ずっと一緒にいる。~My sister came from the past~
「これがことの顛末。度々用事って言ってたでしょ? まあ、察してくれたとは思うけど、あれ全部病院に行ってたんだ。いつもこう君がいないときに隠れてお薬飲んでたし、体育の後なんかいっつもへとへとだよ。頑張って隠してたけど」
悪戯がバレた後の子供みたいに、困った笑顔を見せる。
「それを僕に、誰にも知られないようにしてきたって言うの?」
「誰にもって訳じゃないよ。私まだ子供だったし、峰子さんが色々取りはからってくれたから、彼女は知ってる。早苗は中学からの知り合いだから、これに関してはノータッチだけど」
辛くても明るく笑って、怖くても見栄を張って、病が体を蝕んでも精一杯駆け抜けて、そして苦しいことを独りで抱え込んで。それでも、彼女は秘密を守り続けた。
「もういいじゃん」
「へ?」
「もう姉さんだけが苦しむ必要は無いんだ。だってこれまで頑張りすぎるぐらい頑張ったじゃん、だからさ、」
「ここからは僕も一緒に苦しむ、一緒に歩いていってやる」
それが、僕の出した答え。この人の苦しみも辛さも僕が半分背負ってやる。
「こう君、何言ってるのよ……」
姉さんはそれを受け入れようとはせず、
「治療は上手くいって、ほら見ての通りピンピンしてるよ!! リレーだって走るし、下手ながらに泳いだ。もし死んでるなら鏡の世界でとっくに死んでたよ!」
声を荒げる姉さん。病人だなんて思わないぐらいの勢いだ。
「じゃあさ、姉さん」
ゴメン、
「どうして泣いているんだよ」
また泣かしちゃった。
「泣いてなんか……、ない……よ……」
瞳から流れる涙を必死にごまかそうとする。でも、もう遅い。誤魔化し切れてなんだよ。
「え?」
「それじゃあ僕も、泣いてなんかないや」
力なく立ち尽くす彼女を、精一杯の力で抱きしめる。目から何かが流れてきてるけど、構ってる余裕なんてない。服越しに伝わる彼女の鼓動。それは姉さんが今ここに生きていることを讃える力強いファンファーレに感じた。
「嘘吐き。目から流れてるよ?」
「心の汗だよ」
「それじゃ、私も心の汗を流すね。だから今だけ、私のことをしっかりと受け止めて。伊織ちゃんや理名ちゃんよりも愛おしく思って」
その一言を皮切りに、
「うわあああああああああん!!」
せき止めていたダムが決壊し、響くは裸の、本当の姉さんの慟哭。
「怖いよ、すっごく怖い! いつ死ぬか分からないんだよ、怖くないわけがないよ! どうして私だけってずっと思ってた! どうして時限爆弾なんて埋め込んでくれたんだと思った! 神様なんて嫌いだった! こう君を傷つけたくなかった!!」
笑顔の仮面の裏に隠された激情。僕はそれを、余すことなく受け止める。それが今の姉さんへの最大の薬だから。どんな万能薬でも、こころまでは治せやしない。
「でも私は最悪よ!! 自分が死にたくないから、自分の願いのためだけに、全てをほっぽり出して未来に来た。こう君がどんな顔して待っててくれたか、そんなこと少し考えたら分かるのに、それよりも自分を優先した!」
それは全てを投げ打ってでも生に執着し続けた女の言葉。
「未来に来た私を待っていたのは、変わり果てた社会と、変わらなかったみんな。そしてみんな当たり前のように私を受け入れてくれた」
「でも私は受け入れきれなかった。上っ面でしか愛せなかったんだ、こう君の変わらない優しさに甘えすぎてたんだ」
涙混じりに語る姉さん。嗚咽はどんどん大きくなる。
「ねえこう君。こんな最低な姉でも一緒にいてくれますか?」
僕は……、
「いてやる。姉さんが嫌って言っても一緒にいてやる」
震える彼女をもっと強く抱きしめてやる。
「こう君、私相当嫌な小姑になるよ? 味噌汁に塩が足りないとか窓に埃がついてるとか言って、伊織ちゃん困らせちゃうよ」
分かってるよ、無理に揚げ足を取ろうと必死になるんだろ?
「ははっ、僕ら結婚しちゃうんだ。そいつは嬉しいな。伊織もさ、姉さんのことが好きだし、案外そう言う庶民的なものが好きだから、ノリノリで小姑嫁戦争してくれるんじゃない?」
なんとなくだけど、朝の微笑ましい光景が目に浮かんだ。互いに変な意地を張る2人と、間に置かれて困り顔の僕。そこに台風が乱入してくる、そんな未来が。
「うーん、困ったなぁ、本当に困った。また1つ生き続ける理由が出来ちゃった」
困った困ったと繰り返しているけど、姉さんの顔は何か晴れやかで、全てをやり遂げたように輝いていた。
――
「そうか、全て解決したか」
全てっていうと語弊があるけど、半分は終わったと思う。
「いや、50%ぐらいはね。まだ姉さんは何かを隠してるみたいだよ」
「50%だと?」
峰子さんは意外そうな返答をする。
「その様子じゃ峰子さんも知らなかったみたいだね」
「まあな。何か他に隠してるとは思っていたが、半分も残っていたのか」
「そうみたいだね。でもいつかそれも分かるでしょう」
だってずっと一緒にいるんだから。ある日ひょんなことから知ることになるだろう。今回も山本が入院したことで分かった話だし。
「だと良いがな」
「峰子さん」
「なんだ、改まって。気味が悪いな。給料は上げないぞ」
「そうじゃなくて……、ありがとうございました」
「どういたしまして」
――
「そんなことが……」
もう2人伝えておきたかった人がいた。1人はとても優しくて、可愛らしくて、時々ブラックな一面を見せるけど、私が未来に来たときの初めての友達。そしていつか来る未来のライバル。
「ほんっと水臭いわよね、アンタ。でも今回はちゃんと言ってくれたから良しとしますかね」
1人は酒乱で、元厨二病患者で、こう君から色々奪ったにっくき相手。でも10年間待っててくれた、私の親友。
「ゴメンね! でもこれは私から伝えたかった。せめて自分の口から、さ!! 殴るなり蹴るなり好きにして頂戴!!」
土下座なんていつ振りかな。けど心からの土下座って生まれて初めてかもしれない。
「美桜さん、顔を上げてください」
柔らかな伊織ちゃんの声を聞いて顔を上げる――
「「せーの!!」」
パシンッ!!
「いった!!」
何をされたか分からなかった。気付いたら頭に衝撃が……。
「良しとするとは言ったけど、何もしないなんか言ってないわよ」
「そうですよ美桜さん。これは僕たちに黙っていた罰と思ってください!!」
2人はせーのと息を合わせて、
「「友達なんだから信用しなさい!!」」
戒めの一撃。息の合った二人のハリセン攻撃を食らってしまう。
「ひぃ……、冗談抜きで痛いんだけど……」
「アタシらが受けたショックはもっと大きかったつーの!!」
「これに懲りたら、もう黙って1人で背負い込まないことですね。次同じことをしたら、」
「南雲家を戦車で破壊します」
冗談だよね、目がマジだけど手の込んだ冗談だよね!?
「スンマセン」
悲しき哉、私たち姉弟は彼女たちに一生頭が上がらないのかもしれない。
――
僕たち姉弟は仲がいい。勿論それは男女の仲ではなくて、姉と弟の絆って意味だ。少なくとも僕はそう思う。姉さんも同じ気持ちだろうけど、あの人の好意はベクトルがちっとばかり違うからな、用心しないとひどい目にあう。
どうしようもなくブラコンで、馬鹿みたいな発明を作っては周りを混乱させて、不可能を御姉ちゃんだからって理由で可能にして、全部自分で背負い込んでかえって周りを心配させる迷惑な姉だけど、
「姉さん」
「どったの? 急に神妙な顔をして」
「姉さんの弟でよかったよ」
「なによそれ、最終回みたいなこと言わないでよ。これから、でしょ?」
「それもそうだね」
「変なこう君」
それでも誰よりも友達思いで、歌が上手くて、僕のことを一心不乱に愛して、生きるために時を越えてきた僕の自慢の姉さんだ。
「ねえ、こう君」
「なに?」
「私もこう君のお姉ちゃんでよかったよ」
これからも、僕らの物語は続いていく。
第一部 姉が過去からやって来た。Fin
次回予告!!
航「過去から来た姉の真意。それは相変わらず謎なままだけど、僕らの絆はより深まった」
美桜「子供は、子供は何人ほしい?」
美桜「私は3人ほしいな。女の子がふたり、男の子がひとりね。名前はこう君が決めてあげて。私ってあんまりネーミングセンスないから。えへへ、どっちに似てると思う? 私とこう君の子供だったら、きっと男の子でも女の子でも可愛いよね。それで(ry」
航「予告しろよ!!」
伊織「それじゃあ代わりに僕が。やってくるは体育大会と学園祭、順調に行くかパワフルガイミサキ、そしてその後に待ち受ける香取会長プレゼンツのとんでも企画とは?」
理名「楽しい学園生活を送るにはやっぱイベントよね! 今年のクリスマスにふさわしいハリケーン級のイベントが待っているわよ!」
理名「そして新キャラも登場!?」
伊織「これ以上増やしても仕方ないと思うのは僕だけでしょうか?」
峰子「もちろん、エロゲもあるぞ」
全員「ねーよ」
ゴリヴォーグ「そんなこんなで『あねから』を今後もよろしくお願いします!!」
全員「作者は帰れ」