ようこそワンダーランドへ~Jet coaster love~
『留守』
『スリル』
『ルビー』
『ビール』
『ループ』
『プール』
『ルアー』
『アイドル』
『る、る、ってイライラするっ! さっきからルしか出てこないじゃん!! 反則だよ反則! ノーカンだよノーカン!』
『あっ、ンって言った。へへっ、僕の勝ちだね』
『続いてたの!?』
――
「いくらやることがないからって言っても、しりとりは最終手段だよ……」
「まあいいじゃん。2人ともまだ距離を掴みきれてないんだよ」
姉さんは2人を見守る聖母みたいに達観したことを言う。言ってることは立派なんだけど、
「膝の上に座らないでくれる? ここ公共の乗り物なんだけど」
「えへへへ……」
トイレの神様もあれだけど、膝の上の女神様も良い迷惑だ。
電車の中、目的の遊園地に着くまでの時間はどうしても暇になる。この時間で互いに仲良くなるきっかけを掴めたら良いんだけど、この2人相当奥手でして、互いに隣同士座ると、素直におしゃべりできないみたいだ。これまでは師弟関係なのに、まあ何らかの事情でその一線を越えちゃったみたいだ。何があったかは知らないけど、夏休みの間に何らかの進展が有っての今日だろう。少なくとも一学期の間は、オドオドイジイジ男の娘の西邑を見て、豪快漢女の小町ちゃんがキレて鍛え直すというある種のサドとマゾの関係だった。出来れば痛みによる快楽の伴わないノーマルな恋愛をして欲しい。先生からのお願いだよ。
――
『到着!』
『わぁ……』
本日の目的地、麻生ワンダーランドにやってくる。って麻生だと?
「間違いなく伊織ちゃんとこのだよね……」
最近麻生の名がつくものは全て伊織を擁する麻生一族のものではないかと考えてしまう。遊園地まで麻生ブランドとは。
『さぁ行くよ!! ボク並ぶの嫌いだからね!』
『あっ、ちょっと待ってよぉ! ってチケット忘れてるよおおおお!』
いやー、2人ともホント初々しいわ。微笑ましいぐらいだよ。どうかこのまま僕らみたいに擦れることなく育って欲しいな。
「んじゃ、私達も行こっか!」
「うわっ!?」
恋人みたいに腕に抱きつく。その重さ(失礼だ)に引き寄せられるまま地球とぶつかりそうになったけど、なんとか持ち直す。
「太った?」
ゲンコツ!!
――
『遊園地と言えば、ジェットコースター!!』
『ええっ!? いきなり!?』
遊園地の定番、ジェットコースター。確かにいきなり行くのはきつくないか?
『当然だよ! 何個あると思ってんのさ、全部回るんだからのんびりしてらんないよ!』
『わぁ!!』
問答無用といったように腕を取って走り出す。
「元気だねー。んじゃ姉さんも行こう……、ってどうしたの? 顔色悪いけど……」
おまけにブルブル震えている。体調悪いのか?
「いやぁ、ジェットコースターはねぇ、ほら、身長足りないし」
ごめん、もう読めた。
「姉さんで足りないならジェットコースターに乗る人が一気に減るよ」
「わ、私は遠慮しとこうかなぁ……、おばあちゃんの遺言でジェットコースターに乗るなっていわれてるのよ!」
聞いたことないんだけど、そんなピンポイントな遺言。
「それなら僕も乗っちゃダメなのかな……。ってんなわけあるかぁ!!」
「ピッ!」
小鳥みたいな悲鳴を上げる。
「ようはジェットコースターが怖いんでしょ……。普通にそう言えば良いのに」
「こう君……」
天使のような、
「乗ろうか」
悪魔の笑顔!
――
『わああああ!!』
『うおおお!!』
『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ、生まれてきてゴメンナサイ、こう君のペットボトルで間接キスしてゴメンナサイ、こう君がいない間にベッドクンカクンカしてゴメンナサイ、タイムスリップしてゴメンナサイ、ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……』
『きゃああああ!!』
――
『気持ちよかったー! はい次行こう!』
『休ませて……』
「こう君……」
「姉さん、さっきの詳しく教えてくれるかなぁ?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
――
『まだまだ行くよー!!』
『……死ぬ……』
それからもジェットコースター縛りで4つほど乗る。どういうわけか乗れば乗るほど子供みたいに(現在進行形で子供ではあるけど)異常に元気になる小町ちゃんと、小町ちゃんに魂を吸い取られていくみたいに力を無くしていく西邑。まだ昼前と言うのに可哀想なぐらいのお疲れっぷりだった。
「言い方悪いけど、絶倫ってやつだよね……」
「……イヤラシいよこう君」
同じく力のない姉さん。水もダメ、高いところもダメって意外とこの人弱点が多いよな。そう言うのが好きな人から見るとギャップ萌という便利な言葉が生まれたりするんだろう。
『でもおなか空いたなぁ……、西邑っちお昼にするよ!!』
『ほっ……』
「お昼だとさ。少しは休めるんじゃない?」
「はは、ようやく安らぎが訪れる……」
真っ白に燃え尽きた姉に少しずつ色が戻る。
「んじゃ僕らも行こうぜ」
――
『じゃーん!! 御弁当を作ってきました!!』
『ええっ!? 作ってくれたの!?』
『なんだよー、その意外そうなリアクションはー。僕だって料理ぐらいするよ!』
レストランに入らずに、休憩エリアで昼食をとる。小町ちゃんは女の子らしく、お弁当を作ってきたみたいだ。
「これ完璧に出来てるよね」
少なくとも眼中に無い相手にお弁当は作らないはずだ。
「小町ちゃん、尽くすね……」
おやっさん、あんたの娘はホントいい女に成長したよ。
「こう君、こう君。実は私も作ってきたり」
「おっ! そいつは嬉しいなぁ!」
姉さんもお弁当を作ってくれたらしい。姉さんの手料理はその辺のレストランと比べても大差ないおい
しさを持つ。
「どーだい! サーマルキープ弁当箱でいつでもどこでも出来立てのおいしさだよ!」
朝に作ったんだろうけど、湯気が出るぐらいのあったかさを持つ。つーかこれも自作なんだろうな、ある意味究極のエコだ。流石姉さん、特許申請すれば大金持ちになれるのに。
「あー、特許とかそう言うのほかの人に委譲してるからね。私はうち発明費用にちょびっとだけ頂いて、後は孤児院だったり金銭的に苦しんでいる施設に特許をあげてるからさ」
実にもったいない……、と心の中で思ったけど、なんか浅ましい気がするので止めた。姉さんの発明品なんだから、姉さんがしたいようにすれば良いしさ。でも出来ればそのうち幾分かを家計に計上して欲しいと思ったり。
『どーかな……』
『おいしいよ! 特にこの卵焼きが絶妙の甘さで美味しいよ!』
『……それ母ちゃんが作ったんだんだけどな……』
まさかの地雷!?
『え? あ、ああ、ははは……』
気まずい時間が流れる。
『なーんちゃって!! ゴメンね、ちょっと困った顔見たくてね……、全部ボクが作ったんだよ』
遠目から見ると、何か面白いな。うろたえたり、笑ったり、見てて微笑ましい。
『ささっ! 他のも食べて食べて! 特にこのコロッケが自慢だよ!』
楽しそうだな、あいつら。……、おやっさんの邪魔がなくてよかったな。警察グッジョブ。