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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
理事長と幼女とペンギンと
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御崎原峰子の回想~オタク2人~Memories of the Secretary~

 2006年

「これにて今日の職員会議を閉会する」

 事務的な連絡を終えて形ばかりの職員会議を終わらせる。変化もなく淡々と過ぎる毎日。ふん、この歳になっても非日常に憧れを持つというのだろうか、私は。私は退屈が嫌いだ。子供みたいに思われるかもしれないが、それが私が生まれてこの方変わることのなかった普遍の性質。

 しかし残念なことに、私のような人間はいささか異質らしい。生徒の誰よりも子供っぽい。そんなことをあるベテラン教師は言っていた。彼からしたら私も若輩者に過ぎないのだろう。理事長という立場だが、若いうちに先代から引きついた座だ。それを良く思っていない人も多いことを知っている。そのような立場ゆえ、あまり派手なことが出来ないのが心苦しい。


「私が未来に行ったら、もしかしたら長生きできるかもしれないよね?」

 なんてことを5年前言った少女がいた。彼女は5年前の3月と4月の境目に旅に出た。「10年後」というどこにも切符の売っていない旅路へと。口で言うのは至極簡単だが、それには旅行会社も何も関与していないため、実際に未来へ行ったと証明する手立てはなく、彼女は屋上から行方不明になったという事件として扱われることになった。そこで私の管理問題が問われたこともあり、なおさら好き勝手出来ないのだ。


――


「航よ、腹が減った」


「自分で作りなさいよ!!」

 家に帰れば自分で自炊して……、なんてことはなく、兄の息子である南雲航に家事全般を任せてある。恥ずかしい話だが、私は家事が全くといっていいほど出来ない。学生時代も家庭科だけがマイナスに振り切れていたレベルだ。そんな人間がするぐらいなら、最初からちゃんとできる奴にさせればいい。云わば適材適所ということで航に家事をしてもらっている。今の彼はどこに出してもおかしくない立派な主夫になれるだろう。

「いや、あんたは自分で家事をするという選択肢は無いのか?」


「ないから君に頼んでいるのだ。私とて努力はしたさ。だがな、暗黒物質ダークマターと詰ったのはどこの姉弟だ?」


「うっ、それ言われたらなんとも言えないんだけど……」

 よかれと思ってしたことに、拒絶という残酷なリアクションを取られたショックが分かるか? 頑張りを否定された者のやるせなさが分かるか?

「拒絶したのは君ら姉弟だ。私としてはしても構わないが、その際は君らにも味わって貰いたいものだな」


「遠慮しときまーす……」

 ふん、身の程を知るが良いさ。


――


 休日、ある日の公園にて。

「ふむふむ、可愛いな。子供というのは未来がある。その目を摘み取ってはいけないとは思わないか、木村君」


「……すみません。先生の感じている可愛いと私の感じている未来には物凄い齟齬があると思うんですケド……」


「そうだな、君はイケメン同士の組んず解れつの絡みの方が好きだからな」


「わ、悪いですか!? 女の子はみんな腐ってなんぼなんです!!」

 彼女は木村紀子きむらのりこ。私の友人だ。立場的には学校の理事長と生徒会副会長だが、私たちにはある共通点が有り友人関係を保っている。

 その共通点というのが、

「「あっ! 今日は新作|(新刊)の発売日じゃないか(の)!!」」

 まあ俗に言うオタクという奴だ。アニメ、ゲーム、漫画。双方共に話題を共有できる人間が少なかったこともあり、自然と仲良くなった。これに関しては耽美なBL本を回収した藤堂先生に感謝すべきなのかも知れないな。こっそりボーナスを割増しておこうか。


――


「ふぅ、余りこのブランドの戦法は余り好きじゃないんだが、買ってしまうあたりどうしようもなく調教されてしまったのだろうか?」


「はぁ……、アニメも始まったことで土方×沖田がねぇ……、古キョンも捨てがたいですなぁ。そうそう、先生、最近始まったギアス見ましたか? もうねぇ、あれは神になりますよ!! 実は私スクライドから谷口監督のファンなんですよぅ!」


「谷口監督か。たしかガンソもそうだったかな?」

 オタク街をアニメ談義をしつつホクホク顔で歩く女子2人。かたや制服、かたやスーツとまぁ変な組み合わせには違いないだろう。私と彼女がつるむといつも航だ。あの回の作画が良かったやら、このカップリングがどうとか。健全なオタトークをしていた。

「おっと、こんな時間だ。そろそろ帰らないと暖かい飯にありつけない」

 レンジを使うのも億劫だ。それに出来立てを食べるほうがいいだろ?

「自慢の甥っ子さんですか? いいなぁ、そんな執事みたいに仕える人がいて。私も理事長目指そうかしら?」

 そんな良いもんではないがな。だが彼に生活面では依存しきっているのも事実だ。

「まぁそう言うことにしておこう。それじゃ木村君、また学校でな」

「先生も気をつけて。さようなら」

 余談だが、彼女とは今でも親交がある。というか、職場が同じだ。


――


「木村さんオタクだったの!?」

 あの万能秘書の木村さんが腐女子だなんて……。人は本当に見かけによらない、また1つ勉強になりました。

「まあな。その縁があって彼女は私の秘書をしてくれてる。それに生徒会副会長をするぐらいには優秀だ。ちなみにその時の会長は君も良く知る人物だ」

 えーと、5年前だから……。ああ、彼女か。

「氷上先生が会長をしていなければ彼女が会長をしていただろうな。まぁそれは今は良い。木村君の過去を話したのは単に懐かしくなったからではない。彼女もまた登場人物なんだ。私と古都を巡る物語のな」

 峰子さんはお茶を飲んで一服する。

「さぁ、話を戻そうか。古都との話だが、実は彼女と私を引き合わせたのは他ならぬ木村君なんだ」


――


「ねえ先生」


「どうした、木村君」


「もしさ、先生の家の隣に虐待されてる子供がいたらどうする?」

 その問いが全ての始まりだった。

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