表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/263

カトリーナアタック!~Hurricane girl~

 4月の始業式というのは学生達にとって一年で一番ドキドキするイベントなのだろう。恋をしている生徒はクラス替えの結果に一喜一憂し、担任の名前を見ては一喜一憂する。生徒に先生を選ぶことは出来ないから、良い教師に巡り会えるのも運なのだ。

 周りの教師陣はどんな振り分けになってんだっけな。確かメモしたやつがあったはずだ。えっと、これだな。どれどれ……? 加納先生は2年6組の担任か。おっ、伊織もこのクラスか。ん? 聞いたことのない名前があるな。転校生なんかいたっけな? 小学校や中学校に比べて高校っていうのは転校生があまりいないと思う。漫画とかだったらバンバン転校生キャラが出てくるけど、実際はそんなにいないだろう。でも妙だな。転校生が来るなら職員会議でも話題にあがるだろうに。

「急にこっちに来たんだよ」

 後ろから声がする。振り向くと、

「転校生が来るってのは昨日理事長に聞かされたんだよ。南雲先生もあたしも1日の職員会議出てないだろ? そん時に決まったんだとよ」

 件の転校生のクラスの担任の加納先生がいた。

「資料をちゃんと見てなかったからな……。見落としてたのかも。」

「いや、書いてなかったさ。職員会議中に急に転校生側から連絡があったらしく、色々突貫工事で進めたわけ。まったく、言い方が悪いがそんな得体の知れない生徒を持たされるんならさ、もちっと早く連絡してほしかったね」

「加納先生、香取さんが来ましたよ」

 教頭先生に呼ばれ、加納先生は溜め息をつきながらも向かう。

 そのときは誰も気付かなかった。香取理名(かとりりな)。この謎のベールに包まれた転校生が崎校に台風を巻き起こすなんて。


 さて、有る有るネタのつもりはないが、どこの学校でも共通して言えることがあるだろう。例えば校長先生のお話は無意味に長い。そしてそれよりも長い生徒指導の話。退屈に思っているのは別に、生徒だけじゃない。当事者以外の先生だって退屈なんだ。周囲を見渡すと、加納先生は携帯を弄くってるし、キリはというと見たところ夢の中だろう。三宅先生は耳にイヤホン付けているし、よく見ると教頭先生も携帯を弄っている。たぶんあの人はモ○ゲーやってるな。

 この教師陣のていたらくぶりを見ると、藤堂先生はまず生徒より先に教師陣を指導すべきだろう。見たところ生徒の方がまじめに聞いている気がする。

「近頃の若い者は礼儀がなっていない! 先日も電車に乗っただけでバカにしたような目でこちらを見てきた!」

 女性専用車両にでも乗ったんじゃないですか?

「しかも人の頭をみてクスクス笑うと来た! まったく親の顔が見てみたい者だ!」

 多分ズラがずれていたんですよ。それとその親の世代が藤堂先生なんですけどね。

「まったく若者のモラルの……」

 あーあ、ループしちゃった。自分の愚痴だけで何分使うんだよ。流石に飽きてきたぞ。と思ったその瞬間だった!


「あー! なんなのよ! この無意味極まりない時間は! 日本の学校には拷問の授業でもあんの!?」

 体育館に響き渡る大声。全員の視線を集めるそこには……、

「転校生初日からこんな無駄な時間を過ごすぐらいなら家で寝てりゃ良かったわ! しかも同じ話が言い方を変えて何回も繰り返されるだけだし! 変奏曲かっての!? ゴリラの退屈な主張による変奏曲かっての!?」

「理名ちゃん、落ち着いて……、退屈と思っても我慢するのがこの国なんだよ」

「郷に入れば郷に従えってか!? When in rome do as the Romans.ってか!?」

「ううう……、皆さんこっちをみないで下さい……」

 視線の先には、意味の分からない主張を繰り返す少女と、それを泣きながら取り押さえる少女がいた。片方の生徒は見覚えがある。てか去年の僕のクラスの生徒だ。

 入野絵梨佳(いりのえりか)は必死でわめく少女を宥めている。僕は意外な光景だと思った。去年の入野はいつも自信無さ気にオドオドしており、二学期の中盤まで僕が話しかけてもいつも、

「ゴメンナサイっ!」

 と言って全速力で逃げていたぐらいだ。最後の方はなんとかコミュニケーションが取れたが、どうも他人が怖いのか、それともただ気が弱すぎるだけなのか分からない子だった。伊織曰わく、

「話してみたら普通に面白い子でしたよ?」

 だったが、どうも僕は好感度が依然低いらしい。フラグ建て間違えたかね……。


「人がまだ話しているだろう!! 最近の若いもんは我慢という言葉を知らないのか!」

 あーあ、藤堂先生ブチギレたぞありゃ。止めた方が良いんじゃないか?

「良いじゃないですかあ。このまま見物しておきましょうよー」

 間延びした口調で三宅先生が答える。

「ファイッ!」

 煽ってどうするんですか?



「我慢ねえ? 勿論知ってるわよ! 我慢ってのは、仏教語で七慢のひとつで、サンスクリット語「mana(マーナ)」の漢訳のことよ。仏教で言う「慢」は、思い上がりの心をいい、その心理状態を七つに分けたものが「七慢」なわけ。そん中の「我慢」ってのは、自分に執着することから起こる慢心を意味し、「高慢」「驕り」「自惚れ」とかと同義語なのよ。そこから意味が転じ、我慢は「我を張る」「強情」などの意味で使われるようになったわけ。そっから強情な態度ってのは人に弱みを見せまいと耐え忍ぶ姿に見えるから、現在使われている我慢の意味となったのよ。因みに、我慢の元となる「七慢」を説明すっと、「(まん)」、「過慢(かまん)」「慢過慢(まんかまん)」、「増上慢(ぞうじょうまん)」、「我慢(がまん)」、「卑慢(ひまん)」、「邪慢(じゃまん)」の七つよ。いちいち意味まで言うのは流石にしんどいから遠慮させてちょうだい。あんたはそうねえ……。慢が一番似合いそうね! 我慢という言葉を知んのかなんて言うぐらいだから当然ご存じだと思うけど、慢ってのは他と比較しておごり高ぶることよ。自分達は優れていて今の若者達は劣ってるなんて考えをもっているあんたの為に有るような言葉じゃない! これは即刻戒めるべきよね!? 後これは私が勝手に思ってることなんだけど、キリスト教の七つの大罪と何らかの関係があるのかしらね! 大乗仏教ってキリスト教の影響を強く受けているのは事実だし、どっちも七つだし戒める意味では……、って何黙っちゃってるわけ? 聞いて来たのあんたの方じゃない! 答えてあげたんだからなんかレスポンス寄越しなさいよ!」

 マシンガンが如く怒濤の勢いでまくし立てる。

 やっべえ、スッゴく会話にはいりてえ! 世界史オタクとしては彼女は余りにも面白すぎる! 早く授業してみたいなあ。

「南雲先生、ニヤケてますよ」

 どうやらニヤニヤは隠しきれないようだ。それもそうだ。歴史オタク(?)の登場と、何より、

「……、これで生徒指導からのお話を終わります」

 藤堂先生をやりこめやがった。

 パチパチパチパチ!!

 おお、まさか生徒指導で拍手が来るとはな。藤堂先生、おまえじゃねえ、座ってろ。

 盛大なる拍手を送るにふさわしい英雄というと、

「崇めなさい! この理名様を崇めなさい!」

「理名ちゃん……、うう、目立ちすぎだよぅ……」

 大統領のように両手を広げ拍手の雨を身に受けている。その傍らで、入野は涙目になって俯いていた。

 体育館中が一体となっているさなか、一人明らかに落胆とした人がいた。

「転校初日から目立ちすぎだろ……、なんでよりによってアタシのクラスなんだよ……」 加納先生が一気に老けたように見えた。加納先生のクラスで転校生? ってまさか!

「この学園にこの香取理名が嵐を吹き起こすわよ!!」

 香取理名、通称カトリーナ。史上最強の台風少女、日本上陸!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ