敵の敵は見方です。~Who's the enemy after all?~
「あのー」
「アンタファミレスでドリンクバーだけで1日中いそうな顔しているわね! それ迷惑でしょ!! 回転率悪くなるでしょ!!」
カーン!
「わるい!? 冷房効いてジュース飲みほで、ご飯まである!! 長居するなって方が無理な話でしょうが! それが嫌ならドリンクバーなんて無くせばいいの! そう言うあなたこそ歯医者に行くたびに泣いてそうな顔しているよ!! 歯医者で泣いていいのは小学生までよ!!」
カーン!
「は、歯医者が好きな奴がこの世にいるかあああ!!」
パコーン!
「あのですね、ちょーっと聞いてほしいんですが……」
パコーン!
「餡子はこし餡でしょうがこのビッチが!!」
「粒餡のよさが分からないのかこの雌豚がぁ!!」
パカーン!
「どっちでもいいだろうがぁ! 話を聞けよ馬鹿あああああああああああああああああ!!!!」
テニスコートにむなしく響く魂の慟哭。悲しいかな、戦争は誰かが犠牲にならないと解決しないのだ。こんな風に……、ね。
「あひぃん!!」
「あ」
「あ」
アンタのボール、ちょっくら痛かったぜっ……!
「おーと、こう君の捨て身の制止! 顔面を使ってボールを受け止めましたぁ!! これは痛そうだ!!」
「顔面セーフですね、良かったですね。ドッジボールならまだ戦えます」
「ざまぁwww」
よかないよ……。ぐふっ……。
――
南雲先生の諭し教育スタート。
「あのね、初心者だからミスがあるのは当たり前なんだよ。でもね、それを笑って許してあげないと、一向に良くならないんだよ」
目が覚めた僕は、申し訳なさそうにこっちを見ていたワーストカップルを正座させる。説教でも始めるように見えるかもしれないけど、僕は諭し教育をモットーにしている。相手に気付いて反省してもらうことが大切なのだ。
「うう……」
涙目の理名ちゃん。本当に僕の言うことなら素直に聞くな。
「江原妹もそうだよ。一回目はまだしも二回目は狙ってるようにしか見えなかったぞ」
見方側のコートだけで戦争を始めるもんじゃありません。
「だってアイツが……」
「だってもロッテもない!!」
自分でも何言ってんだろって思った。ロッテってなんだよ……。
「ピッ!」
妖精ポケモン!? 人類にしては珍しい悲鳴を上げる。
「さっそく諭しじゃなくなってる気がするのは私だけ?」
「気にしちゃ負けです。先生のあれ、漫画のまねですから。所詮模倣です」
外野が煩いけどスルーしよう。
「理名ちゃん、僕からもお願いするよ。喧嘩やめてください」
真摯な態度で、相手の目を見て――
「こう先生……、ごめんなさい」
言えば伝わるものなんだ。ただ、ちょっと間違えちゃったけど。
「おいおい、僕に言ってどうする。もっと言うべき相手がいるだろう?」
別に僕は謝られるようなこと――されなかったことはないけど、まぁ不問にしておこう。これが諭し教育。分かってすらないのに上辺だけの説教キャラと一緒という幻想なんか潰してやるぜ!!
「ごめんなさい、審判」
「そっちぃ!?」
いや、本城さんにも色々被害は及んだけど!! つーかさっき僕が顔面キャッチした際にざまぁとか言ったのこの人だよね!?
「これに懲りたら二度とこんなことをするんじゃないぞ、いいな」
何でそんなえらそうなの!? アンタさっきヘタレてたじゃん!
「誓うわ、アッティラの名に誓って」
別に理名ちゃんフン族の流れを組み込んでないよね。
「ならよろしい」
だからアンタはなんで上から目線なんだ。執事の口調じゃないよね。
「これで一件落着ね!!」
いい話だなーってわけがあるかあ!!
「理名ちゃん! わざとやってるなら怒るよ! 教師の意地見せるよ!!」
江原妹ポカーンてしてるよ! 謝るように言ったときにこの子一瞬夜神家長男みたいな悪い顔見せたけどさ! 計画通りとか言ってそうだったけどさ!! スルーって鬼か!?
「こう先生が先生の意地を見せるのなら、私は御崎原高校生徒会長の意地を見せるわ!! 南雲美桜、ごめんなさい! こう先生、審判、改めてごめんなさい! 麻生伊織! ごめんなさい! 脳筋コンビ、ごめんなさい! スタッフの皆さん、ごめんなさい! 江原遥、謝りなさい!!」
「なんでじゃあああ!!」
生徒会長の意地張りすぎだよ!! 一番謝らなきゃいけないところに謝罪を求めたよ!!
「ふぇ?」
ほらぁ! 素に戻って間抜けな返事しか出来なくなってんじゃん!!
「江原遥、ごめんなさいは?」
「はいっ? アンタ何言ってんの……」
当然のリアクション。
「ごめんなさいは?」
「……ごめんなさい」
「これにて、一件落着!!」
やったね、理名ちゃん。解決し……
「待ーて待て待て待て!!」
てねーよ!! 強引に終わらせよった! しかも謝るどころか逆に謝らせて!!
「ってなに謝らせてんのアンタって人はぁ! 謝るなら私でしょうが!!」
ようやく状況を把握した江原妹はカンカンにキレている。
「私は必要のない謝罪はしない主義なの!!」
「思いっきり必要あるよ!!」
あんたらが原因でしょうが! ああっ! こうなりゃ奥の手だ!!
「あのー、江原妹さん。すごく申し訳ないんですけど、もう一回ボール当てたことを謝ってもらっていいですか?」
僕が思うに理名ちゃんの脳内は、
『なんで相手がちゃんと謝ってないのに私が謝るのよ!! 一昨日来やがれぶわぁ~か!!』
ってところだろう。一応謝ってはいるんだけどね……。
「なんでまた頭下げなきゃいけないわけ!? 私謝ってるんですけど!」
当然の反応だろう。人に頭を下げるのを死ぬほど嫌がりそうな性格しているからね、気持ちがこもってるこもってない別にしても、彼女が謝ったというのは貴重映像かもしれない。
「そーよそーよ! 早く謝りなさいよ!!」
「理名ちゃん!!」
心が折れそうだ……。だれかこの女王様系アイドルをコントロールできる奴はいないのか……。
「……、アイツしかいないよなぁ……」
はぁ、と一つ溜息をして携帯のアドレス帳を開く。受験を控えて勉強しているところ悪いけど、身内の責任を果たして下さい。
――
数分後
「ゴメンなさい」
一発KO!? 今までの僕の苦労なに!?
「流石兄というべきだろうか……、あの妹様をいとも簡単に謝罪させるなんて……。で、これを見た理名ちゃんはなにを思った?」
今度こそ、ちゃんとした結末を。
「ゴメンなさい」
「はい、仲直り成功だ!」
強引に二人の手を掴んで握手させる。
――
「先生、もしやとは思うけど、このためだけに俺を呼んだの?」
受験が近づき、図書館で自習していたらしい江原影に無理を言ってきてもらった。
「誰だよ、江原影って」
双子ということもあって、互いのツボを知っているんだろう。一言二言かけるだけで、プライドの塊だった江原妹の口から(少々理不尽だけど、)謝罪の言葉を引き出せた。
「てかスイパラ奢らされる羽目になったんだけど!! 請求していいかな、諭吉請求しちゃって良いかなぁ!?」
しかし代償は安いものじゃなかったようだ。
「後で麻生スイーツパラダイスのチケット上げるから勘弁して頂戴」
「あなたは神か」
折角貰ったのに……。とほほ……。
――
「それではゲームを再開します! 0-30!」
一応仲直りしたけど、ダブルスは互いのチームワークがものを言うもの。どちらのペアも急造ではあるけど、テニスラケットを初めて持つドビギナーで、しかももともとの相性が最悪なことに加えて、
相手がお馬鹿だけどスポーツに定評のある脳筋ペアということもあり、
「くそっ!」
「何で返せるの!?」
とまぁ怒涛の攻めに翻弄される。こればっかりはしょうがないところもある。なんせ相手が悪すぎたのだ。
「0-60! ゲーム脳筋! 0-1!」
先制点を取られてしまう。
「あっと、先ほど入りました情報によりますと、この試合時間が押してますので、3ゲーム先取したほうが勝者となるみたいです!!」
「このタイミングでその情報は嫌がらせでしょうか?」
「作者が忘れてただけだよ、きっと」
メタ発言やめい!!
「なんであれをロブで返しちゃったの!! あのチンチクリンがスマッシュするの見えてたでしょ!!」
「チンチクリンってボクのことだよね……」
「そういうアンタもカッコつけて自滅するんじゃないわよ!! なにがブーメルンスネイクよ! 初心者がそんな技出来るわけないでしょうがぁ!!」
「微妙に名前間違ってないか?」
「揚げ足とるなっ! ハゲ!!」
「ハゲって言うなぁ!!」
1ゲーム目が終了すると、敵味方入り混じっての罵倒反省会が始まった。やはりさっきの仲直りだけじゃ2人は団結しないのか!?
「仕方ない……、脳筋には気の毒だけど、あれをしてもらうか。タイム!!」
一時進行を止めて、僕はある計画を実行に移すために、脳筋を呼び寄せる。
――
「斯く斯く云々」
「シカクイムーブ」
「四角い仁鶴がまるーく解決。だね」
最後のネタ、分かる人少ないんじゃないか?
――
「とりゃあ!!」
ビュン!
「ちょっ!」
サーバーの古村から放たれる豪速球サーブ。初見で打ち返すのは無理な話だろう。
「0-30!!」
高速サーブに手も足も出ないようだ。
「ちょっとちょっと、ちゃんと打ち返しなさいよ! ボーっと立ってるだけなら今時スケアクロウでも出来るっての!」
スケアクロウは昔から立ってるだけだぞ。
「なに英語でかっこつけてんのよ! 見えたっ! とかいって綺麗にストライクを取られたのはどこのどいつかしらぁ?」
確かにあれは、ダサいことこの上なかったな。微笑ましかったけど。
「きぃぃぃぃぃ!」
「きしゃぁぁぁ!」
あーあ、やっぱりこうなる運命かよ……。それじゃ、チーム脳筋、一芝居お願いします。
「あーあ、トップアイドルか生徒会長か知らないけど大したことないよねー」
「「あぁ?」」
「そうだなー。実は俺隠してたことがあったんだー」
「それはなにー?」
「実は俺、えはりんよりみっちょん派なんだ」
※みっちょん=南島敦子。総選挙では僅差で2位。
「みっちょん派だァ?」
「そうそう知ってるー? この前食堂で生徒会長がブロッコリーを残したんだってー。お子ちゃまだよねー」
※生徒会長は野菜が嫌い。とくにブロッコリー。
「お子ちゃまだァ?」
「こんな二人に負けるはずが」
「ないよねー」
誰にも負けないよ、棒読み加減じゃな!! かえってムカつくんだけど!!
「「おいまてそこの脳筋」」
「私たちの敵は、アイツらのようね」
最初からそうだったでしょ。勝手に身内で揉めてるだけです。
「そうね、ここは一時休戦と行こうか。つーわけで、
」
「「ムカつくからぶっ潰すわよ!!」」
2人の敵意? がようやく脳筋へとむいた。同じ敵を持つものは見方なのだ。
「アンタはその後ボコボコにしてあげるわ」
「言ってろ、ブロッコリー」
あの超大根芝居にムキになるあたり、単純さでは2人ともよく似ているんだろうな。これで仲良くなれば良いんだけど……。
パコーン!
「あべしっ!!」
「あっ、悪い」
あの高速サーブを打ち返したのは良かった。でも理名ちゃん、ボール当たるの何度目? しかも身内のテロで……。
「ふふふ……、分かっているわよ。全ての元凶は向こうよ……。こんなの、痛くも痒くもないわ!!」
とうとう相手のせいにし始めた。
「古村っち、なんかよく分からないけど」
「俺ら悪くねえよなぁ!!」
ごもっともです。
「勝利でそれを証明してやる!!」
古村のサーブが火を噴く!
「煩いのよ、このハゲ!!」
パコーン!!
「わっ!!」
「ずらっ!」
理名ちゃんの反撃の一打は脳筋コンビの間に鋭く入る。
「15-45!」
ついに一点を入れた。そういや実況と解説は?
「ひっさつ、ダンクスマッシュ!!」
「そうは行きませんよ、羆落とし!」
なんでテニスしてんだよ! しかも漫画で見たことあるような技ばっかだし!!