ラジオヘッド~Over run~
『どうも皆さん、放送部の天野です』
『元生徒会長の江原彼方です』
すっかりお昼休み恒例となったこのラジオ番組。妙に丁寧だけどネガティブな天野と、その突っ込み役にまわる江原兄の息があってるような合ってないような絶妙なコンビネーションが受けているのだ。
『下の名前あったんですね』
『あるよ!! アンタだってあるだろ!!』
そういや相方の下の名前知らないかも。
『しかも彼方って……。名前だけは立派ですね。うだつの挙がらない係長みたいな顔しているのに』
そりゃあミスター名前負けだからな。
『……それ結構気にしてんだけど』
『そうですか。確かに彼方なんて面じゃありませんからね。残高もフューチャーもなさそうです』
なんだその語感の良さは。
『オブジエンド買ったの?』
ああ、あのヤクザの繰り広げる任侠物からゾンビゲームになったあれか。普通に面白そうだから困るよね。
『壊れちゃうよおおおお!』
『おい、やめろ。ゲームを知ってる身からしたら釘宮病を誘発させる危険なワードなんだが今この密室という場ではその言葉の響きはインモラルだ』
インモラルってお昼の放送で出てくる言葉じゃないだろ。
『勝手な妄想で私を汚さないで下さい。高くつきますよ』
『最初にふっかけたのはアンタだろ! てか今日はゲストがいるんだろ? 紹介しなくていいのか?』
ゲスト? そういや今まで2人でやって来たから、新鮮な展開だな。
『はい、ゲストです。このラジオの発起人でもある生徒会長、香取理名さんです』
『どうもー! 香取理名よっ!』
理名ちゃんか。確かに初回のゲストにはもってこいだと思う。幾分かエキセントリックな性格をしているけど、まあ無難な人選と言えるだろう。
『さて、今期の生徒会の支持率は御崎原高校始まって以来最大と言われています。前年度の生徒会長なんかいたのかどうか分からないと言われているのに比べたら、爆発的な上昇ですね』
これは職員室でも話題になったな。教師受けは別としても、生徒達から圧倒的な支持を得ている。個性はぞろいとも言われる今期生徒会を見事に纏め上げているのだ。
『ま、これもひとえに私達の行動力の賜物ね! 生徒会は24時間365日生徒達の要望にこたえるわ! 前会長がなしえなかった計画を私達でやってのけるの! そうしないと、前会長も安らかに眠れないわ。って前会長っていたかしら?』
『目の前に本人いるんだけど!?』
あ、いたんだ。前会長。
『あら、いたの?』
『いたんですか?』
それは放送室の二人も同じ感想を持ったらしい。
『ずっといたよ! てかあんたは初めからいただろ!』
叫びによって声が割れる。耳がキンキンするからやめい!!
『私今来たばっかなんだけど』
『てめーじゃねえよ!! 黙ってろ!』
『はい、茶番はそこまでにしてください。怒りますよ?』
感情を感じさせない抑揚のない声で言う。
『なんで俺が悪役みたいになるんだ!』
江原元会長の苦労は絶えない。
――
『本日は会長さんに様々な質問のメールが届いています。見てくださいこの量。これでも3割なんですよ? 残り7割方は生徒会関連ですので、生徒会の方に回すとして、折角ですからこの3割の質問、個人宛の質問にお答えしてもらって、知られざる香取会長の素顔に迫ってみようと思います』
どさっと物をおいた音がする。放送室の様子は分からないけど、理名ちゃんへの大量の質問が届いたということだろう。
『どんどん来なさい!』
『それでは1通目。ラジオネーム小早川凜子は俺の嫁さんから頂きました。ありがとうございます、さて読みますね』
『風の噂で聞いたんだけど、香取会長って南雲先生が好きなんだって? そうなんですか?』
「ぶおっは!!」
な、なんじゃそりゃあ!!! なんちゅう質問だよ!
『好きよ』
「ぶひゃ!」
この人普通に答えたよ!! 照れるとかそう言うアクションなし!?
「……」
職員達の視線が冷たい。ああ、穴があったら生き埋めになりたい……。
『即答したぞ……』
『即答ですね。ちなみに、このメールのうち9割が同じ内容の質問です』
他に無いのかよ!!
『差し支えなければ、どうして好きかを教えていただきたいのですが』
『それは……全部?』
『全部?』
『小さいころの憧れがそのまま生きてるってだけだもの。どちらかと言うと恋愛感情よりは優しいお兄ちゃんって感じのほうが強いかしら』
その答えは意外だった。恋愛感情抜きの親愛の情。
『ま、最近そう思い始めたんだけどね』
『そうですか。皆様お分かりいただけましたか? さて、ここで1曲。ラジオネーム猫飯さんからのリクエストです』
『はっぴぃ にゅう にゃあ』
……、電波ソングだああああ!!!
「んでwwwんでwwwんでwww」
校内中を一瞬にして静かにさせた電波ソングを、我が物のように熱唱する理事長。何だこの異次元世界は。
『さて、本日も終わりがやってきました』
『ま、こういう風に出るのも悪くないわね! また呼んで欲しいわね!』
『ええ、こちらこそ。出来れば次回からは南雲先生関連以外の質問をお送りください』
何回もやってきたからか、最初は打ち切りたいといってたパーソナリティもそれなりに楽しんでるようだ。
『次回のゲストはあなたかもしれませんよ?』
ゲストね。出来れば次は僕とかかわりの無い人をチョイスして欲しいな。
『お相手は天野と』
『香取でした!』
『ちょ、俺忘れられて』
プツン!
哀れ、江原兄はろくな扱いがされないのだ。、