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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
南雲学級あれこれ
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癒しの場所、天文部室~Tea time in after school~

「はぁ、今日もなかなか大変だったよ。ホームルームだけでこれなら授業が始まったら一体どうなることやら……」

「随分とお疲れですね。そんな時はこれです。はい、紅茶。ご存知かも知れませんが、紅茶には疲労回復、ストレス低下の効果もあります。そうですね、今の先生にはこちらがピッタリです」

 冷蔵庫から何かを取り出す。中を覗くとエクレアがぎっしり詰まっていた。賞味期限大丈夫なの?

「大丈夫ですよ。全部美味しくいただきますから」

 また口から心の声が漏れていたみたいだ。注意注意。

「エクレアは別腹ってか。んでさっき何を取り出したんだ?」

「ああ、それはですね……」

 僕の目の前に置く。これは……、

「A ポンカン、B グレープフルーツ、C ネーブルオレンジ、D 橘みかん、さあどれでしょう?」

 悩むな~、特に四つめが怪しいなあ……ってんなわけあるかああああああああ!!


「四つ目のやつ人じゃん!! 紛らわしいしい名前してっけど人じゃん!! むしろそれを並べた意味は何? ボケ誘い!?」

「何を言っておられますか。これは愛媛の橘さんが作られた正真正銘の橘みかんですよ。まあ実際は先生がご指摘なさったように、漫画のキャラの名前にかけているんですけどね。でもこれはみかんじゃないです」

 ゴメン。見たら分かる。少なくともその形状や大きさや色を見ると自ずとAとDの選択肢は消去されます。いや、それ以前に見たまんまじゃないですか。

「グレープフルーツだろ?」

「正解です。グレープフルーツにはビタミンCが豊富です。さて説明致しますと、疲れるのは脳に活性酸素ができるからです。そしてビタミンCが酸化して活性酸素から細胞を守るので、そうなると疲労が回復します。言ってしまえば、紅茶とグレープフルーツという疲労回復に効く物コンボには、かなりの癒しの効果が期待できますね」

 説明しながら馴れた手つきで準備する。

「はいどうぞ。見た目にも気を使ってみました。ちょっぴりトロピカルな気分になりませんか?」

 トロピカルを演出したというそれは、単にグレープフルーツの一切れをグラスに刺しただけだった。

「トロピカルなのか?」

「トロピカルですよ。アロハ~」

 エアウクレレを鳴らしてトロピカルらしさを演出する。さてお味の方はどうかしら……。

「って甘っ!!」

 そう、甘いのだ。グレープフルーツだからてっきり酸っぱいものが来ると思っていたが、やって来たのは胸やけしそうな甘ったるい紅茶。期待を見事に裏切られる。

「ふふっ、驚きましたか?」

 伊織を見るとどこからか持ってきたのか、『ドッキリ大成功』と書かれた看板を持っている。貴様、謀ったな!!

「まだグレープフルーツを入れてなかったんですよ。だから先生が今飲まれたのは、ただの甘い紅茶です。どうですか? グレープフルーツだから酸っぱいと思っていたら騙されてたってどんな気持ちですか?」

「その質問の仕方は心底うぜーよ!! 友達なくすぞ!」


 この後ちゃんとグレープフルーツティーを美味しくいただきました。



――



「伊織、明日どうすんの?」

「明日ですか? はて、何かありましたっけ?」

「忘れるなんてらしくないな。明日の三時間目にクラブ活動紹介あるんだよ。きちんと伝えたと思うんだけど」

「あ~、そういえばそうでしたね。美桜さん絡みの出来事でドタバタしていたので完全に失念していました。挨拶みたいなのを考えなきゃいけないんですよね?」

 伊織にしては珍しく、焦ったような顔になってくる。と思ったのも数秒のこと。すぐにいつもみたいに落ち着きを取り戻し、

「あんまり部員は欲しくないのでサボっちゃいましょう」

 とんでもないことを口にする。あのー、伊織さん、どういうつもりでせうか?

「前も言いましたが、僕は先生と二人っきりでも構いませんよ? いや、先生なら僕が言いたいことが分かりますよね?」

 何が言いたいんだ? なんて思う前に伊織の言葉に隠された意味を理解する。

「そういうのは恋人に言うもんだぞ?」

「先生、僕に恋人がいないのをご存知でしょう?」

「そういやそうだな。でもまあ僕も大体伊織と同意見だ」

「先生こそ恋人に言うべきですよ。香取さんですか? それとも美桜さんですか?」


 部室に流れる時間は、優しく緩やかに過ぎる。 もし出来るのであれば、僕らはこの時間をもう少し享受したいものだ。



――



「美桜さんから晩御飯を食べに来ないかって連絡が来ていました」

 部室を閉めた僕らは真っ直ぐに帰路につこうとした。伊織を送って帰ろうとした矢先、彼女の携帯に姉からのメッセージが来たらしい。先日のパーティーのお礼をしたいのだろうか?

「僕は先生さえよければお邪魔しちゃおうかと考えているのですが、先生としてはどうですか? 形式上生徒が先生の家に晩御飯を食べに行くっていうのは色々とまずいかも知れませんが」

「まずいもなにも昨日理事長の家に行ったじゃんか。正直まずいってのも今更だよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えちゃいましょう」


 僕と伊織は、姉さんが待つ我が家に足を向けるのであった。



――



「お帰りなさい。こう君、伊織ちゃん」

 姉さんはいつぞやのエプロンを来て出迎える。ホントにエプロンが良く似合うな。

「お邪魔しますね」

「ただいま。って他に誰かいるのか?」

 脱いだ靴を揃えるときに見慣れない靴があることに気付く。

「ああ、それはね……」

 姉さんが口を開くと、タイミングを見計らったかのように彼女が参上する。

「待っていたわ、こう先生、そして麻生伊織!!」

 どうやら台風はついに家にまでやって来たみたいだ。


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