ぷろろーぐそのご 長い長いプロローグの後はもっと長い未来~Our story has just began!~
2011年3月31日23時55分 姉帰還予定&誕生日まであと5分
「先生、そろそろ時間ですね」
伊織に指摘され時計を見る。あと5分をきっていた。インスタント焼きそばにかかる時間とたいして変わらないな、なんてくだらないことを考えながら伊織に話しかける。
「なあ、伊織。10年ぶりに会う人に対しての第一声は何がいいと思う? こっちからしたら久しぶりでも相手からしたら1秒ぶりかもしれないし」
伊織にため息をつかれる。あれっ、呆れられたのか?
「先生、僕が言うわけじゃないんですから自分で考えるべきですよ。帰ってくる人に言う言葉って一つだけでしょうに。もしかして緊張してますか? さっきからずっと時計をちらちら見ていますし。まだ4分ぐらいありますよ」
「それもそうだなぁ……、ははは」
やっぱり僕は伊織に勝てる気がしない。僕の考えていることはお見通しだもんなぁ。苦笑いをするが少し気まずくなった。
「もう少しお話しましょうか?とはいっても、もうすぐお時間ですけどね」
「いや、大丈夫だよ。悪いな伊織、気を使わせちゃって」
伊織の申し出をやんわりと断る。そうですか。と伊織は言いまた流れ星を探す作業に戻る。さっきから伊織は流れ星に対して、自分の願いというよりも自分を含めた人類全ての願いを流れ星にこめている。例えば
「紛争根絶、紛争根絶、紛争根絶!!」
やら、
「日本経済復活、日本経済復活、日本経済復活!!」
やら、
「オリックス優勝!オリックス優勝!!オリックス優勝!!!!」
だったりと。心なしか一番最後のオリックス優勝が一番力が入っていた気がする。そういや伊織は生まれてから小学校時代は神戸にいたんだっけ。
「僕の尊敬する人ですか? それはもう、イチローと扇監督ですよ!!特に扇監督は……って先生!! 聞いていますか!!」
って感じのことを前言ってた気がする。その後はひたすら扇監督とイチローの話しをされたっけな。普段の伊織はお嬢様って感じだけど、どうもオリックスの話題になると人が変わるみたいだ。去年卒業した天文部部長は
「これこそギャップ萌!! いいわいいわ、伊織ちゃん。あなたは私をどれだけ萌えさせれば気が済むのかしら。伊織ちゃんを男性化にして先生と絡ませるのもありね……」
と彼女を評していたけどそれ以降僕と伊織を見る目が変わった気がする。なんと言うか、滾ってたと言えばいいのか。
全盛期の天文部を思い描いていくうちに時間が近づいてきた。時計を見るともう1分を切っている。いよいよだな。流石に緊張してきた。隣を見ると伊織もいつもに比べ固く見える。
そして30秒を経過したころ、それは起きた。
ピカッ
急に強い光が発生し僕らは思わず目をつぶってしまう。再び瞳を開くと、そこには光の群れ、そう、あの日と同じように光が集まっていく。
「綺麗……」
伊織が放心したようにつぶやく。美しいだとか綺麗だとかどんな言葉を使っても表現できない。いや、言葉にすること自体罪なのしれない。それほどまでに彼女は眩かった。彼女?目を凝らしてみると光の群れは人の姿を作っていく。そしてそのシルエットは僕が10年間待ち望んだものだった。
ようやく、帰ってきたんだね。
そして一人の女の子を形成し、役目の終えた光は薄れていった。その場に残されたのはかつて見た記憶のあるタイムマシンと一人の少女。彼女はいつものように、サイズの会わない白衣を着ていた。懐かしさがこみ上げてくる。
もう、我慢しなくてもいいよな。
そして僕は彼女に声をかける。10年分の思いをこめて。
「ただいま。お姉ちゃん」
「おかえり。こう君」
そして二人は抱き合うように両手を広げ……
かーらーの!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「なに人様を10年またすんじゃあああああ!!!このアマガァァァァ!!!!」
「ぐふっ!!」
全力でパッチギをかましちゃいました。
「……」
あー、伊織ちゃんドン引いてますねー。「唖然とする」ってまさに今の彼女事を言うんだろうなぁ。まあ、彼女がぽかーんとするのも無理はない。考えて欲しい。僕と姉の10年間の物語は上っ面だけ見たら美談に聞こえる。10年後の世界に旅立った姉と、その姉を10年間待ち続けた弟。さらに弟は小さいころの夢をかなえ高校教師になったり、今日という日が僕の誕生日ということも考えると、まあ全俺が泣いた!!な話になる。スイーツ(笑)と罵られるかもしれないが、まあ感動ファンタジーといっても差し支えないだろう。タイムスリップの理由を聞かない限りは。
そして僕が10年間持ち続けた思いは綺麗なものではない!!
「いってー、こう君、いくら10年ぶりにお姉ちゃんに会えたのが嬉しいからっていきなり頭突きするのは酷くない?」
よし。この人は紛れもなく奴だな。南雲美桜。正真正銘南雲家の長女様だ。僕を10年間待たせやがった張本人だ。そしてブラコンだ。最後のは心底どうでもいい。お姉ちゃんが僕を見ている。さて、どうしたものか。とりあえず、ここは一つ僕の10年分の怒りを受け止めてもらおう。
「はぁ? こう君って誰よ? 俺の名前は麻生って言うんだけど。人違いじゃね?」
「それ……、僕の名前なんですけど」
後ろで伊織が何か言っているが無視する。止めるでない、伊織よ。これは僕の存在を賭けた戦いなのだ。
「へっ? でもさっき「ただいま、お姉ちゃん」って言ってなかった?」
「お姉ちゃん? 何言ってんの? 俺はさっき「ただいま、O・ネイチャー」って言ったんですけどー」
「O・ネイチャーって誰!?」
おっ、この流れは懐かしいな。変態的な部門では姉に対して突っ込み役になるが、姉に対してボケ倒すと、姉は突っ込み役に回る。南雲姉弟は突っ込み体質の持ち主なのだ。それでは少しの間南雲姉弟の漫才チックなやり取りをどうぞ。
「んだよ、知らねえのか? O・ネイチャーは崩壊した未来から救世主たらん俺を抹殺するために送り込まれた筋骨隆々のグラサンアンドロイドだよ。OK?」
「OK。っじゃないよ!!何ですかその規視感バリバリのアンドロイドは!?」
「因みに口癖は「私は戻ってきますよ。ドド○アさん」だ」
「何か違う人混じってない!?」
「英語にするとI’ll be back,MR.DODORIA」
「それもはやシュ○ちゃんじゃん!? 申し訳程度にフ○ーザ様混ざってるけど! 未来の技術と宇宙最強が融合しているよ!? そしてドド○アさん何をやらかしたの!?」
「ハァ?何を言っているわけ? O・ネイチャーは女なんですけど?」
「ターミ○ーターのメス!?シュ○ちゃん女体化!? 水でもかかったの?」
「なに言ってるのか分かんないんだけど公式でターミ○ーター(メス)はあるぞ」
「ターミネーチャン!?」
ふう、この人をからかうのは面白いけど、流石に飽きたかな。そろそろネタばらしすっか。
「後、シュ○ちゃんだけど、今は政治家だよ?」
「本気と書いてマジ?」
「本気と書いてマジ」
はぁ、とため息をつくと姉は寂しそうに空を見上げる。色々と情報が追いついていないのもあるだろうけど、この場にいない弟に思いをはせているのかもしれない。
「私にとってはホンの一瞬だったんだけど、10年で色々変わってしまったのね……覚悟はしていたケド」
変わっていないのは姉さんだけだよ……そういおうとした矢先、
「さてと、お姉ちゃんをからかって楽しかった? 麻生さん。いいや、こう君」
あれ? 雲行きがおかしいぞ?突如として笑顔になる。でも何故だろうか。これは笑顔というには冷たすぎるのだ。そして僕はこの顔を覚えている。姉さんが本気でキレたとき、その表情は鬼のような怒りの表情ではなく、氷のような微笑を作る。
そして今まさに彼女はその形相をしていた。
「な、何を言っているんだよ……俺は麻生だって「いいえ、君は私の大好きな自慢の弟のこう君よ。」」
割り込んで話す。もしやこの女、最初から分かっていたのか……
「どうしてこう君と言い切れるのかって顔しているわよ? まあいいわ、教えてあげる。君がこう君だって言い切れる理由を」
「それは……」
彼女はにじり寄ってくる。それにつられ、僕は思わず後ろに下がってしまう。そして彼女は口を開く。長らく聞くことのなかった、不可能を可能にする魔法の言葉を。
「私がこう君のお姉ちゃんだからだよ!!!」
そう言い切ると同時に僕に抱きついてきた。正直これは予想外だった。
「姉さん……」
「こう君、お姉ちゃんって呼んでくれなくなったんだね。なんかちょっと寂しいや。10年間だもんね。20歳過ぎてお姉ちゃんは少し恥ずかしいよね。お姉ちゃんが言ったとおり身長も伸びちゃって。なんか頼もしく感じるよ。懐かしいなぁ。昔は私がこう君をおぶっていたのに逆転しちゃった」
姉は感慨深げに語る。彼女は泣いていた。姉が泣いているところは始めてみた。そして気付く。泣かせたのは他でもない僕だ。
「姉さん、ごめん。やり過ぎちゃった……」
「良いの、こう君、私のほうこそごめんね。10年間待っててくれたんだよね。寂しかったよね?」
「……別に寂しくなんかなかったし」
「ふふ、強がっちゃって。でもそういうところは変わってないね。安心しちゃった。私さ、ホントの事言うとね、不安だったんだ」
姉はポツリポツリと話し始める。泣き止んではいるけど、ここまで悲しい顔をした姉は初めてだった。そんな顔一度も見せなかったのに。たった一人の家族の前では常に笑顔で、「悩みなんかないんだろうなこの人は」と羨んだものだ。彼女の本当の気持ちに向き合うことなく、ただ不器用なりにも、僕一人のためだけに姉であり続けた彼女の本当の心にようやく触れた気がする。
「私にとってはほんの一瞬の事だった。その一瞬とこう君が暮らしてきた10年の重さなんかさ、比べ物にならないよ。いいや、こう君だけじゃない。この国が、いや、この世界が歩んできた10年という歳月の重さを今ひしひしと感じてる。だから10年の間でこう君が変わってしまったら、もし私を受け入れてくれなかったら、最悪忘れられてしまったら私は何をしにここまで来たんだろう。って。私はこの世界にとってイレギュラーなんかじゃないかって」
「姉さん……」
「だからさ、私もう帰るよ。こう君の生徒になるなんて言って来てみたけどもう十分。この時代に会わない人間は元いた時代に引き返すよ。それとこう君、後ろの彼女は?」
姉は伊織の存在に気付き僕に尋ねる。突然指名された伊織は、少し戸惑いながらも口を開こうとする。でも僕はそれを制し、
「彼女は僕の生徒だよ」
「そっか。夢叶ったんだね。結構かわいい生徒さんじゃん。私と同じぐらいかな? ええと、」
「麻生伊織です。はじめまして、先生からお話はかねがね聞いていました。いつも南雲先生にはお世話になっております。しかし、いざ実物にご対面となると緊張しますね。先生が言ってた通り御綺麗な方ですね」
「こう君、綺麗だなんて……褒められて悪い気にはならないな。伊織ちゃんでいいかな? あなたも可愛いわよ?」
「お褒めに預かり光栄です」
伊織は丁寧に礼をして返す。そこまで言わなくてもいいだろ、伊織。身内でも褒めてたのを聞かれたら少し恥ずかしいぞ。それにしても、見れば見るほど対照的な二人だ。
「先生しっかりやってるんだね。働き振りを見れないのは残念だけど、長くいたら名残惜しくなっちゃうし……じゃあ、またね。こう君」
彼女はそういってタイムマシンに向かっていき、おもむろに操作しだした。そして再び別れがやってくる。帰ったら、13歳の僕によろしく。一人で祝う誕生日は寂しいからさ。
「じゃあこう君、いってきます」
「あぁ、いってらっしゃい」
タイムマシンが起動しだす。帰ってきたときと逆に、無数の光が彼女を覆い始める。また戻るのかと考えると、寂しくなる。
ってあれ? 何かおかしくね? 姉さん帰るの? 何だろ、この違和感は……
一人悩んでいるうちに彼女は光に包まれて、過去に……
帰りませんでした。
「って、あれ? 戻ってない?」
目の前には、先ほど変える宣言をしたばっか南雲美桜さんがいた。
「おっかしいなぁ、もう一回やろう。気を取り直して……こう君、いってきます」
「そこからやるんだ。姉さんいってらっしゃい」
タイムマシンは起動し、また彼女は光に包まれる。そして姉さんは……
「どーして戻らないのよ!!」
普通にいました。
「姉さん、どうしちゃったの?」
不安になって声をかける。
「だからこれがあれで――、そんでもってこれだから――」
まったく何を言っているかわかりません。
「それでこうなって……ってまさかっ!?」
姉は絶句した。まさかとは思うけど……いや、そんなオチがあってたまるか!!
「どうしたの、姉さん!?」
いるかどうかわからない神様仏様、お願いだからあのオチだけは遠慮してください!!
「タイムマシン……一方通行でした……テヘッ///」
「テヘッ///じゃねェよォォォォォォォォォ!!!!!」
どうやら、これから弟と姉の新しい生活が始まるそうです。