ズバリ言います。~You may or you may not have the answer~
「いらっしゃいませ。ってこれはこれは、麻生さんと南雲先生、2人仲良く恋愛運でも占って欲しいと見ました。そうですね、今ならサービス価格1万円から始めますが?」
黒いベールに身を包み、どことなく隠者のような神秘的な雰囲気を醸し出しているが、言ってることは滅茶苦茶俗物だった。このムードにそぐわないジャンクフードが本格的な水晶の隣に置かれている。ワクドと良くもじられるハンバーガーショップのものだな。はっきり言って胡散臭いことこの上ないし、不可思議な組み合わせだ。実にシュールである。
「君の占いはサービスして1万円払う必要のあるぐらいのものなのか? 天野」
正体を見破られた占い師はベールを脱ぎ、その顔を僕らに見せる。
「バレましたか」
「声で分かったよ。で、ホントのところ占い料はいくらだい? それとまだ何を占って貰うか言ってないぞ」
昼休みによく聞く声だからなぁ。この声を知らない生徒はいないだろう。
「それもそうですね。どれが良いでしょうか? 金銭運恋愛運健康運等メジャーなものから、寿命という聞くのが怖いもの、ムカつくあの子を効率よく社会的に抹殺する方法まで幅広く手がけています。内容によって値段が変わりますので、お品書きを見ておいてください。あっ、でも金銭運は別に良いですよね?」
「そうだな」
「どうかしましたか?」
彼女がいる限り、永久の富は約束されたようなものだ。占っても結果は決まっているだろう。
「ほうほう、成る程……、って普通にお手頃価格じゃんか。恋愛運さっきのぼったくり価格の1%だよ」
学生相手に、それも生徒が占うんだから札束がでること事態おかしいのだけど、
「社会的抹殺100万円……、どこまでマジなの……」
それが高いのか安いのか分からないけど、とりあえずポンッと出せる金額じゃない。
「どうしましたか? さっきからじろじろと」
ただし伊織除く。
「伊織何か知りたいのある?」
言い訳させて貰うと、断じて優柔不断なわけじゃない。相手をたてているだけだ。
「そうですね……、折角ですから相性でも占って貰いませんか?」
「いいのか? それ」
教育委員会には内緒だよ!
「分かりました。南雲先生とアベベ・ビキラの相性を占いましょう」
「なんでアベベが出てくんだよ!?」
故人だし! 東京オリンピックの時代の人だぞ!? つーかそもそもアベベって今時の子知ってるのか? 僕が生まれる何年前に亡くなられた方だぞ……。
「少々お待ちを……。アイナマハルチャンデブニャンペロペロ」
何ちゅう呪文だ……。勝手に占い始めたし……。
「タトバコンボ! はぁ……、はぁ……、出ました!?」
「何故疑問系!?」
しかも疲れてるし!
「ズバリ言います」
最近姿を見せない、名字の割には全然細くない占い師みたいな前置きを言う。
「相性は良くもなく悪くもなく、です」
「当たり障りのない答えだ!!」
誰でもいえるだろそれ!
「相性を良くしたいなら、裸足になりましょう」
「お前アベベのこと裸足って認識しかないよな!?」
知ってるだけでも凄い気はするけど、その認識はあんまりだ。
「はい、500円」
両手をこちらに出す天野。はい500円ねぇ……、
「楽な商売だなぁ、おいっ! 今のどう考えても500円払う内容じゃないし何当たり前のように水増ししてるの!?」
「チッ、ばれましたか」
「僕が悪人なの!? ちゃんと占ってよね!!」
「あー五月蝿いなあ。やりゃあいいんでしょやりゃあ」
すっげームカつくっ! でも落ち着くんだ南雲航、彼女には何を言っても通用しない!! そんな気がするんだ。
「ああ、今度はちゃんと頼むよ……」
「それじゃ2人の誕生日教えて下さい、そっから相性を割り出します」
そう言ってドンっとPCを置く。あはは、もー何でもいいや。
「4月1日」
「嘘だ!!」
「リアルだよ!!」
これだからこの日はあまり好きになれないんだよなぁ……。
「僕は8月7日です」
「8月7日ですね。あっ、アベベと同じ誕生日」
「マジでかっ!?」
今年に入ってこんなにアベベアベベ言ったのは初めてだ。いや、生まれてこの方の間違いかもしれないな。
「ちょっとお待ち下さい。4月1日、南雲航と8月7日、麻生伊織……、フカンゼンネンショウナンダロソウナンダロソウナンダロ……」
だからなんだその呪文は。ググッてるだけだろうが。
「ヤメテクレー。出ました。ズバリ言います。二人の相性は、総合的に判断すると最悪です。お付き合いは避けた方が無難のようです。相手にペースを乱されて自分らしさを見失ってしまう可能性もあります。一緒にいてもなぜかトラブルが多く、次第に関係がぎくしゃくしてしまいそうです。愛が憎しみに変わらないうちに早めに手をうつ必要があります。少し時間を置いて冷静になってみるのもよいでしょう。ですね。2人とも、別れましょう。先生はまだアベベと付き合ったほうがマシです。そもそも誕生日の相性が悪いんじゃないでしょうか? これは」
ズバリ言いました。
「「最悪……だと……」」
「100円」
「なぁ、もう一度占うことって出来るか? 出来れば違う手段で」
予想外の結果に打ちのめされる2人。最悪って……。
「そうですね……、あらま。ここも悪いですね。忠告がてら言わせてもらいますと、相手の本質は、まじめすぎるので人付き合いが苦手で、とっつきにくい面があります。あなたは人に合わすことが得意ですから、それなりに対応していけますが、そんなあなたを「八方美人」と誤解して見下すような態度を示すかもしれません。最初はあなたに辛抱が必要です。あなたの優柔不断な態度が改められれば、見直してくれるはずです。ああ、ここで言う相手は麻生さんになりますね。八方美人、心当たる節はありませんか?」
うっ、それを言われたら何も言い返せない……。確かに色んなところにいい顔をしようとするきらいはあるかも……。
「天野さん、今度は名前で占ってもらえますか?」
信じられないといった顔をしている伊織。あーあ、火がついちゃったか。
「少し待って下さいね……、ラミレスラミレスラミチャンペッ……」
何か違うぞ。
「出ました。ズバリ言います。どちらかというと「南雲航」さんのほうが悪人です。どちらかというと「麻生伊織」さんのほうが床上手です。二人の力関係は「南雲航」さんのほうが奴隷役です。「麻生伊織」さんは裏で「南雲航」さんのことを「ノー ローン」と呼んでいます。「麻生伊織」さんは「南雲航」さんのことをちょっと貧乏さんだと思っています。今日のラッキーカラーはショッキングピンクです。おススメのデートスポットは富士の樹海です。「麻生伊織」さんは今あなたとオンラインで愛人契約したいと思っているみたいです。気をつけましょう!「南雲航」さんは今日新興宗教の勧誘に悩まされそうです。と出ました。ちなみに、相性は110点です。何点満点なんでしょうね、これ」
……、素直に喜んでいいのか、これ。
「よ、呼んでもないですし思ってもないですよ! そりゃあうちと比べるのは酷ですけど……、先生が婿として入ればいいんです!! そうすれば……」
「落ち着け伊織ぃぃぃぃぃぃ!!!」
当たるも八卦、外れるも八卦。でも乙女に取っちゃ、これは死活問題なわけで。
「次回は相性占いで遊ぶ回です」
「勝手に進めるなぁ!! あっ、伊織、そこはダメぇ……あひぃん」