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突撃!!南雲の晩御飯~Apron of LOVE~

 数ヶ月前結婚を報告した友人はこういった。

「俺さあ、彼女がメイド喫茶でバイトしてたからかもしんねえけどエプロンのよさに目覚めたんだよねー。毎朝それ着て起こしてもらうだけでもうヤベエってのなんのって。ホントにもうミホチンが俺の天使過ぎてヤバイってレベルじゃないぜ。ってなんで南雲合掌してるわけ?」

 幸せボケの結果なのか知らないが、日本語の文法として成り立っていないぞ。結婚は人を馬鹿にもさせるのか。オソロシヤオソロシヤ。

「結婚という魔物にお前の脳は汚染されたのだなって思うとさ、あの優しかった友人はもうこの世にはいないと急に寂寞の思いが募ってさ、今僕があいつのために出来ることは何かと考えた結果行き着いた先が合掌だ。南ー無ー」

「てめー勝手に殺すんじゃねえ!! 後お前も人んこと言えないぐらいに日本語おかしいぞ? そんなんで良く教員になれたな」

「フン、甘いぞ、甘すぎるぞ!! 縁故就職なめてもらっちゃ困りますなぁ。所詮この世はコネが命なんだよ! 至らないところは日々勉強を重ねていきゃあ良いんだよ。それと日本語がおかしいのはあれだよ、お前が結婚するという誰得超展開についていけてないだけだって。周りを見ろ。お前の爆弾発言によって全員沈黙しているだろ?」

「そんなに意外かよ!?」

「だからこそ皆言葉を失ってるんだっての。それとさっきまでお前は散々惚気ていたけど、残念でしたあ! 誰一人聞いていませんでしたあ! ホント見えない誰かにひたすら惚気るお前の姿は実に滑稽だったよ。周りが目に見えてないもんなぁ、僕がずっと携帯で録画していたのにも気付いてなかったし」

「ちょ、南雲!! 消しやがれ!! 恥ずかしいだろうが!」

「そうだなあ、これを今度の高校見学会で使おうか。中学生相手に絹の世界史ってテーマで授業するのも悪くなさそうだ!! それならエプロンて言葉も自然と使えるな!」

「南雲てめー!!」

「でも流石にエ裸プロンの件は思春期真っ盛りの厨房相手にゃ刺激的過ぎっかね。その後もひたすら誰得な展開ばっかだし、編集しちゃおかな!! 俺さあ、メイド喫茶でバイトしてたからかしんねえけど天使のよさに目覚めたんだよねー。毎朝俺のベルを……」

「お願いだからやめてくれー!!」



――

 


 まあその時はエプロンのよさを語られたところでまったく興味を惹かれなかったが、

「こう君、どう? エプロン似合う? 新婚さんみたいでしょ? といってもこれ私が小学校のときに作ったやつなんだけどさ、悲しいかなあのころから身長ほとんど伸びていないから今でも体にフィットしちゃうのよ。胸部にだけ余分な脂肪がいっちゃうんだけどね」

 そう言って悪戯に笑う姉の姿はとても可憐だった。メイド服を着ていたときにも思ったが、基本的にこの人は何を着ても似合うのかもしれない。身内びいきもあるかもしれないがなんたって姉は素材が良いんだ。消防士の服だって見事に着こなすだろう。逆にこの人に似合わない服を探すほうが難しいと思う。だから僕は素直になり、

「ヤバイくらい似合ってるよ」

 どうも僕も脳内が汚染されたようだ。

「ホント!? 嬉しいなあ。それじゃあさ、一回やってみたかったんだけど」

 姉はこちらを向いて、バレリーナのようにエプロンの両端を持ち

「おかえりなさい。ねえあなた? ご飯にする? お風呂にする? それとも」

 これはまさかっ、新婚夫婦にありがちなあれじゃないのかっ! その初の相手(2人も3人も要らないよね。それって×つくし)は姉というのが残念だがここは乗ってあげよう。

「あたる?」

 ……意味が分からないです。

「やだなー、こう君、お姉ちゃんの渾身のギャグをスルーしちゃうなんて、私はそんな子に育てた覚えはありません!!」

 そりゃないだろなー。逆に姉さんのボケに逐一突っ込むように教えられた覚えもないし、何より今日は突っ込みつかれたんで(主に腹話術娘が原因)……また後日ってことで。

「ちぇ、つれないなあ。」

 ゴメンね、姉さん。でもね、仮に突っ込む気力があってもさ、そのボケにどう突っ込んだらいいか分かんないのが一番の理由かな。諸星って言えば正解だったのかな?

「いや、どちかといったら二美夫かな」

 誰ですか? 二美夫って?



――




「こう君、ご飯冷めちゃうから食べよ?」

 エプロンやら新婚さんプレイに気をとられていたが、僕が仕事している間に姉さんは晩御飯を作っていたようだ。姉さんいわく

「こう君お仕事で忙しいだろうと思って作っちゃいました。後こう君のびっくりする顔が見たかったから!」

 らしいが、

「こう君、さっきから料理じゃなくて私のエプロン姿ばっか見ているよ? そんなに気に入ったんなら次からは下に何も着ないけど」

「いいです!!」

 姉さんに裸エプロンをしてもらうほど落ちぶれちゃいません。少しばかり勿体無い気もしたけど、それはまあ一時の気の緩みだろう。近親相姦とかそういうの洒落になんないんだからさ。

「え? 裸エプロンして欲しいの!? それなら……」

「ゴメン姉さん! 今のは僕の言い方が悪かった! 心からのお願いですから服を着てからエプロン装着してください!!」

「だよね……。なんとなく言ってはみたけどさ、して欲しいって言われるとは思ってなかったのでお姉ちゃん少々てんぱっちゃったよ」

「少々ってレベルじゃ無かったよ!! ってご飯だよご飯! せっかく作ってくれたんだから頂かないと」

 微妙な空気になりかけたのでその話は終わりにする。食事のときは楽しく食べる。小学生の標語みたいだが、これが南雲姉弟のなかにある暗黙のルールだ。

「「いただきまーす」」

 食材となった生命たちに感謝の気持ちをこめて南雲家の夕食が始まる。

「さーて、今日のメニューはチキンライスとク○ールのコーンスープとシーチキンパスタ増えるワカメ添えだよ!! さあ食べてみて」

 南雲美桜シェフは並べられた料理の紹介する。増えるワカメなんかあったっけ?

「なんか今日伊織ちゃんがくれたよ? ホント麻生さんちは何でもやってるな……。これ以上何を増えるワカメに期待してんだか、モニターになったの?

「まあそういうことかな。でも伊織ちゃんって凄いんだね。麻生って言ったらあのASOUグループでしょ? そんな大企業のお嬢様だなんて少し気が引けちゃうな」

「別にそんなの気にしなくていいと思うよ。伊織も普通に接してくれたほうが嬉しいだろうし、姉さんはそのまま伊織と接してくれればいいよ」

「そっか、それなら大丈夫だね。ねえこう君、お味の方ははどうかな」

 姉に言われてシーチキンパスタとやらを頂く。

「おいしい…。シーチキンの油と…なんだろう、何かが合わさって見事なコクを作り出している。姉さん、これはいったい!?」

「正解はー、何とこちら!」

 そう言って姉さんはエプロンから何かを取り出した。何故にエプロンから?

「醤油?」

「そっ、醤油。こう君が仕事している間にちょっとお料理本を読んで勉強しました」

 そういや自炊始めたときにそんなの買ったけなあ。結局使わずじまいだったけど。

「料理本を見てお手軽そうなの作ったのがこれ。まあパスタとか作るの簡単だしね」

「へえ。でも姉さん、そんなに食材あったの?」

 さっきから気になっていたことを聞いてみる。ここのところ買い物にも行けていないため、冷蔵庫の中はスッカラカンだったと思うけど。

「まあ冷蔵庫の中に有ったものを適当にしたぐらいなんだけど……、ってこう君駄目だよ? あんな冷蔵庫の中じゃ。本当に最低限のものしかなかったし、どういうわけかケチャップだけやたらあるし……、健康に悪いのは駄目だよ!」

「自炊できるけど教師業も楽じゃないからさ、帰ってきてから自分で作るって言う発想にいかなくなるんだよ。これでも始めのほうは頑張ったんだよ? 後ケチャップは僕のジャスティス」

「大変なのは分かるけど、外食とかカップ麺ばっかじゃ絶対体に悪いって! それとケチャラーとか絶対流行んないからね!?」 

 やれやれ、困った子ね。と言わんばかりに姉は呆れ果てたように溜息をつく。そこまで露骨に残念そうな顔をされたら何も言い返せない。姉さんは決意表明をするかのように息を吸って、

「決めました! 今日この時を持って南雲家の夕食は私が毎日作ります! このままこう君に偏った食生活を続けられるとのはお姉ちゃんとして許せません! ということで明日食材買いに行くよ! 拒否権はないからね!」

「ちょ、僕の人権は!?」

「こう君、社会科教師なのにそれは笑えない冗談だよ?」

 そういって姉はエプロンから徐に一冊の本を取り出す。それ質量保存の法則を無視してないか!? と思ったがつっこむだけ野暮だろう。うちの姉さんには不可能がないのだから。

「取り出しましたはポケット六法。憲法の欄をご覧あれ!」

 姉さんはそう言って六法をめくり出す。意気揚々とめくってるとこあれなんですが、民法を見せられても。何々? 近親者間の婚姻の禁止?

「ってなんでよりによって姉弟間結婚を阻止する悪法のページ見てるのよ!?」

「姉さん、悪法も法なんだぜヒャッハー! ってソクラテスも言ってたよ」

「なんでソクラテスはそんな世紀末みたいな話し方するのよ! そんな法律認めないわよ! なぜなら私は」

「お姉ちゃんだから」

「セリフとるな!! ってこれよこれ! 憲法25条! 第一項だけでいいから」

 物凄い剣幕で六法を見せつけられる。何々?

憲法25条【生存権、国の社会的使命】

① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある。

で、これがどうしたわけですか?

「権利ってものは義務があってこそ成り立つもの! つまりこう君が最低限度の健康的な生活を送るためには他者に義務が生まれます! その義務こそがお姉ちゃんが毎日こう君においしいご飯を作ることです!」

 ものすごいドヤ顔を決められた。漫画とかだったらドヤって文字が書かれるだろうぐらい爽やか、いや寧ろウザやかな顔だ。姉さんとしては僕を心配しての行動だろう、その気持ちはありがたいし、学校から帰ってくると夕食が並んでいるというのもなかなかに魅力的だ。だがこのまま負けっぱなしともいうのも気に食わない。姉が法を使うのであれば僕もそれに乗っ取るまで! 逆転○判で鍛えた論破術とくと見るがいい!

「ふ、ふふふ、ふわぁーはっはっはっは! 甘いぞ、アントワネットの王様エクレアなみに甘いぞぉ! 姉さんは一つ忘れているなぁ、憲法というものはなあ!基本的人権を認めているしなあ、権利ってのは行使しなくてもいいんだよお! 故に僕は敢えて行使しない! 姉さんが僕に料理を作るって義務は拡大解釈じゃあないか!?」

 両者一歩も引かずに 故に僕は敢えて行使しない! 姉さんが僕に料理を作るって義務は拡大解釈じゃあないか!?」

「なんですってえ!?」

 両者一歩も引かずに睨み合う。南雲姉弟の暗黙の了解? 何それおいしいの? その時だった。僕たちは気づかなかったんだ。食卓に忍び寄る侵入者に。そして僕は忘れていた。ノックもチャイムもなしに人様の家に転がり込んでくる彼女の存在を。

「南雲てめー何女連れてやがんだ! 嫌味か!? 振られたばっかの私に対する嫌がらせか!? だいたいなぁ、お前んちにこんな絶世の美女が来てやったんだからもっと手厚く歓迎しろ……よな……」

「加納先生!?」


 加納先生はこちらを見て動きを止める。先程までの怒気が嘘のように静まり返った。

 そして時は動き出す。

「おい先生、あたしはあんたの言うタイムスリップとやらを一応は信じていたぞ。あいつなら本当にやりかねないし、それにあそこまで必死で信じてくれって言われたらな信じてやるのが世の情けってヤツよ。でもなあ、あたしゃ聞いてねえぞ……、どうして美桜がいるんだよ!?」

「早苗……」

「なんだよ……、あたしゃ除け者ってか? 南雲先生程じゃないかも知んねえけどよ、あたしだって美桜にずっと会いたかったんだ。そして一発殴りたかった。大好きな弟君を10年間も寂しい思いをさしたのもあるけどさ、一番許せねぇのはあたしに何も言わず居なくなった。あたしはあんたのこと親友と思っていた。勿論今でも変わらねぇよ。例え美桜とあたしに年齢差が生まれようとな」

「早苗……、ゴメン」

「あー、もう! 10年なんか時効だよ時効! そんかわりこれからはその分取り返すかんね! 覚悟しとけよな!」

 姉さんも加納先生もいい顔で笑っている。10年間のブランクがあっても、二人の間には切っても切れないものがあるのだろう。



10年間もの間置いてけぼりにされたのは僕だけじゃなかった。それは当然のことだろう。例えば峰子さんだってそうだしここにいる加納先生もそうだ。

 僕らはなんだかんだ言っても姉さんのことが好きなんだ。

 いざ言ってみると恥ずかしいけど……、事実だから仕方ないや。




「しっかし南雲先生も水くせえな。美桜が帰ってきたんなら一報入れてくれたっていいのに」

「入れたよ!! でもあなた酔っぱらってろくに会話も出来なかったし、姉さんに電話変わってもらったら速攻切りやがりましたからね!」

「ありっ? そうだっけ?」

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