暴君再び前編~Triumph of the Tyrant~
さて、最悪のスタートを切ってしまった合コンも、お酒やら時間が雰囲気をよくしていき、いつの間にか最初の粗相はオールフィクション張りに無かったもののように扱われた。険悪な空気なんかなかったんや!
『なーんでもってんの! なーんでもってんの! 飲み足りないから持ってるの! ハイッ!』
「飲んで飲んで飲んで! 飲んで飲んで飲んで! 飲んで飲んで飲んで、ハイ飲んで!」
学生のコンパみたいな無茶な飲みを繰り広げるいい歳した大人たち。当人たちは凄く盛り上がっているが、あんたら平均年齢25歳でしょうが。しかも女性陣二人は四捨五入するとゲフンゲフン……。
「南雲さんはあそこに混じらなくて良いのですか?」
盛り上がっている平均年齢25歳児たちを尻目に、僕と松嶋さんの大人しいコンビは端っこでチビチビと飲んでいる。どちらもお酒をあまり飲まなかったり、お互いの趣味が読書ということもあって馬鹿騒ぎに混じることなく、のんびりまったりとした時間を過ごしている。
「いいよ、あそこの人たち宗教じみてるもん」
『ウラー、ウラー、ウラー』
未開の地の部族の儀式のように、四人で手を取り合ってお酒を中心にぐるぐる回っている姿は傍からみたら不気味だ。一体何を呼び出そうとしているんだ?
『バッカス、ディオニュソス、酒を与えたまえ、うらー、うらー』
居酒屋チェーン店の六番テーブルで神話の神様を呼び出すって言う発想が凄いです。確かに二人とも酒の神様ではあるけどさ……。
――
「王様ゲームしまーす!!」
『いえーっ!!』
「どうしたそこのお二人さん、ノリが悪いぞー!!」
『悪いぞー!!』
「「い、いえー……」」
合コンで盛り上がるゲーム一位と言うと、やっぱり定番の王様ゲームだろう。うまく行けばムフフなことが出来るというゲームだが、僕はまったく嬉しくない。それもそうだ、人生初の王様ゲームで僕は恐ろしいぐらいの地獄を味わったのだ。男に告白する羽目になるわ、……加納先生にキスしたり……碌な目に遭わなかった。
まあそんな事情を知っているわけが無く……、いや2名ほどその場にいたぞ……。
参加者
南雲航 地歴教師
桐村賢治 音楽教師
篠宮琢郎 中古車販売会社営業課
加納早苗 物理教師
中島尚美 スチュワーデス
松島知子 スチュワーデス
ラウンド1
「王様だーれだっ!!」
「はいはいおーれでーす!!」
キリが意気揚々と手を挙げる。コイツは前の反省をしていないのか……。
ちなみに僕は4番。あれっ? これフラグじゃね?
「それじゃあ王様が命じちゃいまーす! 1番と4番が」
ほら来たああああああ!! 僕からしたら4番は本当に死の番号なんだよっ!!
「漫才するっ!!」
無茶振りだああああ!!
「あのー、その命令は嫌われると思うんだけど……、そもそも王様ゲームって男は楽しいけど女性陣は実は嫌って姉さんが持ってた女性誌に載ってたんだけど……」
「あんだぁ!? 王様に逆らおうってのか! 命令変更! 南雲はチョンパだチョンパ、今ここで首チョンパだ!!」
訳が分からないことを喚く。
「目の前で首チョンパなう」
ツイッターでリアルタイム配信しないでいただきたい。
「それが嫌なら漫才だぁ! イロモネアだぁ!!」
仕方ない、要求を呑むか。
「4番です」
「1番……、です……」
1番 松嶋知子
4番 南雲航
よりによってこの人ですかぁ!? ボケも突っ込みも想像つかないんだけど!!
「南雲さん……」
どうしようって顔をしている。そりゃ今日初めて会った相手と漫才しろなんて無茶振りにもほどがある。どこのコンパだよ。あ、コンパかこれ。
「はい二人の漫才までー!」
「3」
「2」
「1!」
ちょ、急すぎっ!!
「フォッフォッフォッ」
松嶋さんは両手をピースの形にしどっかの宇宙忍者みたいな鳴き声をする。
「フォッフォッフォッ」
目でこちらに何かを訴えかけてくるが、
「フォッフォッフォッ」
これはボケなのか? 彼女なりのボケなのか?
「バルタン星人、じゃんけんしよっか」
「フォッフォッフォッ」
「最初はグー、その次パー、グッチョパは無しよ、じゃんけん」
「グー」
「フォッ」
「ぎあああああああああ!!」
音声だけでは何があったか分からないと思うが、目潰しされました。はい。
『……』
わー、居た堪れない目で見てくるよー。漫才強要するだけして、漫才の域に達していないようなグダグダ芸を見せられたからってそんな目で見ないでください。
「フォッフォッフォッ」
もうその件はいりません。
ラウンド2
「王様だーれだっ!!」
「私です……」
バルタン子こと松嶋さんが王様になったようだ。
ちなみに僕は3番。4番じゃない限り安全なのだろうか……。
「ささっ、知子ちゃん行っちゃって!!」
はやし立てるように先輩さんは言う。この人さっきの漫才? を録画していたからな……、痛い目にあってほしい。
「それでは、4番がラップをしてください」
3番で良かったあああああああああああああああああ!! いつもどおり4番引いてたらさらに傷口が広がるとこだった……。オーバーキルってレベルじゃなかったぞ。
「4番俺なんだけど……」
不幸にも死の番号を引いてしまったのは篠宮だった。
「ドンマイ」
自分の中の一番の笑顔を作って肩を叩いてやる。これで気持ち和らいだか?
「そんな篠宮のラップまで……」
「3」
「2」
「1!」
「颯爽TOUJOU! 中古車SIJOUで駆け抜けるRETSUJOU! そんな俺にヒアゴーSIJOU! 下ネタ過ぎて御廻りSANJOU! トォワエトォワェ!!」
『……』
リズム感ひでーなおい。てかラップって韻を踏めばいいってもんじゃないと思います。
「YO! YO! YO!」
そもそも前提条件として、YOYO言ってるラッパーなんか見たこと無いんだけど……。
「はい、次いこっか」
「ちくしょー!!」
また一人の心を傷つけ、王様ゲームは続く。僕らの戦いはまだ始まったばかりだ。