二宮春の肉祭り~Bar-B-Q~
「あら、航くん久しぶりね」
「ご無沙汰しております、おばさん」
バーベキュー会場という河原についた僕らを二宮ママが出迎える。
「母さん、5人増えるって。親父は今絶賛勧誘中」
「あらあら、あの人にも困りましたね」
まったく困った素振りを見せず笑う。しかし、よくおやっさんと結婚したもんだと思う。こういっちゃ何だが、美女と野獣だぞ。
「お母さんの趣味は変わってるからね」
ですよねー。筋肉モリモリのマッチョマンと、ヤマトナデシコという言葉が相応しい和風美人なんて不釣合いだもん。お母さんに似てよかったな。
「中身は親父似っていわれるけどさ……、はぁ」
昔の彼女はどちらかというと入野みたいにおとなしい子だったんだけどな。環境が与える人格の形成というのは凄いな。
「あら? そちらの彼は?」
二宮ママは西邑の存在に気づいたようだ。あれ? 今のなんかおかしくね?
「僕が男だってわかったんですか?」
「あら? 面白いことをいうわね。男の子じゃないの?」
「い、いや、何でもありません!!」
感じた違和感というのは、一発で西邑が男子だと気づいたって事みたいだ。初見殺しをいとも容易く見破るなんて……、恐ろしい子!!
「伊達にあの人と暮らしてませんから」
あの人は未だに嬢ちゃんと思ってるみたいだけどね。
――
「小町ちゃーん! 待ちくたびれたぜー!」
「ヒャッハー! 肉だ肉だー!!」
「いいよなー、俺なんか減量中だからほとんど食えねえぜ」
「おっ、今日はカワイコちゃんもいるじゃねえか!」
「はいはい。あんまみんな食うなよ~? あんたも怖がらないっ!」
「は、はいっ!」
「はぁ、世話が焼けるなぁ……」
河原ではボクシングジムの皆様がお腹をすかせて待っていた。皆なかなかにごついから西邑は完璧に萎縮しきってるようだ。
その一方で近所の子供たちは、
「おらっ! どーだ、また俺の勝ちだ」
「ゆーすけつよーい!!」
「ちくしょー! もう一回だゆーすけ!!」
「へっ! なんどやっても俺には勝てねえよ! なんたって俺はおやっさんの一番弟子だからなあ」
昔懐かしいベーゴマ遊びに興じていた。ゆーすけ? ってまさか、
「おっす。まだベーゴマやってんのかよ」
「まだって失礼だな! ってお前南雲!?」
「よっ、魚住。元気そうじゃん」
「へっ、てめえこそ。 小町ちゃんのクラスの担任なんだろ? 入学式見に行ったけどあれは傑作だったぜ。決闘だなんて最近の高校生は過激だなぁ」
「ははっ、あれは例外だよ」
久しぶりの再会に話しが膨らむ。せめて同窓会ぐらい顔を出してほしかったが、日本を代表するボクサー様は忙しいらしく、なかなか顔を合わせることが出来なかったのだ。
「まさかお前がボクサーになるなんてな」
「ま、いつまでも泣き虫じゃいれねえかんな」
魚住祐介は笑いながら言う。子供のころは学童の生徒同士仲がよかったが、中学校が別々になったこともあり疎遠になっていた。魚住のことが記憶から薄れつつあるときに、ふと見たテレビにこいつが映っていた。
『最年少ライト級チャンピオン誕生!!』
いつの間にか手の届かない世界の住人になっていた。スポーツ番組だけでなく、バラエティでも活躍するボクサーといち高校教師が会うことはないと思っていたが、やっぱり世間は狭いもので、おやっさんのジムに所属しているみたいだ。ここらで恩を売っとけば後々便利なのかね?
「ゆーすけ、おしりあい?」
「ああ。俺様の子分だよ」
「どちらかというとお前がな。ほれ、いつものように三回回ってワンといえ」
「出鱈目言うんじゃねえよ!!」
――
「おーす、てめえら食ってるかぁ?」
肉がいい感じに焼けてきたころ、勧誘中だったおやっさんが帰ってきた。後ろを見ると、さきほどのナンパ野郎もいるみたいだ。三人の頭を見ると漫画みたいなたんこぶが出来ていた。おやっさん、何したの?
「ま、愛の鞭だよなぁ」
二宮徹郎氏によって愛の鞭万能説が提唱されました。頭を押さえているあたりパッチギでもかましたか?
「あー、こいつら今日からうちのジムの家族だからみんな可愛がってやれよお?」
どうやら勧誘に成功したみたいだ。俺っちと契約してボクサーになってよ!! けど可愛がるって言葉通りの意味だよね? そうだよね!?
「はぁ、また人増えるよ……。ご飯作る人の身にもなってよな……」
「いいじゃないの。また賑やかになりますわ」
「お母さんも甘いんだから……」
ため息を吐く小町ちゃんと、子供が増えて嬉しそうな西邑ママ。この二人姉妹って言っても通じそうだ。それほどまでにママンが若々しいんだけど、一体何歳なんだろうか?
「航くん、世の中には触れちゃいけないものだってあるんですよ?」
何されるか分かったもんじゃないんで遠慮しておきましょう。
「おっす、航、嬢ちゃん、食ってっか?」
おやっさんが僕らに話しかける。
「ま、それなりに食べてるよ。それとおやっさんに言わなきゃいけないことがあるんだけど、こいつ男だぞ」
西邑を指しながら言う。
「おいおい、航よぅ、そんなジョークに俺っちが引っかかるとでも思ってんのか? こんな男がいるわけねえだろ。うちの娘より可愛いじゃねえか」
「悪かったなー! 可愛気がなくて」
「けっ、容姿だけ母ちゃんに似て中身は誰に似たんだか」
あんただよっ!! あんた以外の誰がいんだよ!!
「それよりなあ嬢ちゃん、うちのジムでバイトしねえか?」
勧誘根性すげえな……。そんなに勧誘する必要あんのか?
「あ、あの……、僕……」
「僕って小町みてえな一人称だなぁ、おい」
「ぼ、僕……、お、お、」
「お手洗いか? お手洗いならあっちだぞ」
「お、おと……男なんです!!」
河原いっぱいに広がる絶叫。
「……」
訪れる沈黙、そして、
「お、おいっ。ちょっと来い!」
西邑はおやっさんに連れられてお手洗いへ向かう。なんだろうか? 誰かに見られているような気がするぞ……。主にトイレのほうから……。
「なんじゃこりゃー!!!」
今度はおやっさんの絶叫が響き渡る。
「どうしたんすか!?」
ジムの皆さまが声の方向に集まる。おやっさんは顔面蒼白だ。
「こ、こいつは……」
「こいつは男だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」




