暴君再び後編~消せない思い出~First love in Nagumo case~
ラウンド3
「王様だーれだっ!」
「あ、僕だ」
3度目にして王様の箸を引いてしまう。さーて、どうしたものかね? ぶっちゃけ王様の椅子に興味ないからこれで終わりっていう命令も有りな気がするが、それで納まるような連中ではなさそうだ。
「軽めのジョブで行くか。3番と5番が1番にデコピン」
人を憎むことでは何も生まれない。目には目を、歯には歯をの精神じゃいつまでも憎しみの連鎖を断ち切れないのだ。
「私3番でーす!」
「アタヒが5番ひょふ!」
中島さんと加納先生の年長コンビがデコピンするらしい。片方は相も変わらず呂律が回っていないけど大丈夫なのかな?
「南雲、俺に恨みでもあるのか……」
「まさか、偶然だよ」
まあ偶然それが憎むべき相手に当たったときは嬉しいよね。
「さ、ご両人、思いっきりキリの額をデストロイしてやってください」
見ると気合十分に素振りしている。これはキリに大ダメージを与えられそうだ。ざまあ見ろ!
「尚美、行きまーすっ!!」
モビルスーツパイレットみたいなことを言いながら、キリのデコに照準を合わせ、
「チェストォォォォォォ!!」
「あんぎゃああああああああああああああああ!!!」
幕末ぐらいにありそうな掛け声とともに中島さんはキリのデコを打ち抜く。泣き出した赤ちゃんみたいな悲鳴を上げ、キリはその場に悶絶する。みると額が赤くなっている。お酒で赤くなったのとはまた別なようだ。くっきりとデコピンの後が銃痕みたいに残ってるし……、もしかして軽いジャブで済まされないレベル? シャイニングウィザード来ちゃった感じ?
「桐村さーん、倒れてるとこ悪いんすけど、後もう一発残ってるんですよね、加納流酔拳の使い手がまだ出てないんすよね」
「ハァ!?」
「ふぅーアチャー!!」
ドランクドラゴンよりは燃えるほうのドラゴンな掛け声をしながらキリに迫る加納先生。
「はいはーい、逃げちゃだめですよー?」
「ば、馬鹿っ! なんで捕まえるんだよっ!?」
「はい、加納先生行ってみよう!!」
「く、来るなあああああ!」
グワガラゴッシャーン!!
「「わああああ!!」」
ドランク加納のデコピンを遥かに凌駕した衝撃をモロに受けたキリとそれを押さえていた僕はぶっ飛ばされて壁に衝突する。
「げふっ……」
「ぐふっ……」
内臓に直接痛みが襲いかかる。つーかキリを押さえていた僕の方がダメージがデカいんですけど……。
ラウンド4
「王様だーれだっ!」
「はいはい私でーすっ!」
元気一杯に中島さんが答える。多分このゲームが最後となるだろう。ラストオーダーさっき聞かれたしな。
「それじゃあ、4番の人がファーストキスを語ってくださ~い!!」
僕は5番だった。危ない危ない。いくら酒の場とはいえ、中学2年の時に小学生2年生に奪われましたなんて言ったら場の空気死んじゃうだろうな……。ロリコンの称号は要らないです。
「4番だーれだっ!?」
さて、誰に当たるのか?
「あらひでぃぇーす!!」
えっ?
「なな、他の命令にしないか? これ最後だしもっと派手なのにしないか?」
キリは状況を理解し、質問を変えるように言葉を選んで誘導する。
「王様は絶対なのでーす!! 暴君でサーセン!」
しかし、事情を知らない彼女はキリの言葉の真意に気付かず煽り続ける。
「そうだそうだぁ! 王様に刃向かうとは首チョンパだ首チョンパ!」
篠宮もそれにノる。知らないのを罪と責めるのはお門違いだが、少しばかり恨めしく思う。
「それじゃあ行ってみよー!! 早苗のファーストキスまで、」
「3」
「2」
「1!」
「あらひのファーストキスはぁ、」
何で酒に酔った弾みでその話題を出すかなぁ……。
「前にいるコイツよぉ」
忘れようとしていたじゃんか、早苗さん――
――
お姉ちゃんがいなくなった。そんな絵空事みたいな話を信じてくれる人は少なかった。中学にもなったんだからそんな子供みたいなことを言うな。大人たちの大方はそう言った。中には信じてあげるって言ってた人もいたけど、心から僕のことを信じてくれたのは叔母の峰子さんだけだった。生活の面でも、精神的な面でも僕は峰子さんに助けられているようだ。
そしてもう一人、僕の子供だましを信じてくれる人がいた。その人はお姉ちゃんの同級生のとても綺麗な人。
「まー、あいつのことだしありえるんじゃない?」
お姉ちゃんと同じ高校に入学する予定だった親友はそう言う。中学校のときはなにやら黒魔術やらRPGの世界にありそうな設定が大好きだったけど、いつの間にやら落ち着いてきた。今高校で彼女の過去を知っている人間はいないらしい。ある意味僕と彼女の秘密だった。変な話だけど、それが僕にとっては誇らしかった。
加納早苗、彼女は僕が生まれて初めて恋をした女性だ。