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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
南雲先生の長い休暇
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千の風になって~Precious treasure~

「父さん、母さん、あのさ。話すことがあるんだ、そのなんていうか信じてくれるか分からないけど、姉さんが帰ってきたんだ。しかも僕の生徒としてさ。笑えるよね、おかげでスリリングな毎日を送っているよ。このぁ饅頭2人とも好きだったよね、おいておくから仲良く食べなよ? 取り合って喧嘩すると思ったから偶数分用意しといたよ」

 父と母が眠るお墓の前で、この世にいもしない2人に語りかけるように言う。そんなこといっても後ろにいる姉さんしか聴いてはいないんだけど、この声が届くといいな、なんて思いながら。

「お父さん、お母さん、久しぶりって言えばいいのかな? ゴメンね、10年間すっぽかしちゃって。でも10年前のままだからさ、若々しくていいじゃんか。なるだけそっちに行かないようにしたいからさ、我侭だけどもう少し見守ってくれるかな」

 すーっと風が吹く。お墓に吹く風にしては妙に優しくて、どこか懐かしく感じた。まるで父さんと母さんが風になって僕らを見守ってくれているみたいだった。そんなことを思うと頭の中で歌が流れてきた。響きわたるようなテノールで、力強く優しく。そんな風に上手く歌えたら、僕もカラオケでは恥をかかなかったかも知れない。


 さて、僕らは盆を使って、父さんと母さんが眠る町へきていた。僕らが今住む町からは離れたところにあり、そこで今も仲睦まじく暮らしているのだろう。この町は2人が生まれ育った縁の町。毎年盆の時期にはこの町にきて墓参りをするのが恒例行事となっていた。今年は姉さんも帰ってきたので、久しぶりに二人でお墓参りに来たのだった。


「さてと、墓参りも終わったし、戻るとするかね」

 毎年小さな民宿に泊りがけで行っている。別に泊まる必要なんかも無いんだけど、強いて理由を言うならば、ただなんとなくだ。理由にすらなっちゃいない。

「こう君、今日広場で盆踊り大会があるんだって」

 風が運んできたチラシを見て言う。そういやこの時期盆踊り大会やってたかな。

「それがどうしたの?」


「行かない? どうせ暇でしょ?」

 まあ特にやることは無い。ご飯を食べてお風呂に浸かって寝るだけだ。

「まぁ良いけど。暇つぶしにはちょうど良いか」

 言ってはみたけど、都合よく浴衣なんか持ってないぞ……、と思ったけど、この人ならどこかから調達するのも、赤子の手を捻るより簡単だろう。ただどうやった? って聞いても伝家の宝刀、お姉ちゃん最強説を使うに違いない。


――


 ピーヒャラピ-ヒャラパッパパラパー

 国民的さくら家のオープニングで有名な曲に合わせてお爺ちゃんお婆ちゃん子供たちが櫓を中心に踊りながら回る。僕の住む町の盆踊り大会は年々参加者が減ってきているが、この盆踊り大会はそれなりに人が来ているのだろうか。自然と輪もどんどん大きくなってゆく。。

「そーいやずっと前に父さんたちに連れてこられたことあったっけな」

 踊っている子供たちを見て、昔のことをふと思い出す。まだ僕が小学生に上がる前、一度だけ盆踊り大会に出たことがあった。ウルトラマンのお面を被り、買ってもらったりんご飴を落としては泣き、それを見ていた姉さんが少ない自分の御小遣いを削って僕に買ってくれた。

『はい! こう君! 泣いちゃダメ!』

 あのころの僕にとって姉さんは、とても優しいおねえちゃんだった。発明品を壊して親に怒られて物置に閉じ込められたときも、姉さんは2人の目を盗んで僕を助けに来てくれた。

いつの間にか御仕置き部屋だった物置は、姉さんが発明を始めだしたころからラボへと代わっていった。

「見て見てこう君! イナバウアー!!」

 後ろつかえてるよ、姉さん。


――



 トントンカンカントンチンカン。思わず踊り出したくなるような祭囃子をBGMに僕は横になってだらんとしていた。

「……」


「ん?」

 ふと体をゆすられる。見ると幼稚園児ぐらいの子供がいた。何も話すでなく、ジーとこっちを見ている。そのつぶらな瞳から何かを訴えかけているように感じたけど、何か言ってくれないことには伝わらない。

「どうした? 僕に何か用?」


「……」

 返事はない。ただの幼稚園児のようだ。能面がくっついたみたいに、表情を少しも変えない。クールキャラを目指すには早いんじゃないか?

「お父さんとお母さんは? 迷子になったらなら一緒に探そうか?」

 結構な人がいるから迷子になりそうな気もしないでもない。

「違う……」

 ってことは1人で来たのかな。

「んー? 何だろう」

 色々考えあぐねていると、

「これ……」

 小さな手のひらを僕に見せる。

「300円? 僕にくれるの?」


「ううん……」

 今のは否定だよね。齢10も満たない相手からカツアゲなんか出来るもんか。いやそもそも犯罪じゃないか!

「赤いの……」

 消え入るような声で言う。

「赤い?」

「うん」

 漸く肯定してくれたけど、聞き返しただけだからちょっと違う。

「赤いものが欲しいの?」


「うん」

 赤いものって言われてもなぁ……、

「ドラキュラなんてオチはないよね?」


「?」

 ドラキュラの意味が分からないみたいだ。どこかの学校の怪談みたく、赤い紙と答えたら血で真っ赤になるみたいな展開にはならなさそうだ。

「300円で買えるものかな……、探しに行くかい?」


「うん、お兄ちゃん優しいね」

 ちょっとだけ能面が崩れた、そんな気がした。



――



「赤と言えばこれだよな……」

 提灯の光が反射する小さな長方形の海で、金魚達が泳いでいる。縁日の赤いもので真っ先に思いついたのが、金魚であった。しかし金魚掬いとは言うけど、掬われなかった金魚に救いはあるのだろうか。何も考えず300円で掬うことが本当の救いなのか。妙に哲学的に考えてしまう。

「どう? これかな?」

 プカプカと泳ぐ金魚達をマジマジとみて、

「違う……」

 と一言。

「ねぇ、赤い以外に特徴はないかな?」

 少々情報が足りないな。ぶっちゃける虱潰しに探したらいけそうな気がしないでもないけど、気分の問題だけど、与えられた手がかりだけで当てたかった。総当たりなんてスマートじゃないやい。

「特徴?」

 おっと。自分の知識で話してしまった。この歳では特徴って言葉を知らないよな。

「どういえば良いかな……、例えば丸いとか大きいとか、オノマトペでも可」

 オノマトペなんか分からんだろ……。言って気付く。

「……丸くてキラキラしてる」

 思い出しつつあるみたいだね。丸くてキラキラしてる……、それ300円でホントに買えるのか?



――



「これなんてどうでっしゃろ?」

 女の子がつけそうなアクセサリー(のバッタもん)を300円というお手ごろ価格でご奉仕している出店に連れて行く。

「これとかキラキラしてるよ?」

 赤い宝石(擬き)を指す。

「……」

 品定めするように見て、

「これも違う……」

 否定されちゃいました。これで二連敗。後一回間違えたら地獄に魂を連れて行かれる……、ことはないよね。

「赤くて丸くてキラキラしてる……、何だろ」

 また振り出しに戻ってしまった。


――


「こう君! なーにしてんの?」

 盆踊りも何周かしてきた頃、姉さんがこちらには知ってくる。

「あら、どったのその子。まさか誘拐!? こう君はロリの方が好きなのかああああ!!」

 スピーカーから聞こえる祭囃子よりも大きな声。祭の中心でロリを叫んだ姉。最悪だ!! 何事ぞと周りの人の視線が集まる。

「ばっ、違うよ!! 違いますよ!! そんな汚物を見るような目で見ないでくださーい!」


「嘘だよ! こう君生徒に手を出してるじゃん!! お巡りさーん! 誘拐犯でーす!」

 あーもう色々と不幸だよっ! 幼女と姉の手を取り、その場から逃げるように駈けだす。


――


「赤くて丸くてキラキラしたものねぇ……」

 担任をロリコン呼ばわりする姉さんに事情を説明し、幼女の求めるものを探すのを手伝ってもらう。

「こう君、本当に分からないの?」

 姉さんは何か分かったみたいな顔をした後、僕をジト目で見る。

「分からないから聞いたんだよ」


「まっ、良いけどね。ちょっと残念ね」

 溜息をつきながら言う。なんか地雷践んだ?

「おいで、案内してあげる」

 幼女の手を取る姉さんは、それはもう本当に優しい顔をしていた。


――


「君の探しているもの、それはズバリこれだよ!!」


 赤くて、丸くて、キラキラしている。も一つオマケにつけるなら――甘いもの。

 ははっ。だから姉さんはあんなことを言ったんだ。



『あれが欲しい!』


『あれじゃ分からんよ』


『えっとね、赤くて丸くてキラキラして、後甘いもの!』


『ぐっ、ナゾナゾか?』


『お父さん、名前分からないだけだと思うけど……。平仮名で書けばいいのに。こう君ちょっと待ってて、買いに行ってあげる。ってことでお父さん、お小遣い頂戴』


『ぬう……』


『300円か、ケチくさいなぁ』




『はい! 買ってきたよ! 赤くて丸くてキラキラして甘いもの、』



『リンゴ飴を!』



 なんだ、ずっと前から分かってたんじゃないか。いつの間にか忘れていた大切な思い出。

「どう? お姉ちゃん間違ってる?」


「ううん、これ……」

 正解を当てたからかな、能面が剥がれて、年相応の笑顔を見せる。姉さんは幼女から300円を貰うと、

「おじちゃん、リンゴ飴3つ頂戴!」

 そう言ってリンゴ飴を買う。


「はいどうぞ!」

 リンゴ飴をおっちゃんから貰って、幼女にあげる。


「ありがとう」

 にっこりと笑って、

「わっ!」

「きゃっ!」

 強い風が吹き、瞬きしてしまうと、

「あれ?」

 幼女はいなくなっていた。まるで最初からいなかったかのように。

「……」

「……」

 あたりを見渡したけど、彼女の姿は見あたらない。


「まあお盆だしね」

「お盆だしね」


 今日ぐらいリンゴ飴を買ったって良いか。

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