俺の姉が結婚なんてするわけがない~Even brothers forget their bonds when there is a conflict of interest~
「なぁ先生、ねえちゃんが中年のおっさんと結婚するかも知れねえ……」
「け、結婚!? ねえちゃんってあの氷上先生がぁ!?」
半泣きの氷上が我が家にとんでもないニュースを運んで来たのは、色んなことがあった学祭も終わり、振替休日となった日のことだった。
――
「暇だ」
「キュッキュッ」
学祭の片づけは最終日に済ましたので、振替休日は本当にやることがなかった。天文部も基本的には休日の活動がなく、特に学校に行く用事もなかったため、暇を持て余しているというわけだ。ちなみに小学校は普通にあるため、古都ちゃんは登校し、姉さんも今日は病院に行くと言っていたため、今現在我が家には僕とペンギンのサンパギータしかいない。ペンギン相手に会話が成立するわけでもなく、ゲームの相手になるわけでもないため、久々に暇と言える時間を得ることが出来た。暇というのは罪と言えるが、たまにはこんなゆっくりした1日も悪くない。毎日毎日事件が起きると流石に身が持たない。何事も体あってこそだ。
しかしまあどっかにいる神様によるフラグ管理はしっかりされており、暇な休日はある男によって崩壊するのだった。
「邪魔するぞ」
「ぬわっ!?」
「ギュッ!?」
理事長を真似して一息つこうとコーヒーを飲もうとすると、急に声をかけられる。ドスのきいた声にびっくりしてしまいコーヒーをサンパギータに噴きだしてしまった。※動物虐待の気はありません。
「大丈夫かサンパギータ?」
「ギュー」
タオルでコーヒーを拭いてやる。
「どう言うことだよ氷上」
流石の僕も不法侵入されたことには怒るぞ。
「邪魔するぞと言っただろうが。何回もチャイム押したのに一向に出て来ねえからもしやと思ってドアを開けたら開けっ放しだったしよ」
ムスッとした顔で氷上は返す。俺は悪くない、悪いのはおまえだといった顔で見てくる。
「へっ? そなの?」
ピンポン鳴らなかった? そんなはずは……。
「マジかよ」
インターホンを押しても反応ナシ。これどこに連絡したらいいんだ? いくらかかるんだ?
「おい先生、聞いてんのか? もしもーし」
「ああ、悪い。こっちに気を取られて忘れてた」
「そーかい」
舌打ちこそしなかったものの、不機嫌そうな顔を見せる。別に来てくれって頼んだ訳じゃねぇんだがな。
「んで何だ? 僕の家に来るってことは」
「そうだよ」
「ペットで飼ってたタスマニアデビルが脱走したか」
「んな絶滅危惧種飼ってねえよ!! チッ、相談する相手間違えたか?」
軽いジョークだったんだけどなぁ。舌打ちで返されちまった。
「冗談だって。大方氷上先生のことだろ?」
「分かってんなら最初から言いやがれ」
氷上先生というのはコイツ氷上睦のお姉さんだ。姉キャラの例に漏れないのか、彼女も相当ぶっ飛んだ人だ。しかもそのベクトルが我が姉と同じという。普段はお淑やかで礼儀正しい人なんだけど、義弟のコイツが絡むと史上最強のターミネーチャンへと化す。この狂戦士のブラコンっぷりは姉さんをも軽く凌駕するぐらいだ。姉さんがタイムマシンを作ったなら、彼女は宇宙全体を掌握するぐらい危険な人なのだ。
「なに見てんだよ」
「いや、ちょっと見たくなってね」
「気持ち悪いぞ」
まあターミネーチャンモードはコイツ絡みに限るから、普段は人畜無害も良いところだ。教育実習での彼女の取り組みを見るとよーく分かる。教育実習が終わって半年ぐらいたっても、未だに生徒達からのダントツの人気を誇っている。ま、僕だって美人で教え方の上手い先生の方が良いもん。「で、ここに来たってことは氷上先生がまた何かやらかしたのかい?」
最近はマシになったからか無くなったが、氷上先生が暴走すると氷上は僕の家に逃げ込んできた。そしてターミネーチャンが我が家を荒らして、その度姉さんは麻酔銃を撃つというお決まりのパターンが出来ていた。特に氷上先生がどうこうって話は聞かないから、関係はとりあえず良好だとは思っていたけど……。
「……っ」
何故か悔しそうな顔をする。そして彼は涙を我慢するみたいに顔をくしゃくしゃにし、話してくれたのだった。
――ねえちゃんが結婚するかも知れねえ――
犬がタマネギを喜んで食べるぐらい有り得ない話を。
はい、学祭編の次は氷上姉弟の物語です。プロローグなので短めなのはご愛嬌。しかし久々に登場しますね氷上先生(後書きにこっそりいたけど)。口調とか間違えそうでちと心配。