逆上がりハリケーン~The sky is high, and kick it up!~
「いや、仕事しているところすみませんね」
悪かったと思ってるならあんな偏見にまみれた召喚をしないで下さい。御陰様でロリコン野郎のレッテルが貼られましたよ。
「大丈夫大丈夫。子供達にはロリコンって言葉の意味分かんないだろうし!」
そういう問題じゃねえよ!!
「で、用件とは一体なんですか? 図書室整備抜けてきたんで、僕としては早いとこ戻りたいんですが」
「まあ落ち着きなさい。ガッツく子はモテないわよ」
「余計なお世話です」
「まあ用件ってのはね、福家さん、いらっしゃい。こう先生が来てくれたわよ」
「……」
先生の後ろからひょこっと顔を出す理名ちゃん。僕の存在に気付くと、にぱーと笑顔になり、いつもな用に僕の服を掴んできた。
「ちょっとこの子の相手頼まれてくれるかしら? いつもは家に帰ってるんだけど、今日はご両親の方が大事な用があるみたいで学童に預けてたのよ。でも学童の子達の和に入るでもなく、指導員が近づいても、ビクついて逃げちゃうみたいなの」
「だから僕に白羽の矢がたったわけですか?」
「そういうこと。南雲君どんな魔法使ったか知らないけど福家さんに懐かれているでしょ?」
魔法って……、耳がでっかくなる魔法ですけど。けどその前に理名ちゃんの方から僕の所に来たよな? 特に彼女に懐かれるようなことした覚えないんだけどな。
「まあそれは何でもいいや。教頭には私から伝えておくから今日は福家さんと遊んでおいで。一応信頼して君に頼んでいるんだから、くれぐれも私の期待を裏切らないように」
安心して下さい。僕はロリコンではありません。
「ペドかもしんないじゃん」
だから僕に幼女趣味はないっつうの!!
「それじゃあちょいっとばかし宜しくね。適当な時間になったら私が呼ぶわ」
そう言って先生は職員室を出て行った。残された僕らも、他の職員の皆様の邪魔にならないように速やかに退出した。
――
「さて、理名ちゃん何して遊ぶ?」
しかしまあ、いくら懐かれているとは言っても、何をしたらいいのかサッパリ分からない。そもそも、最近の子供って何が好きなんだろう……。
「こう先生と一緒ならなんでもいいよ……」
おっ、そこで僕に振りますか。さてどうしたものかね……。
「……」
理名ちゃんはというと、相も変わらず僕の服を掴んで黙りを決め込んでいる。
「そうだ、逆上がりの練習をしよう!」
天啓が来たよ! ちょうど金曜日に鉄棒テストがあるんだ。理名ちゃん苦手みたいだったし、これは良い機会なんじゃないかな。
「……」
理名ちゃんは少し考えた後、
「こう先生がいるなら……やる」
こうして2人っきりの逆上がり特訓が始まったのだ。
「うっし、いっちょやりますかね。最初は僕も補助するから逆上がりの感覚だけ掴んでご覧。難しいことを気にしないで良いからね」
「うん」
「そう! なるだけ回るときは勢いを付ける。目の前に誰か苦手な人を蹴るみたいな感じでやってみて」
「腕は曲げる! 見てみて。こうやって腕が伸びきっているよりも、こう腕を曲げた方がクルッと回れるよ!」
しかし、小学校の先生ってのはかなりのスキルを要するよな。普通の科目を教えるのは勿論のこと、体育も教えないといけないし、裁縫だってやんなきゃいけない。僕が卒業した小学校は、低学年の音楽も担任が担当していたりする。
ホント頭が下がる思いです。あの時言うこと聞かなくてホントすんませんした。
「じゃあ次は理名ちゃん1人でやってみよう。安心して、僕が見ているから」
「うん……」
自信無さ気に返事をする理名ちゃん。その不安が体に回っているのか、
「んしょ、んしょ……うう……、怖いよぅ……」
やっぱり自信が無いのか、萎縮してしまっているようだ。
何か良い案はないか、考えるうちに、僕が逆上がりに成功したプロセスを思い出した。
――
「これぞお姉ちゃんの新発明『逆上がり坂』よ!」
あの人は胸を張って新発明とやらを見せる。
「新発明も何も学校に似たようなのあんじゃん」
「甘いなあ、こう君、甘すぎるよ! 食べちゃいたいぐらい甘い! てかいただきま~す!」
「うわあああ! 食べられる! アンパ○マンみたいに頭をガブリと!」
「オレサマ、オマエマルカジリ!」
「で、どこが違うのさ。ぱっと見、学校からそのまま現物持ってきたように見えんだけど」
「違うんだよなあ、実は! 学校にある奴と比べて何か違うところ見あたらない?」
「違うところ? って言われてみたら角度が急かも」
「そ。学校のやつに比べて角度がついてるのよ。こう君の腕力や脚力、身長、体重、好きな女の子諸々を計算して作ったのよ!」
「最後のたぶん違うと思うんだけど……」
「にしてもこう君、趣味悪いね。早苗の奴が好きだなんて」
「ばっ、早苗姉ちゃん可愛いじゃんか!」
「まあ否定はしないけど。けどあいつ10年後ぐらいにだめ男ばっかに引っかかりそうじゃん」
「お姉ちゃんと早苗姉ちゃん友達だよねぇ!?」
――
そうだ! 逆上がり坂だ! 体育館倉庫に行きゃ一つや二つあるだろ!
「理名ちゃん! ちょっとまってて! 秘密兵器持ってくっから!」
そう言って僕は体育館倉庫へ駆け出した。
逆上がり坂を発見した僕は、体育館倉庫で今まさに告白しようとしていたマセガキ達の力を借りて理名ちゃんの所へ持って行った。マセガキ達が僕を睨んでいた気がするけど気のせいだよね!?
「じゃーん! この坂を走るようにやってご覧」
逆上がり坂が来たからにはもう大丈夫! これがあれば君も逆上がりマスターさっ!
「やってみるね」
逆上がり坂の前に対峙する理名ちゃんを息を飲んで見守る。マセガキ達も何故か一緒にいる。彼女の行く末を見守ろうとしているのか。
「うんしょ、せい! 」
勢い良く駆け出し、逆上がり坂を蹴り上げる! そして彼女は思いっ切り回転した。
「「「「おおー!」」」」
いつの間にか出来ていたギャラリーが彼女の雄姿を讃える。吹奏楽部が表彰式によく流れるあの曲を演奏しだす!
「「「「理名ちゃん! 理名ちゃん! 理名ちゃん 理名ちゃん!」」」」
空前絶後の大喝采が理名ちゃんを包み込む!
「えへへへ……」
いつもは恥ずかしがる理名ちゃんも満更でも無さそうだ。
「「「「理名ちゃん! 理名ちゃん! 理名ちゃん! 理名ちゃん! 」」」」
理名ちゃん、これで君も立派な戦士だ!
「盛り上がってるところ水を差すようで悪いんだけど、テストの時補助具使うのなしです」
一気に場が静まる。
「あれ? 私変なこと言った?」
先生、空気呼んで下さい!!
「嫌よ。そんな周囲に同調して自我を殺しちゃうなんて。愚か者じゃない。はいはい、ギャラリーも帰った帰った。南雲君、今日の所はここまでで良いわ。仕事に戻っても良いわよ。ってもう終わって他の体験学習生はもう帰っちゃったんだけどね」
「僕の扱いひどくないっすか!?」
「気のせいよ」
なんだ気のせいか。
「福家さん、ご両親が迎えに来たわ」
両親の用とやらが終わったらしく、理名ちゃんを迎えに来たみたいだ。しかし理名ちゃんはというと、
「……」
僕の服を握ったままだ。その光景を見ている親御さん方もなにやら気まずそうだ。
「理名、迷惑をかけちゃいけません。お兄さんも困っているだろう?」
別に困ってないんだけどな……、って言ったら話が拗れそうなので黙っておく。
「理名ちゃん、僕は金曜日まで学校に来るから、また明日いっぱい遊ぼうか」
「……約束してくれる?」
「ああ。するよ。まだ逆上がり教え終わってないしね」
「だったら……、指切り」
小さな手を握り小指だけ出す。僕も同じ様にし、
「「指切り千万嘘ついたら針千本のーます、指切った」」
また明日遊ぶことを信じて約束をする。
僕だって針千本飲まされるのは嫌だからな。
「じゃあね。理名ちゃん」
「バイバイ、こう先生」
また明日。
「どうでもいいけどさ、指切りって針千本なんかハリセンボンなんかどっちなんだろうな」
凄く……、どうでもいいです……。
漫画とかでは、幼い2人が約束をしたらその時に何らかの事情で約束を果たすことが出来ず、その何年後かに再会するということがよくある。僕も昨日指切りしたけど、車にひかれたり、おたふく風邪をひいたり、大穴として異世界に勇者として召還される……、何て事があるわけもなく、いたって普通に登校した。
一方指切りの相手とは言うと、
「……」
昨日よりもべったりしています。なんかもう体の一部に同化しちゃってるよね。眼鏡みたいな感覚で言うのもあれなんだけどな。
余り触れたらいけないのだろうけど、理名ちゃんのご両親のことが気になる。別にドラマチックな展開を期待してなんかいないが、僕が入り込んではいけない部分があるように思えた。
もしかしたら先生なら何か知っているかもしれないが、あの人のスタンスなら基本的に介入はしないだろうし、家庭の問題に教師が介入するって言うのにも限度があるだろう。尚更、ただの中坊にとやかく言える権利はあるまい。
僕に出来ることと言うと、残り少ない時間を精一杯楽しんでもらうことだろう。せめて僕と過ごした時間は楽しかったものと思ってもらえるように。
今日も騒がしくも元気一杯な小学校が始まる。




