監督と女優が仲悪すぎてヤバイ~Love shyness~
第2部スタート? まぁ、いつも通りのどたばた喜劇です。
「カァァァァァト!!」
校庭にに響き渡る怒号。何事かとクラブ活動中の生徒たちが動きを止める。
「そこ表情硬い!! もっとナチュラルに! ああ、こんな学園生活なんだな、楽しそうだなって中学生が思えるようにしないと! はい、撮りなおし!」
今撮影が行われているのは、パワフルガイシリーズの名を借りたPR映像、「パワフルガイミサキ」。まさかの本家角谷プロの撮影スタッフを動員(流石に一部だけど)し、最早PRってレベルじゃないクオリティの作品を作り上げようとしていた。しかもそれを仕切る監督ってのがうちの生徒会長だから驚きだね。
しかもキャストも異常すぎる。崎校出身者でもないトップアイドルえはりんこと江原遥をヒロインに起用するという、それ商業映画やんっ! て突込みが方々から飛んできそうな内容になっているんだ。
「アクション!!」
しっかし、私の出番はいつ来るんだろう……。エキストラの生徒の方が仕事してる気がするよ。
ふと上を見上げると、こちらを見下ろすこう君と伊織ちゃんの姿が見えた。本人たちは気付いているのかな、2人の距離が恋人同士並に近いってことに。
――
「随分派手にやってますね」
屋上から下の撮影を眺めながら言う。
「というか断ってよかったんだぞ。理名ちゃん伊織のことを銀行扱いしていたぞ」
アイドル起用とかプロのカメラマンのギャラの問題が出るけど、こともあろうことに、理名ちゃんはクラスメイトのお嬢様、麻生伊織嬢から金銭感覚が狂いそうな額を借りたのだ。しかも噂には無利子無担保という超良心的設定で。前も思ったけど、女子高生同士の貸し借りってレベルじゃない。マネーゲームの世界だ。
「正確には僕ではなくて御祖父様がですね」
伊織は溜息交じりに答える。ああもったいない、幸せが逃げていく。
「ご存知の通り、香取会長のバイタリティは留まる事を知りません。近い将来女子高生宇宙飛行士になったとしても、ああ、やっぱり。で済ますことができますから。御祖父様もそこが気に入ったんでしょうね。知ってますか? 彼女、御祖父様に直談判したんですよ。面白いことをしたいから、お金を貸してほしいって」
「マジ?」
目が点になる。ジョーダンであって欲しいんだけど……。
「マジです」
目はマジだ。というか、伝助氏に直談判なんて恐れ多いことをようやるよ……。これがどれだけ凄いことか分かっているのだろうか。伊織の祖父、麻生伝助氏は知る人ぞ知る日本経済界の首領だ。この人が一言総理に向かって嫌いというだけで、早期退任に追い込むことができるというぐらいの御仁だ。何回か話す機会があったが、この人の持つ存在感やオーラというのは計り知れない物があった。そんな伝助氏に気に入られたなんて、例えるなら宝くじで1等を5回連続で当てるようなものだ。そうそう出来るもんじゃない。つーか運がいいってレベルじゃない。
「でもまぁ、最近は御祖父様も丸くなりましたしね……。純粋に香取さんの持つ魅力に興味を引かれたのでしょう。その日御祖父様はいたく上機嫌でしたし」
知らないうちに、僕の後ろが指定席だった福家理名ちゃんは、学校どころか日本の裏ボスまで巻き込むぐらいの超特大級台風少女に変身していた。時の流れの怖さをヒシヒシと感じさせると同時に、昔の彼女を知る僕にとっては嬉しい展開ではある。
「最強で最狂、挙句の果てには最凶と来ましたか」
「口語で言われても違いが分からないです」
日本語って難しいアル。
「しかし香取会長もさることながら、ヒロインの方も相当トンでもな方ですよね」
ヒロインというと、トップアイドル江原遥だろう。確かに、あの子もかなりクレイジーではあったな。
「また揉めてるし……」
――
「どうしてセリフを勝手に変えるかなぁ?」
「脚本のセリフよりも、演じてみてこっちのほうがしっくり来るからだけど」
「アドリブが悪いなんて言わないわ。その場で演じる人が言うのならそうなんだろうけど、」
「ほら、悪かないじゃん」
「全セリフアドリブって喧嘩売ってる? あなたは」
何度目だろうかな、監督の理名ちゃんと、ヒロインのえはりんが撮影そっちのけで口論を始める。さっきからそれの繰り返しで、どうもこうも撮影が上手くいかない。
「だってそのほうがしっくり来るんだもの。何度も言わせないでよ」
「何のための台本よ! それともしっくりこないってのは建前で、ホントはセリフを覚えてないだけじゃないの?」
「覚えるわよこれぐらい!」
徐々にヒートアップする2人。非常に大人気ない光景だと思う。それは回りのみんなも思ってることで、またかって感じでうんざりした顔をしている。互いに掴みがかろうとしたそのとき、救世主現る!!
「ああああ!! もう2人とも落ち着いて!! 周りが迷惑するだろっ! 遥もアドリブ入れすぎなんだよ、素人の俺についていくなんて芸当はまだ難しいんだ。後会長もいちいち喧嘩腰にならないでくれ」
それを見かねた1人の男が仲裁に入るというのも最早テンプレと化した。しかしなんと言うか、前会長さん今のほうが生徒会長ぽいって言ったら怒るのかな?
「彼方ぁ、私の敵だよアイツ!」
「私からしたらあんたが敵よ!」
口々に私悪くない、悪いの向こう。と言い訳合戦を始める。
「とりあえず仲良くしてくれええええ!!!」
あまり役に立たない救世主でした。パワフルガイミサキに変身する前に、この2人を何とかしたいと言っていたけど、果たしてそれは可能なのかな……。で、出番いつですか?
――
「アイドル連れてきたのが最大の失敗じゃなかろうかと思うんだけど」
「それは僕も思います」
理名ちゃんが向きになるのは、アイドル様が相手のときだけだ。その逆もそうで、アイドル様は理名ちゃんに対してだけは、営業スマイルを放棄したガチモードで応戦する。
「なんと言いますか、似てますよね、2人」
伊織の言う通り、水と油、犬とサルみたいな最悪の関係の2人だけど、根本的なところは似通ってると思う。
「この2人さえ仲良くなれれば撮影も上手く回るんだろうけどな」
大概の原因がこの2人だ。
「そうですね……、このままじゃ拙いですし、何とか策を練ったほうが賢明かもしれませんね」
策って言われてもねぇ……。
――
「こう君聞いてよ! 結局今日の撮影も出番なかったんだけど!!」
夕食時、プリプリと怒っている姉さんが詰め寄るように語り掛ける。
「またあの2人だよね……。上から一部始終を見てたよ」
「高みの見物ってやつ? 今更だけど、私も変に出演するよりかはそっちの方が良かったかも」
何もしていないはずなのに、妙にお疲れな姉さんはだれるように机に突っ伏す。
「なんとか仲良く慣れればいいんだけどさ……、いっそのこと2人3脚で生活させたらいいんじゃないかな?」
子供だましかもしれないが、息は合うようになるかもしれない。
「それならさ、一つ良いのあるけど」
姉さんはテレビのほうを指差す。そこには、何年か前に終わったタレント同士がシチュエーションにあわせてデートをする番組の特番が流れていた。終わったものを復活させるってあたり、テレビも限界が来たんじゃないだろうか。
「あれがどうかしたの?」
見せられてもさっぱり分からない。
「だから、デートするんだよ」
「誰と誰が?」
「そりゃあ、」
「監督とヒロインでしょ」