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愛のお手紙?~Theft~

「南雲先生! 相談があります!」

 部室に来るなり、すごい剣幕で入ってくる山本。こいつが僕に相談だぁ?

「悪いけどお金は貸せないよ」

 いくら教師と生徒の関係でもそれはちょっと……。

「借りねーよ!! それなりに御小遣いは貰ってます!!」


「冗談冗談。で、相談ってなにさ? 恋の悩みか? それなら加納先生に……って顔真っ赤にしてどうしたの……、え? 冗談で言ったんだけど……、マジ?」


「はい……」

 首を縦に振る。

「でも違うんです! 私が誰かを好きになったとかじゃなくて! 好きになられたというか……」

 語尾のほうがごにょごにょ言って良く聞こえない。えーと、もう一回言っていただけますかね?

「――です」

 death? はっきり聞こえないんだけ……。

「好きになられたんです!! ラブレター貰ったんです!!」


「ぬわぁ!!」

 耳元で叫ばれる。って声でかいんだよ!!

「あ、すいません。中学のとき水泳部にいたんで肺活量には自信があるんです」

 出力調整してよ……。


――


「で、ラブレターを貰ったと」

 今時古風な子だな。最近はメールやらで風化してきた文化だと思ってたけど、未だに残っているものみたいだ。僕? いや、べつに書く必要なかったというか……。

「五十鈴さんも隅に置けませんね」

 なんだろうか、伊織には悪意はないんだけどなぁ……。

「伊織さんが言うと嫌味に聞こえます……」

 山本も同じことを考えたようだ。

「へ?」

 一週間に3人に告白されるあなたが言うセリフじゃありません。

「それで話は分かったよ。でも僕らに相談してどうするの? ラブレター書いたことも貰ったこともないから分からないんだけど、そういうのってあまり他の人に曝されたくないものじゃないの?」

 一歩間違えたら厨二な黒歴史になりかねないツールだからな。ラブレターってのは相当勇気がいる代物なのだ。

「それはそうなんですけど……。って先生貰ったことないんですか?」

 意外そうな顔をされる。

「ラブレターじゃなくて直で告白されたもん。その逆も然り」

 逆ってのは一回しかないんだけど……、ぶっちゃけ双方のブラックヒストリーではある。

「なんだ、このモテ男は」

 ジト目で見てくる。……伊織も。

「昔の話だし。それに僕のことは良いだろ。そのラブレターの話に戻そうよ」

 これ以上変に詮索されるのはゴメンだ。

「でも曝されたらまずいって分かってるのにどうして相談を持ちかけたんですか?」


「それが……、意味が分からないんです」


「「意味が分からない?」」

 僕らにはそれが意味分からないんだけど……。

「そもそもラブレターなんて貰ったの生まれて初めてですし、私に好意を持ってくれてるってのは分かるんです。でも……、とにかく見てください!」

 そういって山本は件のラブレターを見せてくれる。


『被告人 山本五十鈴様へ 刑法235条第3項によりあなたを私の彼女にします。明日の放課後、美桜みさくらの木の下で待っています』


「これはラブレターなんでしょうか?」


「どちらかというと裁判に行くみたいだな」


「ね、意味分からないでしょ?」

 3人とも引いている。こんな黒歴史確定なラブレター生まれて始めてみたんだけどな……。

「そのまえに刑法235条ってなんですか!?」

 何で僕を見る。

「なんですか?」

 伊織、パス!!

「僕に振りますか……。えーとですね、六法全書の刑法の項目を見ていただけたら良いんですが、235条は窃盗罪ですね」

 ふむふむ。ってことは……。

「山本、何か盗んだの?」


「盗んでません!!」

 じゃあなんでこんな法律が出てくるのさ!!

「でもおかしいですよ、これ」

 伊織は難しい顔をする。何か考えているようだ。

「おかしい?」


「刑法235条に3項はないんですよ。1項は他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。2項は不動産の話で、他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。と言う内容なんです。つまり3項なんて六法にはないんですよ」

 つまりはなんだ、オリジナル刑法ってとこ?

「そうですね……。つまり五十鈴さんは差出人の財物や不動産以外の何かを盗んだといっているんです」

 斬新過ぎるラブレターだな……。

「私何も盗んでません!!」

 万引きした人はみんな同じせりふを言うんだよ。

「でもその罰が付き合うって……汚職警官か?」

 サツに渡さないから付き合えって思いっきり脅迫じゃないの。

「五十鈴さん、何か心当たりはありませんか?」


「言われても……」

 謎が謎を呼ぶラブレター。いったいどういうことだ? 何も盗んでいない、本当か? 山本が窃盗とかするような人間じゃないのは良く知っている。これは何かの比喩なのか? 比喩? 盗まれるもの……。

「まさかっ!? いや、ないないない! 恥ずかしすぎるって!!」

 頭の中で一つの仮説に行き着いたけど、全力で否定する。

「何か分かったんですか?」


「いや、盗まれたって言うのは、」


「心なんじゃない?」

 奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です!!

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