なんだかんだ言っても~All's well that ends well~
「「もうこりごりよ……」」
なんつうか、ご苦労様。
「おかしいでしょ……、なんで下から出てくるのよ……、屍人かよ……」
「何なのあの人ら……、質量保存の法則をガン無視してるじゃん……」
お化け屋敷というなのアベさんハウスから命からがら逃げてきた2人が口々に漏らす。うん、それは誰だって思うことさ。僕も追っかけられたときはひどい目にあったからな……。あれ以降伊織を怒らせないように頑張っているつもりだ。ってあれ? そういえば同行スタッフは?
『アーッ!!』
あちゃー、いい男でしたか。何も出来ないけど、せめて何かに目覚めないことを祈ってあげよう。モーホー。
「南無の感覚で言わないでよ……」
――
『最後のハニカメール! 最後のハニカメール!』
「最後……ねぇ」
「全くもって仲良くなれた気になれないんだけど……」
「アンタが歩み寄らないからでしょ」
「アンタにだけは言われたくないよ! で、最後の指令はなに?」
『今日を過ごして、互いの良かったところ、好きなところ、これだけは言っておきたいとこを言い合いながらキャッチボールしよう!! ドッジボールにしちゃだめだよ!!』
「「……また?」」
――
「最後の最後で一番緩いの来たね。いや、あの2人の場合そうでもないか」
今日一日喧嘩ばかりだった2人には厳しい内容かもしれない。
「最後ぐらいはさ、ちゃんとキャッチボールして欲しいよね」
ドッジボールはもうこりごりだよ。姉さんは漏らす。
「でも大丈夫じゃないかな。なんだかんだ言ってもお互い似たもん同士って分かってきてるだろうし」
なら良いけどさ。
――
さてさて、最後のミッションと行こうか。このためだけにわざわざ球場を借りるという離れ業をやってのけた。さすが麻生さん。やることなすこと無駄にスケールがでかい。広いスタジアムに対峙する2人の美少女。絵になるなぁ。
「あのさぁ、ちょっと良いかしら?」
「なに?」
パンフレットによると、観客収容人数は35,000人、両翼99.1m、中堅122m、そしてグラウンドの面積は14,300m²という。野球場の大きさの相場は分からないけど、大きいほうではないかな? というか、麻生BBスタジアムって……。
「えっへん」
胸を張る伊織。なんだろうか、今日の伊織は妙にテンションが高いな。何か良いことでもあったのか?
「オリックスの株主が麻生になったんですよ」
ええ!? ※この物語はフィクションです。
「なんで近いの?」
「距離3メートル」
って……スタジアムでやる意味ねええ!! その辺の河川敷でしろよ!!
「いい? メールには、言っておきたかったことも大丈夫と書いていたの」
「書いてたわねぇ……、褒める要素皆無だからその救済措置は嬉しいわ」
「それはこっちのセリフよ! この距離3メートル間で全力でボールを投げ合う。先に引かれたラインから体を出すか、ボールをキャッチし損ねたほうが負け。負けたほうは死ぬまで勝ったほうの言うことを聞く。いい?」
「はっ、上等じゃない! テニスでのうらみ晴らさせてもら合うわ!!」
おや? なんか雲行きが怪しくなってきてるんですけど……。
「このぉ、口パクアイドルがァァァァ!!」
ザシュ!!
「面白半分表が殆どの電波会長がァァァ!!」
ザシュ!!
「やっぱり喧嘩しだしたよおおおお!!!!」
3メートルという至近距離から、互いに相手の息の根をとめようと全力投球をする。しかも互いに顔面狙ってるし……。
「自販機のお釣りあさってんじゃないわよ!!」
ザシュ!
「この無職風情がああ!!!」
ザシュ!
「アイドルアイドル言ってるけど4年後には別のアイドルが出てるわよ!!」
ザシュ!
「何が面白いこと至上主義よ! やってることただのDQNじゃない!!」
ザシュ!
女同士のタイマンバトル。まだ掴みかからないだけマシなのかもしれない。って止めようよ!!
「こう君、女にも……、やらなければいけないことがあるのよ!!」
姉さんは真剣なまなざしで、
「雨降って地固まるっていうじゃんか。だから今は大雨真っ盛りなう」
今を二回使うなよ。
「だからさ、台風が過ぎ去ったら、ビックリするぐらいいい天気になるじゃん。台風一過ってやつ? 今日の嵐が強ければ強いほど、あの2人は分かり合えるんだよ。今はさ、対話の時なんだ!! 劇場版00だよ!!」
分かり合える――か。今あの2人は魂のキャッチボールをしている。お互いを分かり合おうとするために。
「犬より猫派なのが気に食わないのよ!!」
「はぁ? 犬派とか非国民かよゴルァ!」
「ビアンカ選ばないとか人間のくずよ!!」
「フローラのほうが便利だもの! イオナズン使えねえだろ!」
「どうせシェリルよりランカ派でしょ!!」
「初代しか知らねぇよぶわぁ~か!!」
対話……なんだよんね?
[名]向かい合って話し合うこと。また、その話。「市長が住民と―する」 大辞泉より。
何か違う気がするのは僕だけですかね?
「電波少年!」
「雷波少年!」
「宇多田ヒカル!」
「倉木麻衣!」
「司法書士!」
「行政書士!」
これなんの対話なの?
この日、2人の対話は、沈んだ日が昇るまで続いたという。
――
翌日
「で、結局あの収録はポシャってしまったと」
高視聴率が取れるはずの企画だったはずなのに、あまりにもトップアイドル江原遥のプライベートの迫りすぎて、作り上げてきたイメージをぶち壊しかねない企画だったため事務所側から土下座が入ったという話だ。もともとのイメージを知らない身から言わせて貰うと、江原遥というアイドルは、金にがめつく、負けず嫌いで、テニスが下手でお化けが怖い口の悪い普通の女の子だ。しかしスタッフの皆様は実に不憫だ。中にはアベさんに襲われて一生もんのトラウマを植え付けられた人もいるのに……。ああ可哀想に。度会も気の毒だな……。
「あのスタッフも被害者ですよ。そうそう、あの後僕ら帰ったんですけど、いつまで続いたんですか?」
「今日の朝6時まで……。最後の方は倒れるまでしりとりしてたよ……」
なんだかんだ仲良いだろ、あの2人。
「成功だった……のかなぁ」
「成功だった……んじゃないでしょうか? だってあれ」
伊織が指差す方向には、
「だーかーらー!! 卵が先に決まってるでしょ!!」
「じゃあ卵はどこから来たのよ! 生む母体があってこそでしょうが!」
「ふ、2人とも落ち着いて……」
またくだらないことを口論している監督と女優とそれを静止しようとする主演。ぱっと見、いつもの光景と思うかもしれない。でも、荒れに荒れた台風が過ぎ去った後の2人の顔は、それはもう晴れやかで。
「なんだかんだ言っても親友になりますよ、あの2人は」
終わりよければ全てよし、かな?