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彼女がここに来た理由~Sister VS brother~

 どうして姉は過去からやって来た? 僕の教え子になりたかった? 背徳的な関係になりたかった? そんなわけねえだろ。あの姉ならありうる――そう思っていた僕は、どうしようもない馬鹿だ。なんでそんな理由で納得したんだ、なんでそのまま受け入れてたんだ。少し考えたら分かるだろう、それが建前だってことに。ホントの目的は別のところにあるって。

「もしやあれを信じていたのか? 確かに美桜ならやりかねないが、それだけで済まない理由があるはずだろ?」

 理由――わざわざ時を越えた理由。現代科学最大の限界に挑み、不可能を可能にしてまで果たしたかったもの。

「峰子さんは知っているの?」

 ちょっとばかしずれたメガネをクイッと上げ、

「何度も言わせるな」

 それは肯定の意味だろう。峰子さんは知っている、姉さんの本心を、目的を。

「さて、ヒントはやった。後は自分でどうにかすることだな」

 峰子さんは突き放すかのように言う。けど、

「ありがと、峰子さん」

 彼女の言葉には、いつも優しさが、暖かさがあった。

「あと、重要なこと忘れていた」


「なに?」


「一狩り行こうぜ」


「勝手に行けよ!!」

 シリアスで終わらせないあたり、この人らしい気がする。


――


 僕らがもし小説の主人公なら、もう少し色々事件があって、最後に真相にたどり着いて、ハッピーエンドの大団円を迎えるんだろうけど、こんなにあっさりすっ飛ばして真相にたどり着こうとするあたり、妙に王道を嫌う僕ららしいかもしれない。そんな味気ない小説誰が読むんだって感じだけどね。でも、真相にたどり着くことが終わりじゃない。

 そう、これは通過点。これからも続いていくだろう毎日へのちょっとしたアクセントに過ぎない。

「さて、今度は本音で話してくれよ、山本」

 誰に聞かれるでもなく、遠くにいる彼女に宣戦布告するようにぼやいて、携帯のボタンを押す――



――



「もしもーし、あっ、峰子さん。どうしたの?」

 さぁ寝よう! って時に電話がかかってきた。携帯電話が出来てからかな、夜遅くにも電話できるようになったよね。迷惑な話ではあるケド。10年前は固定電話の時代で、携帯電話ってのがまだ浸透してなかったしね。

「夜分遅く済まないな。なんとなく美桜の声が聞きたくなってな」

 なんとなくで寝る時間削られるの?

「えっ? なになにその恋人相手に言うセリフ? 私そっちの気ないよ?」


「私もそのつもりは無い。まりしぃがいればそれでいい」


「あっ、嫁が変わった」

 前までシャニーたんとか言ってたのに。こう君が言うように、この人は3ヶ月に一回嫁が代わるのだろうな。典型的なアニオタだと思う。といっても電車男(再放送でしていたのをなんとなく見ていた)みたいなのしか知らないから、私の凝り固まった偏見かもしれない。

「シャニーは原作最新刊でビッチッぷりを見せ付けてくれたからな、純愛至上主義の私にとってあれは黒歴史だよ」

 純愛至上主義ねえ。次元の違う相手同士の愛は純愛なのかな? 峰子さんが(強制的に)貸してくるエロゲを見てると、時折理解に苦しむような純愛が出てくるだよね。……、嘘嘘やってないよ!!

「まりしぃの魅力について小一時間伝授したいところではあるが、今日はそのために電話したんではないんでな、また後日鑑賞会を開いてやる」

 結構です。

「本題に入ろう。美桜、君にとって重大な話だ」

 電話越しからでも峰子さんの緊張は伝わる。電波と一緒に届いているみたいだ。

「航が色々嗅ぎ回っているぞ」


「へっ?」

 こう君がなんって?

「ちゃんとした理由を言ってなかったのだな、どこから怪しいと思ったかは知らないが、勘の良いあいつのことだ、近いうちに美桜の真意、目的に気付くやも知れない」


「えー、バレたの?」

 こう君に余計な心配かけさせまいと頑張ったんだけどなぁ、どこに綻びがあったのやら。

「さぁな、だがいつまでも隠し通すことができないんじゃないか?」

 隠し事は遅かれ早かれ白日の下に曝される。っていったら大げさだけど、いつまでもこう君に隠し通すことが出来ないんじゃないかとは私も感じていた。

「そうかもね。そろそろ頃合かな……」

 分かってたんだよ、お姉ちゃんだからいやでも分かっちゃうんだよ?

『姉さん、何かあった?』

 この言葉を聴いたとき、ああ、もう隠せないな。って、潮時だって分かっちゃった。

「そうか、どうするか私は関与しない。君たちの納得のいく、最良の結末を迎えてくれ」

 大げさだって。結末だなんて、まだ始まったばかりだよ。そしてこれからも終わる気は無い、終わらせない。


 この素晴らしき日々を。



 だからね、こう君。

「こう君、話があるの」


「奇遇だね、僕も姉さんと話したいとちょうど思っていたところだ」

 生まれてはじめての姉弟喧嘩、しよっか。

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