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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
南雲先生の長い休暇
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憧れた人~Don't call me this name~

「はぁ~、あれマジだったのね……。未来に行ったなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ないんだけどさぁ、アイツならやりかねないからね……。しっかしホント常識ってもんが通用しないわねアイツ……、だってタイムマシンなんか空想科学の産物じゃない。そんなのノーベル賞ってレベルじゃないわよ……。けど設計図は気になるわね……、どうすりゃ出来るか、本当に興味深いわ」

 やれやれといった感じで溜息を吐く。

「信じてくれるんですか?」

 一発で当てられたことにも驚いたけど、それよりも未来に行ったなんてことを信じてくれたことが嬉しかったんだ。

「まー、アイツのことだから有り得るんじゃない?」

「だって美桜はアンタのお姉ちゃん、なんでしょ? アタシからしちゃそれだけで十分信頼に値するけどさ」

 そう言った彼女の顔には悪意なんてなく、当然でしょと言いたげなように笑みを浮かべていた。



――



 それからというものの、僕らは空白の期間を取り戻すように、時間を見つけてはアントワネットでだべるようになった。早苗さんはどうか知らないけど、僕からしたら、中学の友人達よりも彼女と過ごした時間の方が長かったぐらいだった。僕と同じぐらいの時間を過ごした早苗さんも多分同じだろう。元々姉さんぐらいしか友達いなかったしな。高校に行ってから友達が出来たのかは知らないけど……。僕たちは中学高校のこと、あのテストが難しかったやら、あの先生まだいるんだだったり他愛のない会話をしていた。一番盛り上がったのが、姉さんの話題だったのはやはりとでもいうべきだろうか。いつしかこれが当たり前になっていき、ある意味僕にとって姉さんよりも近しい存在になっていった。同じように早苗さんも僕のことを弟のように扱っていた。傍からみたら仲のいい姉弟には見えたのだろう。そんな緩やかな関係が続いていった。



――



 そんな毎日が続いたある日のこと。

「アタシさぁ、告白されたんだわ」

 その一言から僕らの関係は少しずつ変わっていった。

「告白? 告発の間違いじゃないの?」


「誰かに訴えられたって言いたいの!?」

 顔を真っ赤にしてキレる。相変わらずリアクションが面白い。

「クラスの奴にね。いやぁフツメンだけど有りっちゃ有りよね。アタシの魅力が遂に認められたのよねぇ、罪な女だわ」


「はいよるこんとん(笑)」


「なっ!?」


「もう一人の私(笑)」


「黙れぇぇぇ!!」


 この人にも春が来た。喜ばしいことなんだろうけど、なんか釈然としない僕がいた。

「付き合うの?」


「さぁ、どうだろうね。好きって言ってくれたのは嬉しいケド、碌に会話もしたこと無い相手ってのは気が引けるわ……、ってどったの? ホッとしたような顔をしてさ」

 その言葉を聞いた時、僕は安堵した。その時初めて気づいた。前までは分からなかったけど、今なら分かる。安心したんだ。早苗さんが誰かに盗られることを恐れてたんだ。自分だけを見ていて欲しかった。それはこれ以上なく分かりやすい恋心だった。

「ひょっとしてアタシが誰かの物になるのが嫌だったとか? いやー、ホントアタシも罪ねぇ。また一人、純情を弄んでしまったわ」

 いきなり図星をつかれてしまう。それが悔しかったから僕は、

「今私に近付くと生きて返せる自信がないわ(笑)」


「もうほっといてもらえるかなぁ!?」

 いつもみたいに彼女で遊ぶことにした。顔がにやついてしまわないように努めて。


――



「早苗さんさ、いつから気付いてたの?」

「……何がよ」

 酔いも落ち着いてきた早苗さんは、少しばかり不機嫌そうに言う。


 あの発言の後、気まずくなってしまったその場を、僕らは逃げ出した。僕らの都合でみんなの楽しい場をぶち壊してしまったこと、松島さんをテンション高い組(流石に盛り下がったけど)に置いてきてしまったことを心の中で謝りながら、介抱すると言って早苗さんを強引に連れて外に出た。


「僕が早苗さんが好きだったってこと」


「んなもん最初から分かってたつーの、だってアンタ分かりやすいもん。後さ、止めてくれる? 早苗さんなんて気味悪いわ」


「じゃあなんて呼べば良いのさ」


「アンタも大人なんだから自分で考えろ。別に加納先生で良いじゃない」


「答え教えてくれるんだ」


「これ以上気持ち悪い呼び方されるよりかはマシよ。てかなんであんなこと言ったかなぁ、アタシ」

 早苗さんは今更になって後悔しだす。

「後悔するなら言わなきゃ良かったじゃん。王様の命令だとしても、あの場の空気が悪くなること分かってたじゃん」

 飲みの場での粗相だから彼女を責めるつもりはないんだけど、ついついキツい言い方をしてしまう。

「わーてるわよ……、あれはアタシじゃなかったのよ」


「厨二病再発した?」

 あれはもう一人の私だったのだろうか。

「言ってろ」



――



「あ、キリ? そっちは終わったの? うん、僕らは大丈夫だよ。いつものことだし。お陰様でベテランですから。……ゴメン、折角の合コンぶち壊して……、そうか、ありがとな。んじゃまたね」

 どうやら解散したらしい。まああの後じゃ再開する気にもならないだろう。

「加納先生、帰りますよ」

 そう言って僕はタクシーを呼ぶ。これもいつものことだ。

「ねえ、南雲」


「なんすか?」


「いや、なんでもない……」


「そうですか」

 それ以上会話はなく、タクシーが来ても沈黙が車内を支配した。



――



「あら、電話?」

 加納先生を送り、家に着いたときに留守電が入っていたことに気付く。


『先生、麻生です。合宿関連で連絡がございますので、誠に恐縮ですが、ご都合がつき次第こちらに返して下さい』

 どうやら日本に帰ってきたらしい。しかし、かけ直したら電話代こっちに来るよな……。誰でも割引きしとこうかな……。ケチくさい自分にちょっぴり嫌気がさす。



「もしもし、今なら大丈夫だぞ」


『先生、わざわざかけ直して下さりありがとうございます』


「で、合宿の連絡ってのは?」


『あ、ああそれなんですけど……』

 電話越しの彼女は歯切れが悪い。

『電話でだとお金持ち時間もかかるんで、明日お時間ございましたら天文部室に来て下さい。もしご都合悪ければ日を改めますが……』


「いや、大丈夫だよ。時間は?」


『助かります。時間はそうですね……、10時頃でお願いします』


「了解、んじゃ明日な」


『はい、それでは』

 事務的なやりとりをして電話を切ろうとする。


『あ、先生。今週末の夜空いてますか? 後美桜さんにも聞いて欲しいんですが……』

 今週末って……、7日か?

「僕は特にないけど……、ちょっと待ってて」




「姉さんもフリーだとさ」


『それは良かったです。実はその日に僕の誕生日パーティーを開くんですが……』

 あー、そういや夏に生まれたとは聞いてたけど今週末でしたか。

「誕生日パーティー?」

 セレブの誕生日パーティーだろ? ……、僕場違いじゃね?

「僕らがいて良いものじゃ無いと思うんだけど……」


『そうは思いませんけどね。あとこれはお祖父様の人生初ホールインワンパーティーでもあったりするのですが、お祖父様も是非とも先生方に来て欲しいと仰ってますので』

 どんなパーティーだと突っ込みたくなるような内容だな……。なおさらVIPが来るんじゃないか

「あのお祖父様がねぇ……」

 伝助氏の招待となると余計断れない。火山口にホールインワンはゴメンだ。

「分かったよ。行くよ」

 多分姉さんも行くだろう。あの人がこんなおもしろい話題に乗らないわけがない。

『ありがとうございます。それでは明日招待状をお渡しします』

 そう言って電話を切る。


――


「お祖父様が、か……」

 マウリス城で出会った伝助氏を思い出す。

「結局あれ何が合格だったんだ?」

 いつか分かるか。

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