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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
南雲先生の長い休暇
129/263

姉の親友~The foolish days~

「腕を怪我、してるんですか?」

 彼女と始めて会ったとき、何故か腕に包帯を巻いていた。今となれば厨二乙って言えるんだけど、まだそんな言葉が流行っておらず、それに小学生だった僕にそんなアンダーグラウンドな知識が有るわけが無く、心配の言葉を投げかけるだけだった。

「ククク、まあ魔痕アンチスティグマを持たぬ者には関係のない話よ」


「へっ?」


 10年以上前の話だけど、、魔痕と書いてアンチスティグマだなんて突っ込んで下さいと言わんばかりにあまりにも安易すぎるネーミングセンスにどうして突っ込まなかったのか、と今更ながら思う。

「分かってるとは思うけど、漫画の真似事だからね」

「分かってるとは思うけど、抱きつく必要はないよね?」

 意味もなくベタベタしてくる姉さん。この人にとっては呼吸をするように当たり前のことであるため、友達からしたら美人の姉の包容なんて羨ましいぞコノヤロォ! っていう嫉妬殺意入り混じった複雑な所なんだろう、何かと理由を付けられては殴られていた。

 正直言うと、僕もそこまで嫌じゃなかったりする。……、分かってるとは思うけど、殴られる件が嫌じゃないってわけじゃないからね?


「ふっ、魔眼イビルアイを持たぬ者には分かるまい……、ああ今宵は月が赤い……、処女おとめの血のようにな……。聞こえる……、姿無き者達の叫びが……」

 まだ昼です。仮に夜だとしても、それは目が充血してるだけじゃないの? 後最後魔眼関係ないよね? どちらかというと耳の問題だよね?

「まあこんなんでもお姉ちゃんの大事な友達だからね。こう君も仲良くしてあげてね」

「ククク、馴れ合いなど不要だ……」


「なーに言ってんのよ。体育の時いつも余ってて泣きそうだったのどこの誰かしら」

「な、泣いてないわよっ! あれはアタシの持つ異能のうちの一つ、眼力インサイトを使った代償として目に大きな負担がかかるの! 涙は代償なの!」



 ……成る程、それならば現在進行形で眼力とやらを使ってるんですね。今にも泣きそうだし……。体育の時いつもこんな感じだったから姉さんも見てられなくなって話しかけんだろう。あの人お節介焼きな一面が有るしね。でも話してみたら、意気投合して意外と仲良くなったってところだろうな。

 しっかし自称魔眼の持ち主と狂気のマッドサイエンティストねぇ……。この人ら世界征服でもするつもりか?


――


 そんな奇妙なファーストコンタクトではあったが、早苗さんと姉さんと過ごすことが多くなった。小学生の僕からしたら、中学生ってだけで大人に思えた。実際の所2人とも精神年齢が一桁台なんだけど、ランドセルから好きな鞄を持って、びっしりと決まった制服を身に包む2人は僕にとって憧れる存在になっていった。

「カッコ良いからってそれだけはやめてちょうだい……」

 油性ペンで腕に斑点を書き加え、尚且つその上に包帯でテーピングした僕の姿を見た姉さんは、迷わずに119に電話をした。当時、いや現代の医学の目覚ましい進歩においても厨二病は学者とお父さんお母さんを悩ませる奇病だ。解決方法は時間が過ぎるのを待つか、ショック療法かのどちらかだが、姉さんがどんな電話をしたか知らないけど、その後けたたましいサイレンと共に救急車が来てしまい、またそこでも一悶着があったのはまた別の話。


――


「魔痕(笑)」


「やめてっ!」


「月が赤い(笑)」


「ヒィィィィィ!!」


「眼力(笑)」


「うがあああああ!! いっそ殺してぇぇぇ!!」


「うるさいよっ!」

 幸いなことに、僕が早苗さんと会った時が彼女の厨二病のピークだったらしく、高校受験が近づくにつれて、痛々しい厨二発言も徐々になりを潜めていき、いつの間にか最初はなから無かったかのように完治していた。



 ただ過去というのは影の如くその人に付きまとってくる。前科であったり、職歴であったり。別に明文化しなくとも、記憶を失うか、その過去を知っている人を皆殺しにしない限りは、過去の幻影に苦しめられる。早苗さんにとっても同じことだ。何よりあの痛い過去はかなりの破壊力が有るらしく、その話題をすると早苗さんは面白いぐらいに悶絶した。元々の彼女はこんな感じに打たれ弱く、一々見せる反応が面白く可愛らしかったので、事あることに僕は彼女に過去を忘れて貰わないように過去の厨二発言をリフレインしてあげた。僕ってホント善人だよね。それに早苗さんが顔を真っ赤にして暴走し、勉強に集中していた姉さんが怒るというある種のテンプレ化した毎日を過ごしていた。いつまでもこんな馬鹿馬鹿しい毎日が過ごせたらいいな――僕の中にそんな願望が生まれてきた。でもその願望がどの感情からか生まれた物なのか、その時の僕には分からなかった。


 ささやかな願いの故郷がどこか分かったのは、姉さんがいなくなった後だった。

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