エースを狙え~Princess of tennis~
「こう君、時代はね、テニスデートなのだよっ!」
10年ぐらいぶっ飛ばした人に時代を語って欲しくないな。ザッパーンと後ろで津波のエフェクトが起きそうなぐらい胸を張る。
「ダブルスは互いを信用しないと勝てないんだよ!」
「個々が強かったら半面ずつ使うってのもありじゃない?」
ダブルスじゃなくて半面シングルスだけど。
「そうですね……。今の2人だと、最終的にそこに行き着きかねませんからね」
「……、まぁなんとかなるでしょ」
なるのか? スッゴい不安なをだけど――
――
「おぉー! マジでテニス勝負できるのかっ! えはりん! 俺のこと覚えてる? コブラとキスしたんだけど! ねぇねぇ!」
「気持ちワルいよ、古村っち……」
テニスコートに待っていたのは、南雲オールスターズきっての体育会系コンビ古村と小町ちゃんだった。なんつうか新鮮な組み合わせだ。
「ハニカメールは見ましたね? ここでは俺たちとダブルス勝負します」
「準備運動が出来たら声をかけてね! ボクらはもう準備できてるから!」
そう言って2人はコートで打ち合いを始める。
「ねぇ、アンタテニス経験は?」
「ないわよ。毎日ダンスやらボイトレでそれどころじゃなかったわ」
「困ったわね……、ペアが足を引っ張りそうで怖いわ」
「行ってろ! どうせアンタも大したことないわよ」
敵は身内にあり。早速揉め始める2人。ここまで仲が悪いとは……。ホント大丈夫か?
「大丈夫だ、問題ない」
一番良いペアを頼む。
――
「公正なゲーム進行を行うため、僭越ながら硬式テニス審判の資格を持つこの私本城が勤めさせて頂きます」
審判が座る椅子には、なぜか資格を持っているという本城さんが座っていた。
「本城は資格マニアなんです」
初めて聞いたぞそんな設定。
「色々持ってますよ? 日本茶アドバイザーとかアマチュア無線技士とか明石のタコ検定とか……。枚挙にあがりません」
聞いたことない資格もあるんだけど……。てかタコ検定って思いっきりご当地検定じゃん……。本城さん明石っ子なの?
「それでは4組脳筋ペアとワーストカップルの試合を行います!」
そんなこんなのうちに、崎高テニス部のスコートに着替えた2人が入場してきた。
「脳筋ってどうゆうことだよっ!」
「馬鹿にしてるよねっ!? ボクら馬鹿にしてるよね!」
脳筋ペアという最悪にありがたくないチーム名を与えられた2人は反論するが、君たちは一学期の成績表を見直して欲しい。2人仲良くケツから二番目だぞ。その下には名前すら書いてなかった眠り姫しかいないし。
「脳筋なら勝てるわ」
「脳筋なら大丈夫ね」
相手が脳筋だからと余裕の態度を見せる。でもなぁ、動くことに関してはアイツらの右にでるやついないぞ。
「えーと、実況は毎日が仏滅、あなたの町のすてきなお姉ちゃん東雲美沙と」
「あなたの町の愉快な銀行、J○人身事故いい加減にしろ麻生伊織でお送りいたします」
「どうしたの、急に元国鉄の名前を出して」
「また遅れましたよ。遅れる度に誠意のない謝罪を送るしか脳がないんですかね?」
「その辺にしよっか」
なにを言ってるんだ、あの人ら。
――
先行 ワーストカップル(江原、香取)
「何でアンタの方が先にクレジットされてるのよっ!」
「トメこそ最大の功績者! 変われー!」
先行 ワーストカップル(香取、江原)
どっちでもいいやんっ!
後攻 脳筋ペア(ぺあ)(古村、二宮)
「さすがに読めるよっ!」
「カタカナにまでルビ打つ必要ねえよ!」
じゃあこれなんて読む(よむ)?
「捗る」
「くすぶる?」
「しぶる?」
正解は捗る(はかどる)。
「馬鹿にすんじゃねえよ!」
「テニスで決着つけてやるっ!」
――
「さてさて、あそこに打てばいいのね。行くよっ、レーザービーム!!」
「お願いだから、頭にぶつけるなんて漫才みたいなベタなマネはやめべぇ!!」
「あっ、ゴメン」
「あーっと! いきなり見方に攻撃!」
「痛そうですね……。ちなみにあれはアウトとして扱われますので、脳筋ペアなにもせずに先制しましたね」
フラグ回収はやっ! なんでしょうかね、2人とも素材が良いから凄いスコートが似合ってんのよ。ぱっと見テニスが滅茶苦茶上手そうに見える。
しかし、2人とも初心者マークを何枚もつけなきゃイケナイド素人。早速珍プレーを見せてくれた。
「まさかアンタ故意に狙ったとかないわよね!?」
「謝ったでしょ! つーか初心者に完璧なサーブ求めんな!! 不慮の事故!」
「初心者でもそうそうしないミスよ! ミスるにしても、せめてフォルトかアウトにしなさいよ! なんでよりによって私に当てるのよ! しかも相当痛いんですけどぉ!! 馬鹿なの!? 死ぬの!? つーか死にさいよっ!」
「今なんつったクソアマァ! 死ねって言った方が死ねよ!」
「なんですってぇ!」
「ワーストカップルっ! 早く打ちなさい」
審判はエキサイティングしてる2人を制止する。
「覚えときなさいよ……」
「謝ってるでしょうが! くどいっ!」
なんつうか、余計雰囲気悪くなってるぞ。これでいいのか、これでホントに仲良くなるのか、答えてよ。実況と解説。
「ファンタスティッポー」
「わぁ、オーストラリアにしかいないラッフルズセセリが飛んでるよう」
現実逃避なう。
「目を合わせろよっ!」
仕事しろ! 実況と解説!
「外野が煩いんだけど」
「誰かさんがレーザービーム撃ってくるからでしょうよ……」
「しつこいなぁ!」
(身内への)怒りのこもった渾身のサーブ!
「ってあぶなっ!」
またもや理名ちゃんを直撃しかけたが、すんでのところで避ける。
「危ないじゃなべひゃぁ!」
「あっ……ゴメン」
「二宮、これは相手が悪いよ」
「またも直撃! ボールに愛されてるのか嫌われてるのか分からないっ!」
「リターン成功というわけではないですが、一応脳筋ペアの点数になりますね」
文句を言おうとした理名ちゃんに、小町ちゃんのリターンが直撃した。これは笑いの神が舞い降りたのか? 彼女にはコメディエンヌの才能があるかもしれない。
「アンタまた私を殺そうとしたでしょ!!」
「じ。自業自得じゃないっ! ゲーム中に余所見をする方が悪いっつーの! それを私のせいとか……、有り得ないっつーの!」
有り得ないってことが有り得ないんだけどね。現に理名ちゃんは江原妹のせいにしようとしてるし。
「「――!」」
罵詈雑言のラリーが続く。最初はプライベートに密着なんて息巻いてたカメラマンも、それどころじゃなくなったと判断して撮影を中断した。
「早く打ちなさい!」
審判グッジョ……
「「あ゛あ゛っ!?」」
「ヒィッ!」
使えねぇ! この子らアンタより一回り二回り年下だよっ!
「どうすりゃいいんだよ……」
こうなったら誰も止められない。
「こう君の言うことなら聞くんじゃないかな」
「確かに、十分に有り得ますね」
「僕ぅ!?」
実況&解説は期待の眼差しでこちらを見つめる。
「あの中に入れと言うのか!?」
「アホっ! マヌケ! オタンコナス!」
「自主規制! 自主規制! 自主規制!」
子供の喧嘩の方がまだ大人しいぐらいに罵り合う2人。いつの間にかボールまで打ち合って……、まさに会話のドッジボールやで!
「無理無理無理! テニスボールで蜂の巣にされるよっ!」
「こう君!」
「先生!」
「「現実から逃げるなっ! 大人の責務を果たせっ!」」
「僕関与してないんですけどぉぉぉぉぉ!!」
あのー、テニスしようよ。