峰原ミサキ~Light novel writer~
「どうした、二人揃って。まだホームルーム中ではないのか?」
そんなもん知るかああああああああああ!!
「「こんのぉぉ裏切り者ぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「何だ? 裏切り者だなんて。失礼な奴らだ」
「そのセリフそんまま返すわ! なんだよこれ!!」
借りたものにも関わらず思いっきり理事長のデスクに叩きつける。
「これか? ああ、ライトノベルだな。『エンジェルホリック』の峰原ミサキ先生の新作『姉が過去からやって来た。』だな。今度ドラマCD化するらしいぞ」
「そう言うことが聞きたいんじゃねえよ!! 何なのこれ! 思いっきり既視感まみれの内容! そしてこの作者名! 峰原ミサキって……」
「御崎原峰子じゃねーか!!」
初歩的なアナグラムでは誤魔化せないだろ!
「峰子さん! どういうことなの!? 少し読んだけどフィクションじゃないよね!? ノン頭につくよね! むしろドキュメンタリーだったよ!?」
姉弟の怒りの追求に対し峰子さんはマイペースにコーヒーを飲んで、
「ばれたか」
そう一言、本当にそれだけを答えた。
「「お前はアホかああああああああああああああああああ!!」」
「ぐふぇ!!?」
自分のクビをいつでも切れる上司且つ面倒を見てくれた(実際のとここっちが見ていた)叔母に対して全力全開でぶん殴るのも人間としての両親の呵責が生まれるけど、この人を甘やかすのは社会へ大きな損害を与えかねない。現にこの人は、断り無くで僕ら姉弟の物語を商業作品にするというトンでも行動に出やがった。別にそれが許せないとは言わないし、この人なら仕方ないかとおもっている自分もいる。恐らくそれは姉さんも同じ気持ちだろう。ただ、ね……。
「その金で焼肉奢ったんかい!!」
こっちに一銭も入ってこないんだよね、うん。いやそれが悪いってわけでは、いや悪いけど……、なんつうか理不尽だ。
「まぁ落ち着きたまえ。私はこれで君たちを保護したんだぞ? いわば攻めの守りだ。攻撃こそが最大の防御だ」
「つまりどういうことだってばよ」
「そうだな。例えばだ。東京池袋に首無しライダーがいる作品があるが、それを見て池袋にいるなんて思うか? 新宿に人ラブな情報屋がいると思うか? 自販機が飛んでくると思うか?」
みんなやたら押すなその作品。
「思わないよ。だってフィクションじゃん」
実際にいたら池袋は今頃観光名所として発展しているだろう。他にも妖刀やらカラーギャングがいるのから常に新しい発見がある町だ。
「その通り。ゆえに君たちがノンフィクションといったところで、読む人からしたらフィクションなんだ。確かに麻生財閥やら御崎原高校等一部モデルになった部分は読者も分かるだろうが、だからといって過去からやって来た姉なんてものを信じれるだろうか? いや、ない。そもそもタイムスリップ自体がトンでも科学なんだ。つまりだな、」
「小説化することで疑いの目を逸らすことができるのだ」
峰子さんが言いたいことは分かる。一言フィクションといってしまえばそれは虚構の世界の夢物語になるのだ。とりわけライトノベルというジャンルはその傾向が強い。自分が投影できるような主人公がモテにモテ、あらゆる困難をスカッと解決する。まぁ美少女がなによりの売りだろうが、それ故ラノベは売れるのだろう。
「でもそこまでする必要あったのかな? 私にはちょうど良いとこに定期的にネタを提供してくれる媒体を見つけたから書いているだけにしか思えないんだけど」
姉さんが根本的な部分を覆す突込みを入れる。ま・さ・か、御崎原高校の理事ともあろうお方がそんな浅知恵を働くなんて馬鹿なことがあるわけ……、
「き、気のせいだ」
ありましたー。
とりあえず売り上げの一部をこちらに肖像権代として入金してくれるようになりました。早くアニメ化しないかなぁ、そしたらもっとお金が入ってくるのに。
――
「で、僕が先生のクラスの劇にゲストとして出る、と」
翌日、天文部室にて昨日の一部始終を話す。今日は山本も丹下君もクラスの準備が忙しいので、久々の2人っきりの部室なのだ。山本にいたっては脚本と監督、出演までとこなしている。言いだしっぺの法則ってわけでもないけど、採用されたらされたで忙しくなるのだ。
さてさてこの天文部室、好きな人と2人だから心臓バクバクってわけではないけど、相変わらずの居心地のよさを感じる。やっぱり伊織は末永く御付き合いしたいタイプだ。その前にいくつも障害があるけどね。それを超えてでも果たしたいもんだ。
「伊織も忙しいだろ? 無理強いはしないよ。そういや加納先生のクラスは何するんだ?」
「僕たちのクラスですか? 男女逆転メイドアンド執事カジノ、希望の船です」
ざわっ……、ざわっ……。
「なんか色々欲張ったな」
しかし客が集まりそうなプログラムだな。去年のキャバクラは伊織無双だったけど、今年は理名ちゃんがいるし、最近神楽や入野も人気が出てきている。喫茶店なら間違いなく回転率が悪かっただろうケド、カジノという未知数な遊び場にしたことが吉と出るか凶と出るか、そこまでは分からない。
「なかなか決まらなかったんで加納先生が立ったらもう全部しろっていいまして。シフトを調節したら舞台のほうも御手伝いできると思いますよ? プラネタリウムはその間丹下君に見張ってもらえば良いですしね」
その代わり五十鈴さんの晴れ舞台を見れませんけどね。っと小さく笑みを漏らす。
「そうだ先生」
「どった?」
「学祭当日ですけど忙しくない時間有りますか?」
学祭当日ねぇ。うちの学祭は3日間行われる。生徒たちはある程度自由行動が出来るけど、教師はそう言うわけにいかない。警備やらのお仕事があるのだ。
「うーん、教師だし舞台にも出なきゃダメみたいだから限られてるけど、一応シフトがあるからその隙を突けば時間作れるけど」
「そうですか。その時間帯が分かったら教えて下さい。僕もそれに合わせてシフト組みますので……、宜しければ開いている時間2人で回りませんか? 先生人気有りますから早いうちに予約しておかないと」
にっこりと笑って答える。その笑顔、正直たまりません!!
「ああ、んじゃちょっち確認しとくわ」
もし時間が無ければ?
「ねんがんの きゅうけいじかんをてにいれたぞ!
『そう かんけいないね』
つ『殺してでも うばいとる』
『ゆずってくれ たのむ!!』