそんなこと」

 一蹴されました。その間わずか1秒っ!

「理事長から知ったこっちゃないでしょうけど、僕からしたら色々と……ねぇ」

「ふん、君がどんな目に遭おうか私にとっては心底どうでもいいな。それとだが今はオフなんだ。理事長じゃなく峰子さんと呼びたまえ。それではじゃあな。私はこれから取り溜めていたアニ……じゃなくて国会中継を見なければならないのでな。教育者たるもの常に国の政にも目を向けなければならないからな」

「はいはい、そうですか……、ってあんたさっき寝るとか言ってただろ!? しかもアニメって言いかけたよね!? いい歳こいて何見てんだよ!? ってこいつ切りやがったよ!」

 結果として、うちの叔母は役に立たないことが分かりました。

「はぁ、どうしたものかね……」

 溜息をつきながらもう一度携帯電話を開く。流石に夜分遅くに電話かけるのは気が引けるが、恐らくこの時間、あの人は自棄酒をしている頃だろう。まったく、そんなに急がなくてもいい気がするけどな……

「ってどうぶつ○想天外終わっちゃったの!? マジでか……。日曜日の夜8時はこう君と一緒に見て、翌日からやってくる学校に憂鬱になるのが定番だったのに! それで他には他には!?」

 悩みの種の我が姉はというと、伊織から空白の10年間の話を聞いている。どうぶつ○想天外が終わったのは僕もショックだったな。めち○イケの新レギュラーと奇○天外の終了は絶対に許さない。絶対にだ。話が反れたな。僕は電話をかける。姉のために、なにより僕の身の安全のために。

「もーひもーひ、どんあたさまっですかああ?」

 かける相手間違えたかな……。

「もひもーひ、ってなによぉ、イタ電なのぉ? ちくしょー、馬鹿にしゃがってー!! 何よぉ! 外資系企業のエリート様だからって、ドイツもコイツも教職馬鹿にしやがってぇー! 何だってのよぉ、『君は僕の相手より子供の相手の方が忙しそうだね。生徒に教科書読み聞かすだけでいいよね』ってグチグチグチグチ言いやがって! あんな野郎こちらからお断りじゃあい」

 やっぱり振られてましたか。よしっ、賭けは僕の勝ちだ。よく2ヶ月持ってくれました。

「あのー、加納先生、僕です、南雲です」

「ああ、んだよ弟君かよぉ。こんな時間に何のようよぉ? はっ、まさかあんたもわらひを馬鹿にしようってないんでしょうねぇ!? そうよ、そうにきまっへるわ!」

 加納早苗(かのうさなえ)先生は電話越しに悪態をついてくる。加納先生は僕の先輩教師であり、なにより、姉の一番の親友だった女性で姉のタイムスリップを信じてくれた数少ない人だ。姉がいなくなってからもそれなりに親交はあったが、まさか職場が一緒になるとまでは想定外だった。今では(酒を飲まなかったら)仕事がバリバリ出来る優秀な教師であるが、あの変態姉と調子が合うような人だ、中学、高校のときは特に症状が凄かった。それはまた別の機会に話すとしよう。思い出しただけで気がめいってくる。電話をかけたことも忘れ昔を懐かしんでいると、

「ちょっとぉ、何かいいなはいよぉ」

 と呂律の回らない口調で返答を求めてきた。今のところは、酒さえ飲まなければ本当に完璧なのに。僕の周りは残念な完璧超人ばかり泣きがしてきた。ブラコン変態科学者、ぱっと見深窓の令嬢なのに本当はエクレア狂いのオリックスファン、齢(乙女の秘密)歳にして永遠のアニオタ、そして酒が入るとトコトンめんどくさい元○○病患者の数学教師。うん。碌なもんじゃねえ。

 自分のおかれている状況に溜息をつきながらも、さっきからこちらに敵意むき出しな先生に返答をする。電話越しでも敵意を感じるなんてよっぽどだな。

「やだなぁ、馬鹿にする気なんかこれっぽちも無いですよ。それどころか感謝の念を持ってますよ。先生のおかげで1週間食堂Aセットを教頭のおごりで食べれるんですから。いやー、人の金で買うご飯はおいしいですね」

「やっぱりあんたら賭けてやっがたかぁ!! おいこら南雲、今どこにおるんじゃい、教育的指導食らわしちゃる」

「まあまあ、落ち着いてください。ほーら、深呼吸、深呼吸」

「スーハー、スーハー……って違ふわよ!!」

「えっとですね、今からすんごい事言いますよ?」

「あー、何だってのよぉ、しょうもなかったらあひた教育的指導は免れないわよ」

「姉が帰ってきました」

「はぁ? 今何つった?」

「南雲美桜が発見されました。10年前と同じ姿で」

「ちょっとぉ、今日はエイプリルフールだからって、そんなたひの悪ひ嘘は止めてよねえ」

「信じたくないかもしれませんが、事実です。」

「んじゃあみおの声聞かせなさいよぉ、そひたら信ひてあげふ」

「分かりました。変わればいいんですね。おーい、姉さん、ちょっと変わってー」

 月明かりに照らされた学校の屋上で伊織と二人UNOに興じていた姉を呼び電話を持たせる。って伊織さん、また二人UNOですか。 

「どーしたの?」

「とりあえず電話に出て。それならすべて分かるよ」

「ってそれ電話なんだ。進んでるわねー」

 質問には答えず姉に電話に出るよう促す。そういえば2001年とかまだ携帯持ってない人の方が多かったしな。スマートフォンとかもっと珍しいか。

「はいはい、変わりました。あなたの街の天才科学美少女南雲美桜です、どちらさ……ってこう君、切れちゃったけど」

「貸してください!」

 姉から携帯を強引に取り、もういちどかけなおす。

「おかけになった電話は、現在思考が追いついていないため電話に出ることが出来ません。御用のある方は速やかに電源ボタンを押して電話を切って金輪際私に関わらないように勤めてください」

「もしもーし、現実は残酷でしたかー?」

「だっておかしいじゃないの! いきなり美桜の声が聞こえたんだもん! そりゃ錯乱の一つや二つしするつーの!!」

 あまりにも衝撃的だったのだろうか、一気に素面に戻りよった。

「まあこれにはカクカクシカジカな理由がありまして」

「ごめん、カクカクシカジカじゃまったく伝わらないんだけど」

 ですよねー。仕方なくこれまでの一部始終を話す。

「で、帰れなくなったから美桜のおき場所に困っているわけね。そんなのあんたんちに泊めたら良いじゃん。姉弟なんだから何一つおかしいことないでしょ?」

 さっきも似たようなことを言われた気がするぞ。

「言っておくけど私の家は貸さないわよ」

 何も言ってないのに先手を取られた!!

「いや、でも僕の貞操が」

「ごめん、本当に心底どうでも良いわ。むしろ積極的に行っちゃえよ。美桜あんたのこと大好きなんだし、なんだかんだ行っても弟君も美桜のことが好きでしょ? 両想いじゃんか。リア充死ね」

「なんか最後聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がするんすけど」

「気にしちゃ負けよ」

 さよですか。

「あと僕は姉のことなんとも思ってないですからね。近親相姦なんて洒落になりませんよ。仮に好きだとしてもそれは姉としてって意味ですから」

「何とでも言ってろ。んじゃ楽しい夜をー。リア充爆発しろ。」

 悪態をつかれて切られた。うーん、この人も駄目かぁ……どうすれば……。

「すぅ……すぅ……」

 気付いたら姉さんは眠っていた。まあ今日は色々あったから無理もないか。もしかしたら、タイムスリップの相当な体力を消耗するかもしれないし。おぶって帰らないといけないのか……。しかもタイムマシンも重そうだし。行けるのかな……僕体力ないからきついか。何で今日歩きできたんだろう。と考えていると、

「あのー、先生、僕のところでよければお姉さまを一晩ぐらいなら休ませることが出来ると思いますよ。後タイムマシンも車で運べますし」

 意外なところから申し出が出た。って伊織、まだいたんだ。

「まだいたんだとは失礼ですね。まあ確かにこんな時間まで外をぶらつく事もなかったんでそろそろ帰ろうとしていたんですが流石に先生に一言も言わずに帰るのは心配かけるかと思ってずっと待ってたんですよ?」

 それは悪いことをしたな。って別にメール一つ入れてくれたらよかったのに。

「……それもそうでしたね」

 なんか歯切れが悪く感じる。もしかしてわざと待ってた? と聞こうとも思ったが止めておいた。そのほうがいい気がしたからだ。

「んん……こう君……ここは?」

 まだ学校の屋上だよ。

「姉さん、今日のところはもう帰ろう」

「ふぁあい」

 そういって彼女はまた夢の世界へと旅立った。さっきからずっとこう君、こう君って言ってるけど僕大丈夫かな……。

「先生、お姉さまはどうされるおつもりですか?」

「あー、気持ちだけありがたくいただいとく。とりあえずうちに持って帰るよ。流石に生徒にそこまでは頼めないや」

「そうですか。まあ久々の再開なんですから積もる話も色々あるでしょうし。それっじゃあタイムマシンだけ車で運ばせていただきますね」

「ごめんな伊織。手間かけさせちゃって」

「いえいえ、お気になさらず」

 ここでエクレアを請求されるんじゃね?って思っていたから少し拍子抜けだな。ここは麻生家のご好意に甘えるとしましょう。

「それじゃ伊織。始業式でな」

「先生、美桜さん、お気をつけて」

「スゥ、スゥ」

 伊織と別れた僕たちは家路へと向かう。


 まさか姉を背負って帰る日がやってくるなんて、ちょっと嬉しいかも。昔の僕は姉に背負われてたからな。いつの間にか平均ぐらいまで背も高くなり、見上げる存在だった姉を超えてしまった。いつぞやの誰かの言葉を思い出す。

「男の背中は辛さなんかじゃなく、誰かの温かみを背負うために大きくなる」

 臭い台詞だな、まったく。

「こう君、じたばたしないでぇ、もうすぐ家だからね」

 夢の中の姉は幼き日の僕を背負っているのだろう。

 姉さん。もうすぐ家に着くからね。

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