体育の秋~För Sverige i tiden~
崎校にとって秋というのは、二つの大きなイベントがある。まずは10月頭にある体育祭。もうひとつは11月にある御崎原祭。まぁ早い話学祭だ。そのような行事があるため、クラスの団結力が高まるのが、1年も半分終わったころというのも変な話だが、体育の秋、文化の秋って言うんだから秋にするのだろう。それ専用の祝日もあるし。
まぁクラスが盛り上がる時期でもある。リレーの順番やら、騎馬戦のグループ分け、学祭の出し物をどうするか、考えているときが一番正しい。それはまぁ真理だよね。
「というわけで、体育祭も学祭も、一位をとるよ!!」
HR時、クラス員全員集合の中で姉さんが黒板を叩きながら宣言する。その瞳には静かなる闘志が確実に宿っていた。
「盛り上がってるとこ悪いけど、これはクラス委員の管轄じゃないからね」
「そなの?」
何のための体育委員と文化委員だ。
「つーわけで、こっからは各委員会の仕事だな。まずは体育大会のをちゃちゃっと決めよ」
後々残すとめんどくさいからな、今のうちに片付けとこう。
「てか委員って誰だっけ?」
「ボクだよ!!」
侵害だなぁと呟き小町ちゃんが出てくる。
「えーと……、芳賀君、なんだっけ?」
仕事内容把握しておこうよ。委員を把握していなかった僕が言うのもなんだけど。
「ああ、そうそう。各種目に誰が出るか決めなきゃ。それとクラス旗だけど、これは後でもいっか」
そう言って、チョーク片手にスラスラと種目と出場人数を書き起こす。……、意外と字が上手いな。
「特に男女混合スウェーデンリレーと騎馬戦は点数が高いかな。勝ちに行くならここに強い人を入れたら良いと思う」
この2つは名物競技だからな。スウェーデンリレーは男女選抜8人1チームで体育祭でも相当盛り上がる競技だ。なんたって各クラスのエースたちが集まるからな、盛り上がらないほうがおかしいか。騎馬戦も下に3人の男子生徒、上に女子という(勿論座布団を置いてカバーするけど)、まあそういうのが好きな人からしたらご褒美に近しい競技だし、全クラス一気にするから最早バトルロワイヤルなんだよね。そのためだけに、グラウンドが無駄に広いという噂まであるぐらいだ。だって運動部が使ってもまだ余るもんな。
「リレーとか速いやつ入れたらいいんじゃないの?」
「おい、古村出ろよ。モテるぞ」
「まじっ!? んじゃ俺出ちゃおうかな?」
ざわざわとあちらこちらで、お前出ろよ、いやお前出ろよ、じゃあ俺が出るよ、お前にさせれっかよ、俺が出るよ、んじゃ俺が、どうぞどうぞと上島流交渉術を実践している。その思惑としては、出来るだけリレーには出たくないってとこだろう。特にスウェーデンは花形だし、これで勝負が決まるといっても過言ではない。そんな責任重大な競技に進ん出たいと思わないだろう、僕だって嫌だ。
その結果、
男女混合スウェーデンリレー
1 二宮小町(100M)
2 度会和久(100M)
3 不二詩雪(200M)
4 芳賀夏浩(200M)
5 南雲美桜(200M)
6 氷上睦(300M)
7 UNKNOWN(300M)
8 古村潤平(400M)
と言う、超豪華メンバーが決定した。おやっさんの娘の元気っ子に、万能選手のアルバイター、電波系転校生ゆきりん☆、陸上部所属の体育委員、時をかけた姉、血祭りまこっちゃん、そして鉄人古村。ぶっちゃけ負けが想像出来ないメンツだ。まぁ約1名本当に未知数なのが居るけど、概ね最強の布陣だろう。しかし困ったことに、あと一人決まらない。
「うーん、誰か出てくれないかなぁ? 300Mって一番長いけど、無理な距離じゃないと思うんだ」
んじゃお前が出ろよ。って声も上がりそうだから最初に言っとくと、このクラスで最もスタートダッシュが早いのが他でもない小町ちゃんだ。トップバッターで大きく差をつけ、最後は古村でキープする、こいつが僕らのやり方さ。
しかし、まだ1枠だけ決まらない。女子のアンカーである。後の3つはすんなり決まった(ゆきりんはまさかの立候補)けど、どうにもこうにも皆ここに入るのを渋る。
「誰か一緒に出ませんかー? うーん、どうしよう……、こればっかりはじゃんけん良く無いし……、南雲っち、どうしたらいい?」
そこで僕に振る!?
「どうしたらって言われてもなぁ……」
誰かめぼしい人がいないもんかねぇ……。小川は寝てるし、茅原はこういうの得意そうじゃないしな。町田はぬいぐるみと話しているし、善本はマシになったとはいえ、この大舞台に立たすのが少し心配。教師としては改善させるべく出場を促すべきかも知れないけど、本人が自分で変わろうとしているから、そのお膳立ては余計な御世話だろう。山本とかどうだろうか? けどあまり運動しているところ見たこと無いし、逃げても割りとすぐに伊織に捕獲なうされたしな……。高梨はこちらに混じろうとせずにテキストをずっとしてるし、
「まてよ?」
あれだけ走れる彼女ならいけるんじゃないか? それに拒絶したとしてもこちらには最大級の切り札がある、彼女が僕に歯向かうなんて選択肢があるわけない。
「ねえ、小町ちゃん、いやみんな。1人すっごいのがいたわ。それも古村級の逸材が」
ふっふっふ、2人を除いて全員の視線を支配した! 普段の授業もこれぐらいちゃんと聞いてくれたらよかったんだけどな……、まぁいいや。
「そうだよね? 高梨」
ざわっ、ざわっ、クラス中がざわめく中、僕に視線を合わせなかったうちの1人(もう1人は夢の世界)、高梨に語りかける。なんか僕探偵になった気分だよ。
「いったい何をおっしゃってるのやら、生憎ですが、リレーには興味ありません」
いつも通りクールに返す。その表情には感情と言うものが読み取れないが、これまでの経験上不愉快とでも思っているんじゃないかな? いつもの僕なら、ここで引き下がってたんだけど、今の僕はこれまでの僕と一緒ではないぞ。毎日新たな細胞が生まれては死に行く、そんなニュー南雲セカンド改マークツーツヴァイ航を馬鹿にするでない!
「そうそう、みんな知ってるかい? 結構有名な話なんだけど、あの鉄火面の理事長、実はアニオタなんだよね。深夜アニメを見て夜更かしするわ、二次元に嫁がいるから結婚しないとか、意外だろ? あの人アニメが始まると萌えー! とか言ってんだよ。人間皆どこかに隙が出来るもんなんだ」
「例えば、犬が大好きすぎて犬の前ではワンワン言ったり」
勿論目線は、
「ッ……、先生!!」
高梨は悔しそうな顔をして、
「リレーが……したいです……」
それ、バスケだからね。
スウェーデンチーム
1 二宮小町(100M)
2 度会和久(100M)
3 不二詩雪(200M)
4 芳賀夏浩(200M)
5 南雲美桜(200M)
6 氷上睦(300M)
7 高梨紗枝(300M)
8 古村潤平(400M)
負ける気がしない。