恐怖の入部テスト~:E lucevan le stelle~
天文部入部テスト。うん、突っ込みどころしかない。文化系のクラブに入部テストが、しかも天文部というどちらかと言うと研究をメインにするようなクラブにテストが必要なのか。答えは簡単。
「これで不純な動機で来た輩を一斉排除致しましょう」
伊織さん、笑顔が怖いです。
「でも仕方がないです。ここまでなんというか筆舌にしがたい連中が来るとは思ってなかったので」
口が悪いですよ、伊織さん。しっかし見事に揃いも揃って天文なんて生涯無縁そうな奴ばっかり集まっている。多分星座を聞いたら死兆星とか答えそうだな。にしてもざっと30人はいるんじゃないか?
「確かにこれじゃあ純粋に天文部に入りたい子も怖がって入れないわな。こいつら全員集めたら多分学園ドラマ出来んじゃねえのかな」
入部テストは仕方のないことなのだ。目先の利益につられて未来をつぶすよりも、一歩二歩先を常に見据えて行動すべきだ。
「で、なんか去年もしてた気がするけど入部テストって何するの? 噂に聞くのは全部碌な物じゃないんだけど」
例えば仏の御石の鉢を持って来いだとか蓬莱の玉の枝を持って来いだとか……。
「どこのかぐや姫ですか……。まあ簡単ですよ。ちょっとお待ちください」
そういって伊織は入部希望者(と言う名の伊織に一目ぼれした皆様)の前に立ち宣言する。
「たくさんの見学者ありがとうございます。でも悲しいことにこの人数が全員入ると部室が一杯になってしまいますし、なによりまだ歴史が浅いクラブですので、急な部員増加は混乱を招きかねません。そこで苦渋の決断ですが、皆様には入部テストをしてもらいます」
伊織の入部テスト宣言。不意をつかれた新入生たちはざわめきだす。
「聞いてねーぞ!!」
「だって今初めて言いましたから。別にテストを受けなくても結構ですよ? その場合入部資格を失ってしまいますが」
「どーゆーことだよ!!」
「おかしーだろそれ!」
「ハァハァ……、いおりん萌え~」
伊織目当てに来た連中は不満を口にしだす。何名か違う気がするがまあいい。
「でもテストに合格したらいいこと尽くめですよ。ね、先生?」
「そこで僕に振るっ!? いいこと尽くめってそうだな……。前は沖縄にサザンクロスを見に行ったかな……。旅費のほとんどは学校から出たから実質飯代とお土産代ぐらいで行けたしな」
沖縄っていっても夏ではなくて、卒業生たちの進学祝で春休みぐらいに行ったんだけどね。
「聞いたか? 沖縄だってよ?」
「ってことは……」
「「「「水着が熱い!!!」」」」
まあ黙っておくか。サザンクロスは夏には見れないんだよ。
「動機は不純ですがみなさまテストを受ける意思があるということですね。分かりました。それではテストの内容を発表します」
ジャカジャカジャカ……。ドラムロールがどこからともなく聞こえてくる。
「んだよmixiかよ、空気読めよなぁ」
古村君の携帯の着メロでした。
「テストの内容ですがまず一つ目、私に89個目の星座を教えて欲しいのです。天文部に所属しておいて恥ずかしいのですが、私実は89個目の星座の存在を知らないんです。今から30分間時間を与えますのでこの星座早見表を使って探してください! それでは……スタート!!」
伊織がそういうとハイエナのように早見表に群がる。しかし初めて見る人が殆どなのか、みんなどうすれば良いか分からないようだ。
「星座早見表を見るときは押さない、走らない、喋らないですよ」
防災訓練か!!
――
「タイムアップです! それじゃあ皆様お手元のフリップに答えをどうぞ!!」
30分が経過し、回答を求められる。さて、チャラ男たちはどんな珍回答を繰り出してくるのか……。
「それでは、まずは古村さん!!」
「そりゃあ89番目の星座って言ったらこれ以外に何があるんだっての!」
古村君の答え!
『死兆星』
「悪いけど、こいつと同じ答え書いた奴、全員フリップ上げろ」
えーと、ひふみ……
「全員じゃねえかああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
一人二人はいると思ったけど全員書くとは思ってなかったよ!! 何なの!? みんな北斗○拳読んだの!? んなもんフィクションだろうが!!
「いいえ、先生。死兆星って実はあるんですよ」
そうなの?
「北斗七星の脇にある恒星です。マニアの中では二重星の代表として馴染み深いんですよ。まあ学名はアルコルって言うんですけど」
勉強不足でした。
「ああ、残念! 誰一人正解はいませんでした!」
伊織さん、嬉しそうだな。
「正解は……そんな星座ありません!!」
は?
「星座というのは88個しかないんですね。もし89個目なんか出たら歴史がちょっぴり変わりますよ。歴史に名が残りますね」
語尾に(笑)って付きそうな言い方をする。火に油を注ぐって多分今のあなたのことを言うんでしょうね?
「そんなの卑怯じゃねーか!!」
ほら、暴動が起きそうじゃないですか。
「89個も星座が有るとは言っていませんし最新の早見表も見せたじゃないですか。ちゃんとあったと思いますよ? 星座が88個」
「納得いかねぇよ! 顧問もなんか言えよ!」
なんか、ねえ。
「法と証拠に基づき、適切に行っています」
「ぶち殺すぞてめえええ!!」
フランス革命みたいに盛り上がるチャラ男ども。明日古村に殺されんじゃないか?
「どーする? このままじゃギロチン行きだぞ」
「そうですね……。もう一つチャンスを与えましょうか」
暴徒と化したチャラ男達の前に伊織は再び立つ。マリー・アントワネットってこんな感じだったんだろうな。
「そこまで不服ならもうワンチャンス与えます。これがラストチャンスですからね?」
もうワンチャンスある。それを理解した皆様は、
「ワンチャンあるよ!」
「あげぽよおおおおお!!」
狂喜乱舞してらっしゃいます。
「良いのか? こいつらもうなりふり構わず来るぞ」
「大丈夫です。次のテストはシンプルですから」
そう言って伊織は金色に輝く携帯電話を取り出す。
「携帯変えた?」
「いや、これは召喚機ですよ」
何を召喚するんだ? ペルソナでも使うつもりか?
「ポチッとな」
電話をかけると出ずに切る。何がしたいのかさっぱり分からない。
「ホントなら第二審査に使うつもりでしたが……。星を見ると言うのは意外と体力を使います。荷物は重いし夜遅くまで星を見なきゃならないし……。結構大変なんですよ? ということで次のテストは体力テストです。みなさま、ジャージに着替えてグランドに出ましょう」
部室にジャージなんかあったっけ?
「ここにありますよ。ちなみに、麻生の新作です」
商売上手なやっちゃ。
――
麻生ブランドのジャージに着替えグランドに出た僕らを出向かえたのは、
「フッフッフッフ……」
グランドに合わない作業着みたいな服を来てベンチに座っている大男だった。
「テスト内容は鬼ごっこです。30分間彼から逃げ切れば合格です。しかし捕まったらその時点でアウトです。ただし捕まった後はどうなるかまでは責任を取れませんが」
あの男から逃げ切れば良いのか。でも責任がとれないってどういうことだ?
鬼と目が合う。すると作業着のチャックを下ろし、
「やらないか」
「アベさんはいい男が大好きなんですよ」
アウトォォォォォォ!!
「なんでいんのさ! アベさん漫画の人でしょ?」
「もしかしたらこの僕達のいる世界が漫画なのかも知れませんよ?」
僕達やま○ゅん絵なの!?
「いいのか? ホイホイついてきて」
いつの間にか背後を取られたあああああ!!
「先生は僕の大切な人なので違いますよ! 本日のターゲットは……、彼等です」
指差す方向には……現役男子高校生達。
「ウホッ」
良かったな、お前ら。いい男認定されたぞ。
「それじゃあ一分数えますのでその間に逃げてくださいね。範囲はグランド内だけです。といっても結構大きいので充分ですね」
気付いたら他の運動部はギャラリーに回っていた。なんか……邪魔してスンマセン。
「それではカウントスタート! 1、2、3、4、5……」
入部希望者達は一目散に逃げ出す。そのどいつもこいつも必死の形相だ。そりゃ必死にもなるわな、相手があれじゃ……。
「やらないか♪」
歌わないで下さい。
「58、59、60! 一分経ちました! さあ狩りの時間の始まりよ!!」
「フンッ! フンッ!」
いおりんが楽しそうでなによりです。後アベさん、その腰つき止めて下さい。胸騒ぎどころか胸やけしそうです。
こうして、どんな殺人鬼や悪霊よりもある種恐ろしい鬼と男子高校生達との攻防戦が幕を開けた。




