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昨日までの僕、そして今日からの僕~Hop Step Jump~

「夜遅くにゴメン、今電話大丈夫か?」

 あたりは静まり日も変わろうという時間に、生徒に電話をかける教師……、我ながら最低にクレイジーなことをする。

「何ですかこんな時間に……、別に良いですよ、ちょうどこちらも眠れずにいましたから」

 夜遅いこともあるのかな、電話越しの彼女の声色は、ムスッと具合が通常の3割増だ。

「それは良かった。僕との電話が切れる頃には、不眠の種は取り除かれてるさ」

 自分で言ってて、胡散臭いパワーアイテムの通販みたいだなぁ、と思った。どうでもいいけど、パワーストーン買ったら札束風呂って出来るのかね? あれ相当な数の諭吉(もしくは英夫か一葉)がいるってトレビアーナの泉でやってた気がする。

「はぁ……、じゃあその不眠の種の取り除き方とやらを教えてくださいよ」

 んじゃ行きますかね。

「その前に……、本郷猛は改造人間なんだ、知ってた?」

 ホップ、

「知ってますよ、それがどうかしましたか? でも私は平成ライダー派ですけど。個人的には555が一番好きですね」

 僕はアギトが一番好きだ。はい、次。

「じゃあ……、さとう珠緒ってヒーロー戦隊出身って知ってる?」

 ステップ、

「なんですか、特撮クイズでもして暇をつぶす気ですか? 知ってますよ、私はまだ生まれてなかったんですが、上の兄が好きでしたし」

 僕らの世代ならジュウレンジャーとかカクレンジャーだな。はい、このままラストへ。

「最後に……美桜のことだけど……」

 ジャ……

「知りません!」

 おっと、即答かよ! 三段跳び質問作戦失敗!!

「まだ全部言ってないんだけどな……、まあいいや、本当になにも知らない?」

 こっから先は畳み掛けるか。侵し掠めること火の如しだっけ?

「知りませんよ……、てか私のこと信じてくれたんじゃないですか?」


「いやぁ、誠に恥ずかしいんだけどさ、さっきTVでやってたドクトリーヌほむらって人の占いでね、山本という名字の人から騙されてるって出てさ、まさかとは思うけどホントに僕のこと騙してなんかないよね?」


「何ですかそのピンポイントな占いは!! 放課後言ったことが全てです。てか占いなんか信じるんですね。結構意外……」


「ははっ、だよね。占いなんかを信じて大事な生徒を疑ってかかるなんて、僕ってホント馬鹿、教師失格だよな……、あぁ鬱だ、死のう……。最後に山本と話せてよかったよ。じゃあな」


「ちょっ、ちょっと! なに考えとるんですか!?」


「嘘ぴょーん。冗談だよバーロー」


「この人ムカつくなぁ! 余計眠れなくなったわ! 言っていい冗談と悪い冗談があるでしょうが!」


「それじゃあ、こっちから当ててやる。そーだな、彼氏がいるってのはまず無いだろうな。美人だけどキャラが幾分か残念だからねー、あの人に見合う男ってのを見てみたいよ。他にありえそうなのは……」


「あのー、人の話し聞いてます? って聞いてませんね……」


「入院してるときに病院で見たとか?」


「え!?」


「あれ? 適当に言ったんだけど、ひょっとして正解?」


「……」


「偉い人の言葉だけど、無言は肯定と捉えていいかい?」


「……」


「なるほどね、それだけ分かっただけでも上等だよ。これで美桜に、いや姉さんに喧嘩を売れる」


「姉さん?」


「あ、ああ、こっちの話。情報ありがとな、一方的で悪かったね、それじゃあ切るよ」


「あっ、ちょっと待って先生!」


「ん? おやすみのチューかい? 全く美鈴は甘えんぼだなぁ、はっはっは」


「んなわけあるか!! それと私の名前は五十鈴!! ゴールしちゃう方じゃありません! 病院で美桜さんを見たときなんですけど、確か循環器科に入っていってました」


「循環器科? どうしてまた?」


「そこまでは知りません。私が見たのはそこまでですから」


「サンキュ、んじゃまた学校でな」


「ええ、おやすみなさい」

 あちゃー、結構電話代かかったな。後で半分ぐらい請求しといてやるか。折半だ折半。



――



「そんじゃあ、行きましょうかね」

 自分を奮い立てるように呟く。峰子さんの導き、山本の情報、これだけあれば良い。それ以上は別にいらない、後は全部アドリブさ。

「そういや、なんだかんだで喧嘩しなかったもんな僕ら」

 姉さんのブラコン行動やとんでも行動にキレたこともあるけど、それでも世間一般の姉弟と比較しても仲がいいほうだと思う。だからかな、衝突けんかなんてものは無縁だったんだ。別に争う必要も無かったし、そんなことしなくても互いに分かり合えていた、そう思ってたから。隠している何かに触れまいとしていたから。そのツケが今に来たんだ、ただそれだけのこと。でもまだ取り返せるさ、これから姉さんの苦しみも悩みも全部やわらげていけば良いんだから。

「全然分かってなかったじゃん、何言ってんだか」

 昔の分かったつもりでいた自分に呆れてしまった。いや、昨日までの僕かな。電話してたうちに日付が変わっちゃったし。さて、修学旅行なら消灯してよい子は寝る時間なんだけど、

「こう君、話があるの」

 今夜ばかしは眠らせない。あなたが隠したものを剥ぎ取るまでは。

「奇遇だね、僕も姉さんと話したいとちょうど思っていたところだ」

 今回ばかりは両想いじゃん、よかったね、姉さん。

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