妹?~Sister appeared!?~
「で、丹下君が入部しちゃったと」
そう、我が心のオアシスであった天文部に、また1人問題児がやってきたのだ。
――
『山本さんのことを良く知るためにはまずは彼女と同じ活動をすることが近道だと考えました!! まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします!!』
『はぁ……、随分急な話ですね……』
『どうするの?』
『そうですね……、そうだ! とりあえず入部試験受けますか? 山本さんも受けたのでもしかしたら彼女の気持ちを知ることが出来るかと思いますよ?』
『入部試験なんかしもがっ!』
『山本さん、したじゃないですかー! やだなぁ、山本さんは忘れんぼだなぁ!!』
『もがもがぁ!!』
『山本さん、見ていてください!! 私は必ず試験に合格して見せます!!』
――
「で、合格しちゃったと」
「うん……」
なんというか、本当に凄かった。何が凄かったって? かつての入部試験を思い出してほしい。
『死兆星!!』
『やらないか?』
前者はともかく、後者はまず生き残れない。生き残ったのはスタミナ自慢の古村ぐらいだった。しかし彼は、
『ふぅ、いい運動になりました!!』
『や、やれなかった……』
過去最大級のエージェントアベさん達から見事に逃げ切ったのだ。
『にゅ、入部を許可します……』
これには流石の伊織も引いていた。
『警視総監の息子たるのもこれぐらい出来なくてどうしますか!!』
どうやら恋愛以外は完璧らしい。
『はぁ……、どうしろと』
困惑した様子を見せる山本。
さようなら、マイオアシス……。
「ほえー……」
姉さんも驚いている。
「まぁ、丹下君に頑張れというべきか、五十鈴ちゃんにドンマイというべきか……。それにしても、また天文部騒がしくなるね」
「そうなんだけどさ……。ただ彼が入部したことによって、風紀にうるさくなるから、天文部に有るゲーム類を没収される前に引き取ったんだよ。ああ、みんなでマリパしていた時代が懐かしいよ……」
あのころは良かったなんて言ったら、何かおじさん臭いけど、たった1年でクラブというのはこんなに変わってしまうんだな。中高特にクラブをしておらず、教師になって始めてクラブ活動に関わったけど、それを知れただけでも良かったかな。
「そうそう、こう君。帰ってくる前なんだけど、なんか峰子さんが航はいるかって聞いてきたけど?」
峰子さんが? 嫌な予感しかしないんだけどな……。
――
「もしもーし、何すか用件って?」
『ああ、航か。用件というのはな、航、そろそろ妹がほしくないか?』
は?
「妹ぉ? なんすか? 何かの例えですか?」
エロゲか?
『いや、そう言う意味じゃない。言葉の通り妹だ。英語で言うとシスター、ハンガリー語ではヌービーエル(リスニングで聞こえたとおり)。社会一般的に萌要素としては、色々否定するようだが、姉よりも需要があるな。それでも幼馴染と同様に不憫な目にあうことが多いが……』
なに言ってんだこの人。
「峰子さん、僕には年齢だけなら妹みたいな姉はいますけど、リアルに妹がいるわけ……」
『……』
峰子さんは黙りこくる。
「あのー、マジですか?」
『マジだといっているだろう』
「エエエエエエエ」
何!? 次回から姉が過去からやってきた後に妹が出来ちゃったに変わるの!?
『……冗談だ』
「冗談かいっ!!」
本気で心臓止まるかと思ったぞ……。
『しかし、君のところで引き取ってほしいんだ、彼女をな』
先ほどまでのおちゃらけた雰囲気とは打って変わって、妙にシリアスな雰囲気を出す。
「峰子さん、それって」
何かある。そう確信した僕は、峰子さんに真意を問いだそうとすると、
ピンポーン
それを邪魔するかのようにチャイムが鳴る。
「ゴメン姉さん、ちょっと出てくれる?」
「ほいほーい。どなたですかー?」
「ごめん、ちょっと誰か来たみたいで」
『ほう、もう着いたのか。道中迷うかと思ったが、いらん心配だったようだな。あと晩ご飯がまだなら、二人分追加してくれ』
「は?」
どういうことです?
「こう君こう君こう君!!! どういうこと!?」
姉さんが後ろから突っ込んでくる。
「どういうことって……こっちが知りたいんだけど」
「そうじゃなくて!! あの子誰?」
姉さんが指差す方向には、
「……」
ニコニコしながらタイミング見計らっている少女がいた。あの制服は小鹿小学校か? つーかこんな時間に小学生が出入りしちゃ……。
「あのー、どなた?」
電話をほっぽり出して、謎の少女の下へ駆け寄る。
「お兄ちゃんのお名前、えっと……、南雲航っていうの?」
笑顔を崩さずに聞いてくる。不安だったのか、わざわざ読み方付きのカードを見ている。
「ま、まあ。南雲航は僕だけど……、君は? ってわぁ!!」
「やっと会えたー!!」
「なぁ!? ちょっと名も知らぬ君、私のこう君なんだからね!!」
なんでだ? なんで抱きつかれる? そして姉さんはなに小学生に張りあっている?
「お姉ちゃんは邪魔! お兄ちゃん! お兄ちゃん! 私古都! 橋爪古都っていうの!!」
「だーめ!! 新キャラがしゃしゃり出ていいもんじゃないの!! 年功序列を守りなさいよ!!」
「お兄ちゃん!」
「こう君!」
橋爪古都? 初めて聞いたぞそんな名前……。そもそも橋爪なんて知り合いいないし、古都なんて変わった名前の人初めて見たんだけど……。
「ボンジュール航。楽しくしているか?」
僕争奪戦を繰り広げる姉さんと小学生に頭を悩ませていると、玄関から堂々と峰子さんが侵入してくる。せめてピンポン押してよ……。
「峰子さん! どういうことなの!」
「あっ、峰子オバちゃん!! こんばんは!」
ぶっ!! オバちゃんて……。
「はっはっは、お姉さん、だろ? 古都」
見える、見えるぞ! 十字型の筋が!
「えー、峰子オバちゃんはお姉ちゃんじゃないよ!」
ああ、子供は純粋だ。無垢だ。だがそれ故に、時として残酷なんだ。
「はっはっは、冗談が上手いな。これが野郎なら容赦なく葬っていたのだがな……、可愛いは正義だ。大目に見てやろう」
さりげなくとんでもないこと言ってるよこの人!!
「峰子さん話してくれます? まったくもって状況が理解できないんですけど」
謎の少女、橋爪古都は未だに僕の服のすそを握ったままだ。ちなみに姉さんはというと、
「いつまで抱きついてるのさ……」
「えーと、姉弟だから理由は要らないんだけど、強いて言えば死なばもろとも?」
意味分かりません。小学生の方が聞き分けがいいぞ。
「大人はわがままなのよ、どうしようもなく、ね」
「高校1年生が分かったこと言ってんじゃないよ」
しんみり答える我が姉君を軽くスルーしておく。この手の人はスルーされるのが一番堪えるのだ。
「ああ、そうだな。急に言ったから理解に苦しんだかもしれないな」
1人首をうんうんと上下にシフトする峰子さん。
「……」
いま南雲邸は奇妙な静寂に包まれている。彼女が口を開く――たった1分もないはずなのに、時計は平等に時を刻むのに、それはとてもとても長く感じた。そして彼女は――
「晩飯を食わせてくれ」
シリアスムードを引っ張ったまま下らないことを口にするのであった。
「お兄ちゃん、私もお腹ぺこぺこだよ」
何一つ穢れを知らない少女の眼が僕を射抜く。
「ハンバーグ食べたいなぁ。だめ?」
上目遣いでこちらを見る。そんなものを見せられたら――
「な、なにこの可愛い生物!! こう君、今日はハンバーグ祭りだよ!!!」
「合点承知したぁ!! もう妹がいたとかそんな設定なんか知っちゃこっちゃないぜ!! 今日の僕は阿修羅すら凌駕する存在だぁ!!」
ああ、ここに新たに2人、コトコン(※古都コンプレックス。ノットロリコン)が生まれてしまうのであった。