御崎原峰子の回想~んでもって今に至る~My girl~
「さあここでクイズを出そう。いたいけな幼女の腕にタバコの火をつけるという万死に値するクズ野郎は懲役何年だろうか? はい、美桜。答えてみろ」
「ここで私に振る!?」
いつの間にかクイズが始まっていた。つーか怒涛の展開だな。どうやって調べたんだか。
「なぜなら私は理事長だからな」
おい。まるパクリじゃん。
「我が物顔で人様の台詞使わないでもらえます? えーと、麻薬でしょ? 民法(特に親族婚姻関係)ならまだしも刑法でしょ? うーん、降参。六法見なきゃわかんないよ。こう君分かる?」
「えーと、麻薬だろ……。そもそも麻薬って単純所持と営利目的で違うし、麻薬を栽培したのとただ持ってるだけでも懲役年数変わるじゃん」
「へー、詳しいね」
「何故か姉さんが上から目線なのかは良いとして。ま、教師たるものこれぐらいは覚えておかないとね」
まぁホントのところは去年麻薬撲滅キャンペーンとやらに崎高代表で行かされたからな。ある程度麻薬に関しての知識はあると自負している。あっ、勿論だけど使ってないからね。
「航の言う通りだな。しかし流石に麻薬というヒントだけで答えてもらうのは難しかったな、答えから言うと、ゲス野郎は売人をしていたんだ。あの手この手で密輸して栽培、それを売る。そんな金有るなら自分でパチンコ行けよと思ったが、ここからが面白かったんだ」
――
「情報提供ありがとうございます!! まさかこの男にとんでもない繋がりが有ったとは!!」
「いや……、たまたまじゃなかろうか……」
どうしてこうなった。どうやら私の垂れ込みはとんでもない方向へ動いたみたいだ。
さてその前にゲス野郎を社会的に葬るとしようか。警察とともに橋爪家(ちなみに古都は保護してもらった。母親には討ち入る前に伝えている)へ向かう。寺内とか言う女探偵(にしてもやけに若かったな。あれで事務所を持ってるとはたいしたものだ)曰く、パチンコに行った日はこの時間に奴は帰ってくるらしい。そこを見張っているのだ。
「いや貴女一般人でしょうが。危ないので御帰り下さい」
「甘いな。これでも通信教育でバリツを学んだんだ。あんな薬中ごときに負ける人間じゃない」
他にも琉球空手、ルチャ、一通りの格闘技はマスターしている。いつか世界を守ることになるその日まで鍛錬を怠らないのだ。
「いや、そう言う問題じゃ有りませんからね」
「いいじゃないか、大人の社会見学だ。おっと、こうしている間にもターゲットがやってきたみたいだ」
大勝ちしたのか、えらく上機嫌なゲスゲスオ(仮名)。調子はずれの美空ひばりを歌いながらふらふらと歩く。
「それでは、後は警察たちに任せるとしようか」
警察は今までの使えなさを払拭するかのように迅速な行動を取った。職質を食らったゲスゲスオ(勿論仮名)は、最初はとぼけていたが、虐待の話題が出ると暴れだし、お巡りさんに怪我さしてしまった。あーあ、公務執行妨害。取り押さえられた後はすんなりと麻薬の売人ということを白状し、これにて橋爪古都と母親の悪夢は終わりを告げるのであった。
さてさて。で、ここからがピタゴラスイッチの如く連鎖が続いていった。ゲスオは警察に色々話しすぎたのだ。例えば他の密売者、例えば非合法カジノ、例えば違法な風俗店など。彼のチクリによって歓楽街が静かになったと言われるぐらいらしい。
――
「こうして橋爪古都は守られましたとさ。ちゃんちゃん」
めでたしめでたし。ってあれ? なんか忘れてね?
「ちょっといいっすか?」
「なんだ。私を見直したか?」
「いや、そう言うんじゃないんだけど……」
見直さないことは無いけど、それを自分で言うかね……。
「古都ちゃんが助かったのは分かったけど、そのお母さんと一緒に暮らしてるんでしょ? だったらお母さんと暮らすのが普通じゃないの?」
「ふむ、そこのところの説明を忘れていたな。実はな、最近発覚したんだが、その母親は……、なんと不法滞在者だったんだ」
あちゃー。なんとなくそんな気はしてたけどここまで見事だとは……。
「でもさ、それだったら古都ちゃんも強制送還されるんじゃないの?」
「ふむ、そうなるわな。しかし母親と話し合ってな、彼女はニポンで暮らすべきね、私フィリピンに帰るある。という結果にいったんだ。年に何回かは母も帰ってくるとは言うが……。それでだ、ちょっとした裏技を使ってな。これがみそなんだ。結果兄さんには少々悪いことをしてしまったがな」
兄さん? ってことは父さんのことか?
「それってどういう……」
峰子さんの言葉を理解しかねていると、彼女は口を開きとんでもないことを言ってきた。
「ああ、簡単な話だ。橋爪古都は実は兄さんの娘ということにしたんだ」
「「は?」」
「理解できなかったか? つまりだな、戸籍をちょっくら弄ったんだ。まぁちょっとした伝があってな、やはりあの一族は恐ろしいな」
あの一族? まさか……。
「いやぁ、アソえもんに頼めば何でも出来るな」
「やっぱりそう来たかあああああああ!!」
流石万能の麻生!! 伊織もそろそろ怒っていいぞ!!
「結論としては兄さんの隠し子ということにしたんだ。保身に走るようで悪いが、私の立場上それが叶わなかったからな。私の残機は残り0だ。次マスコミに叩かれるような事があれば私は学園を守り通せるか分からない……」
それは1人の女ではなく、理事長としての御崎原峰子。忘れてたよ、彼女は学園を守るためなら何でもする人なんだ。
「「峰子さん……」」
「というわけで君達姉弟に妹が出来ました。めでたしめでたぐふぇえ!!」
ナーニイイハナシデオワラソウトシテイルンダコノヒトハ……。
「「そんなの納得できるかぁぁぁ!!」」
「ちょ、2人がかりは! ひぃぃぃぃぃ!!」
ミッション、理事長の殲滅 コンプリート!!
――
「どうするよ、姉さん」
「まさかの妹登場だもんね……」
あまりの超展開についていけず頭を抱える姉と弟。そして横たわる理事長の亡骸。
「ふぁぁ、うるさいよぅ……」
先ほどの乱闘が騒がしかったのだろう。眠そうな眼を擦りながら古都ちゃんが降りてくる。恐らく峰子さんが買い与えたのか、深夜に放送された魔法少女アニメのマスコットキャラクターのぬいぐるみを抱いている。
「姉さん、」
「こう君、」
せーの、
「「可愛すぎるでしょ!!!」」
「ふぇ?」
「古都ちゃん、何かほしいものある!?」
「お兄ちゃんとおねえちゃんが何でも叶えてあげる!!」
「ふぇ~?」
こうして南雲家に新たな仲間が加わった。どうして引き取ったのか――そう聞かれたら、僕達は迷わずこう返します。
「「だって可愛いじゃん!!」」
可愛いは正義。