表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/263

ゼンマイ仕掛けのハッピーバースデー~Music Box Dancer~

 手作りオルゴール専門店メロディ工房。聞くところによると、知る人ぞ知る穴場らしい。形、ペイント、流れる曲を自由に出来るから、世界に一つだけのオルゴールを作ることが出来る。そういう店は他にも結構有るみたいだが、この周辺にはメロディ工房だけとのことだ。なるほど、確かにオルゴールというのはプレゼントにもってこいだろう。あらゆる記念日に送ることが出来るからな。老若男女オルゴールを貰って嫌がるって人は少ないんじゃないかな。

 それにあの日、姉さんが僕にくれたのもオルゴールだった。姉さんももしかしたらここで作ってもらったのかもしれない。あのオルゴールの造形というか飾りは多分姉さんが作ったものだろう。

「伊織、姉さんへのプレゼント決めたよ。オルゴールを作るよ」

「そうですか。それは良かったです。僕も紹介したかいが有りましたよ」

 僕は決意を新たにメロディ工房の中へ入った。


――




 中へ入ると初老の男性が迎えてくれた。

「はいいらっしゃい。おや麻生の嬢ちゃんか。隣の男は彼氏かい?」

 ちょ、いきなり何を言うんだこの爺さんは!!

「違います!」

「そうですよ」

 って伊織ぃぃ!!何デタラメ言ってんの!

「ほほう、遂に伊織ちゃんも彼氏が出来たか……、時間を感じるのう」

 爺さんも黄昏てるとこ水を差すようで悪いんすけどこれ嘘ですからね!

「なんじゃ。嘘なのか」

 はい。嘘です。

「ゴメンなさいね。神戸さんがいつも彼氏は出来たか?って聞いてくるからつい見栄を張っちゃいました」

 伊織もそんな見栄を張らないでください。お前ならいつでも出来るだろうに。

「良いなあ。って思う人がなかなか居ないんですよ。だから無理して作る必要もないんです。けど私先生なら有りだと思いますよ?」

 爆弾投下されました。

「伊織さん、それは一体どのような意味でしょうか?」

「そのままの意味で捉えてもらって構いませんよ?」

 意味深に笑いながら言う。ホントどこまで本気なんだよ?

「さあ、どうでしょうね?」

「お前らさっさと付き合っちゃえよ」

 不毛?なやりとりは神戸さんとかいう店長が口を出すまで続いた。



――


「ほう、伊織ちゃんの担任教師とな」

「正確に言うと、去年の担任ですね」

「ああ、あの新任教師とやらか。伊織ちゃんから色々話は聞いておったぞ」

 どんな話を聞いていたか聞くのはやめよう。何故か嫌な予感しかしない。

「お姉さんの誕生日プレゼントに手作りオルゴールとな。先生もなかなかにお目が高い。伊織ちゃんの紹介ということで今回は割引価格で如何でしょう」

「良いんですか? オルゴールなんて結構な値段すると思っていたのに」

「こう言うときは爺の好意に甘えるべきですぞ。ざっと見積もってこんな物でしょう」

 今時珍しく算盤を使って店長は計算を始める。パチンパチンという音が耳に心地よく、懐かしい思い出が喚起される。

 学童の懐かし遊びクラブを思い出すな。そういやあの時の二宮のおやっさん面白かったなあ。




「願いましては、えーと、なんだ? これをこうして、でもってこれを……、あーもう分かるかああ! てめえら! 算盤は終わりだ! こんな俺っちに優しくない物なんかやってられるか!! ベーゴマ持って外に出ろてめえら。俺っちが100人切りしてやんよ。これでも昔はコマドリの徹って呼ばれてたんだよ」


 おやっさん元気してっかなあ。


「こちらが見積書になりますな」

 懐かしむのを中断し、見積書に目を通す。なるほど、この値段なら誕生日プレゼントとしてはちょうど良いぐらいかな。

「分かりました。それじゃあ店長さん、お願い致します」

 店長の後に続いて僕たちは工房の中に入る。

「さて南雲先生、手作りオルゴールというと自分で曲を選べるのが一番の魅力でしょう。当工房には邦楽洋楽クラシック等合わして2000曲は有りますが、当然無い曲もあります。その場合、新しく発注する形になるので時間が一週間から二週間程かかりますし、値段もその分あがります。参考程度にカタログに目をお通しください」

 カタログを渡される。それでも2000曲も網羅しているのは凄くないか?

「この工房って歴史が長いんです。毎年毎年ヒットチャートは変わりますから、邦楽だったらみんなが知ってる曲なら有ると思いますよ」 伊織が僕の疑問に解答をくれた。ニーズに応え続けて早何年ってわけね。

 カタログに目を通してみる。果たして、お目当ての曲はあるのだろうか。



――



「ほう、曲が決まりましたか。それでは次はメロディを閉じこめる箱を作りましょうか。基となる箱は色々ご用意しておりますが、先生方もしその他のデザインをご所望なら、少々時間がかかりますが1から彫る形になりますな」

「少々ってのはどれぐらいかかるのですか?」

「早くとも3ヶ月はかかりますな。一朝一夕で出来るものじゃありませんからね。伊織ちゃんだって半年前からお母様のプレゼント用にと此方に通ってますからね」

 それは時間がかかりすぎる!! ここにあるデザインでいこう。

「にしてもオルゴールってのは箱型ばっかと思っていたけど、随分とバリエーションが有るんだな」

 豊富すぎる品揃えに心から感心する。シンプルな木箱は勿論のこと、スノーマンの形をしていたり、人形の形をしていたりと様々だ。本当にあの価格で大丈夫なんだろうか。今更ながら工房の経済状況が心配になってきた。



――




「デザインはそれに決まりましたか。これだったら2日で出来るでしょう。先生は意外とシスコンの気があるように見える」

 ほっとけ。姉さんにあげる用だから少しばかりあの人が喜ぶ形がが良いんだよ。


 にしてもあのデザインで2日ってめちゃくちゃ仕事早くないか?


「うちは早く丁寧にを心がけておりますので。それに元々ある形をベースにするのでそこまで時間はかからないでしょう。一つは既にあるデザインをそのまま使えますから」

 余程自信があるのだろう。それでも半年かかるオルゴールってあいつどんなのを作ったんだ?




「最後にですが、オルゴールにメッセージを彫りましょう。例えば誕生日、例えばイニシャルという風にその人だけのオルゴールが完成です。結婚式とかで人気があるんですよ。なんでも永遠を誓うオルゴールみたいですので」

 一昔前の生○神社みたいなことを仰る。

「メッセージですか。それならこう彫ってください」

Welcome to THE furture and HAPPY BIRTHDAY TO MIO!! By K.N 2011 4/6

「先生、フューチャーの綴り間違えてますよ」



 Furture×→Future○


 英語は苦手なんだよ……。




「さて、やることは決まりましたな。それでは私は今から作りますので、2日後の夕方頃に御引き取りに来てください。きっと満足のいくオルゴールに仕上がっていることでしょう」


 本当はオルゴールを自分の手で作ってみたかったが、不幸にも仕事が立て込んでいるのだ。入学式前と言うこともあって教師陣は忙しいし、明日からまた学校が始まる。他の学校にしてみたら春休み短すぎないかと思うかもしれないが、春休みが始まるのが早いこともあり実際は短すぎることもない。

 それに始業式には自分のクラスがまだ無くとも出なきゃいけないしな。

 そういうことで今回は神戸さんに制作の殆どを任せる形になってしまったのだ。

「神戸さん、よろしくお願い致します」

「ええ、先生も忘れずに取りに来てください」

「先生、そろそろ帰りましょうか。本城も待ちくたびれているでしょうし」

 多分あの変態執事はお嬢様フォルダを見て悦に浸ってるでしょうよ。




「それでは先生、また明日お会いしましょう」

「ああ、伊織もな。気を付けて帰れよ」

 運転席の男を見て言う。

「南雲様、それは一体どのような意味でしょうか?」

「そのままの意味ですよ」

 お嬢様大好き執事はこちらを睨んで言う。嫌われちゃったかな。

「まったく、いくらお嬢様に気に入られているからって調子に乗らないように。後南雲様、くれぐれもお嬢様に手を出さないように。場合によっては3枚に卸しますよ」


 殺人予告食らった!? 通報して良いかな!?

「本城!!」

「お嬢様に悪い虫が付いてしまえば旦那様と奥様に示しがつきません。危害を加える可能性のある者は排除しなければならないのです」

「私は先生よりもむしろ本城の方が危ないと思っているから!」

 パキン!

 あっ、ハートの壊れる音がした。

「お嬢様に危ないって言われた、お嬢様に危ないって言われた、お嬢様に危ないって言われた、お嬢様に危ないって言われた、お嬢様に危ないって言われた、お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様……」

 怖っ! この人四十こえてまさかのヤンデレだよ!

「ああもう! 今日は私が本城のために料理してあげるから!」

「我が世の春が来たああああ!!」

 どっかの御大将みたいなことを良いながら、フルパワー充電完了したお嬢様大好き執事は物凄いスピードで去っていった。

 あっ、スピード違反で捕まってやんの。

 さて、僕も帰ろう。姉さんがご飯を作って待っていることだろう。



「お帰りこう君! ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・ば・た?」

 この人ぜってーパ○プロやってたな……。



――



「「御馳走様でした!」」

 本日もおいしゅう御座いました。皿洗いは僕がやるよ。そうだ、姉さんに言っておかないと。


「姉さん、入学式の日だけどさ、峰子さんちでパーティーやるからね」

「パーティー? 私の入学祝いでもするの?」

 素で忘れてんのかな? その日は何の日だっての。

「入学祝いもあるっちゃあるけど、姉さんにとってもっと特別な日だよ」

「特別な日……? こう君記念日?」

 そんな記念日初めて聞きました。

「こう君が初めて私のことをお姉ちゃんって言ってくれた日だよ。それにこう君が指しゃぶりをやめた日、自転車に補助輪抜きで初めて乗れた日、それからそれから」

 よくそんなの覚えてんなおい!

「初めて誕生日プレゼントをくれた日! ってあれ? 私の誕生日じゃん!」

「そうですよ。あなたの16歳の誕生日です。法的に言うと近親間じゃなけりゃ結婚できる年齢になります」


 僕の誕生日を忘れるわけなんかないとか言いつつ、自分の誕生日は忘れるなんて本末転倒だろ。本末転倒って使い方違う気がするけど。


「こう君と結婚できるの!?」

「だから近親間は無理だっつうの!」


「愛が有れば法律なんか飾りだよ!!」

「僕と姉さんの間に愛の意味に差違があるよね!?」



 そんなこんなで、もうすぐ姉も高校生。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ