夏休みドキドキ研修旅行!?~Closed circle~
「どうしてこうなった……」
御崎原高校も夏休みに入り、生徒たちはそれぞれの夏を謳歌する。野球部は甲子園優勝を目指し、吹奏楽部は全国コンクールに向けて練習している。さて、僕は何をしているかって?
「うう……、気分悪ぅ……」
船の上でグロッキーになっている生徒会長の面倒を見ています。水泳が苦手だったり、船酔いしやすかったり、理名ちゃんは水属性のフィールドにめっぽう弱いみたいだ。
「つーかどこ行くんだ、これ?」
フェリーは本土をどんぶらこ、どんぶらこと離れて行き、僕らがいた島は水平線の向こうへと消えていく。
「うぅ……、何も聞いていないの?」
甘いよ、理名ちゃん。
「理事長が教えてくれると思う?」
あの人は基本的に土壇場で知らせてくる。性質が悪いったらありゃしないよ……。
「それもそうね……、うぅ……。あの時はその場のノリで快諾しちゃったけど、明らかにおかしいわよ……、なによ全国生徒会長研修って……、うへぇ……」
全国生徒会長研修……、そんな何をするのか分からないような研修があるのか? よしんばあったとしても本土から離れた島でやる必要があるのか?
そう。皆さんは覚えているだろうか、三人の美少女が濡れながら競ったあれを。……、卑猥な意味じゃないからねー。卑猥な妄想した人は廊下に座ってなさい。生徒会長の腕章と僕と行く1週間の研修旅行をめぐり戦ったカナヅチたちの水泳大会を忘れてはいないだろうか? 正直生徒会の腕章の方がおまけなメンバーばかりだったが、最終的に生徒会長に就任したのは、その名の通りの台風少女香取理名だった。就任してすぐにいろんなイベントを開催し、毎日が学園祭な活気ある学園生活を作ることをモットーに日々戦っているのだ。
そんなある日、暴君は降臨したのだ。
――
「さて、二人には研修旅行に行ってもらう」
僕と理名ちゃんを呼んだ理事長は、開口一番にそんなことを言った。
「「はっ?」」
思わずリアクションがシンクロしてしまう。研修旅行って……、まさかあれか?
「なんだ忘れていたのか。生徒会長就任のご褒美だったというのに」
いやいやぁ、あんな僕に配慮0の条件なんか忘れるわけないです。
「いやいやいや! あれマジで言ってたの!?」
え? 理名ちゃん冗談と思ってたの?
「てっきり南雲美桜と麻生伊織をその気にするだけと思ってたのに……」
まあ確かにその条件が出てから二人とも参戦を決意しましたが。
「私は常にマジだが? なんだ嫌なのか?」
当たり前だろうが!
「ぜんぜん嫌じゃないわよ! むしろ望むところよ!」
「ちょ!?」
オーケーなの!? 僕と二人っきりで大丈夫なの!?
「だってそのために帰国したんだし」
帰国の理由それで良いのか!?
「そうか、なら良かった。推薦しといて出ませんってなられたら私の立場ってやつが悪くなるからな」
理事長はほっとしたように言う。
「推薦?」
「ああ、こっちの話だ。君たちに行ってもらうのは全国生徒会長研修だ」
「「全国生徒会長研修?」」
なんじゃそりゃ。えらい安直なネーミングだけど……。
「ああ、全国で選ばれた生徒会長が行くことが出来るという研修だな」
「で、選ばれたわけと」
理事長はうむ。と首を縦に振る。要はエリートの中のエリートってこと?
「そうだ。そもそもこれに選ばれることがすでに名誉だからな。末代まで誇れるぞ?」
「だって」
理名ちゃんは僕を期待したような目で見る。
「言っとくけど、僕は生涯伊織派だからな」
子孫つくろって言いたいんだろ。
「で、研修だが……、明日からだ」
「「明日ああああああああああああああ!?」」
急すぎるだろ、おいっ!!
「安心してくれたまえ、一週間分の仕事は無しにしておいた」
万事抜かりなし、と理事長は自慢げに言う。……恐ろしいぐらいのドヤ顔をして。
「あざーす……」
素直に喜べねー。
――
まあその後のほうが大変だった。
「こう君はおねえちゃんを置いてどっか行っちゃうの!? 鬼畜よ鬼畜!!」
「先生、天文部より会長さんを取りましたぁ……、そうですかそうですか。かえって来た時に先生の居場所があると良いですねぇ?」
と、美少女二人から殺意の波動を直撃するというご褒美……、じゃなくて世にも恐ろしい体験をしてしまった。二人の機嫌を直すために、夏休みの2週目は僕の自由時間、3週目は伊織と天文部の合宿でペルセウス座流星群を見に行く、4週目は姉さんと盆を過ごすという超過密スケジュールが組まれてしまったのだ。はっきり言おう、全部峰子さんのせいだ。まあその分僕の仕事を減らしてくれたりと気にはかけてくれているからあまり強くは言えないんだよね。
「しかし僕に休日はあるのかねぇ?」
てか全国生徒会長研修なんだから僕要らないんじゃないの?
――
「おっ、見えてきた見えてきた。理名ちゃん、もうすぐ着くよ」
研修が行われるという島、名前は確か五鐘島というらしいけど、なーんか秘宝やら戦時下のどうたらこうたらみたいな展開が待ってんじゃないのか? 俗に言うクローズサークルだっけ?
「クローズドサークルよ……。でも安心して、台風は来ないみたぃ……ヴェ……」
まあ台風と例えられた少女がこのザマだからな。それに島に行くたび台風起きられても困るしね。
「何もおきなきゃ最高のバカンスなんだけどな……」
――
「お待ちしておりました、香取理名様、南雲先生。私今回の研修において皆様の世話をいたします鉈峰と申します。以後お見知りおきを……」
鉈峰という珍しい名前の男性が迎えに来てくれる。つーかこの人って、
「「ターミネーター?」」
「はて、どうされましたか?」
鉈峰って苗字も狙いすぎな気がするが、リアルターミネーターだ……。頭の中でBGMが勝手に再生されるし……。
「さて、他の参加者の方はもう館に集まっています。あと一人まだ来られていない方がおられるのですが、まあ直に着くでしょう。お二方はお部屋に荷物を置いて娯楽室にてお時間をつぶしていてください」
娯楽室、ね……。
「すみません、僕らのほかに何人この島に来られるんですか?」
「そうですね。今回の研修に参加された方は、私たちスタッフや南雲先生のような付き人を除いては6人ですね」
日本中から選ばれたエリートが6人ってことね。
「それでは、有意義なお時間をお過ごしください」
ターミネーターはガシャン、ガシャンと機械音を鳴らしながら(当然鳴らしてません)船着場へと向かう。
「しっかし随分洋風な館ねぇ。写真の上にCG加工したみたいになってるわ」
理名ちゃんが言う通り、島の上に玩具の城が建っているみたいだ。
「あれは……時計台?」
一番高くそびえる建物を見ながら言う。それはイギリスのビッグベンのような威容を見せる。
「いい趣味してるわね、これは興味深いわ。でもここでやる必要があったのかしら?」
僕が初期におぼえた質問を口に出す。クローズドサークルにする必要あるのか?
「さーね。お宝探しでもするんじゃないの?」
頭の上から声が聞こえる。
「やぁ、ご両人。とぅ!」
木の上から女の子が飛び降りてくる。スカートは……、穿いてないか……。
「なーに落ち込んでんだか。ねえ貴方達も研修に選ばれたの? 私は明智萌。分かってるとは思うけど、あんまり下の名前で呼ばないでよ? こちとら風評被害来てんだからさ、もえたんもえたんしつこいのよねぇー。って興味はないっすか、そーすか」
勝手に話し始めたのはそっちだろうが。
「ねえ、貴方達も研修に選ばれたってことは、あなたも研修に参加してるわけ?」
「もちろん! 私これでも生徒会長なのよねー、宝永女子高校って知ってる?」
宝永女子というと、日本一のお嬢様高校と呼ばれる名門女子学校だ。すべての生徒たちの頂点に立つ生徒会長は、生徒達にとって憧れの存在だろう。
「超エリートジャンか……」
初っ端から大物が出てきた。これじゃあ他の人もエリートと呼ばれるにふさわしい奴らが出てくるのだろう。
「ほんと場違いなところにきちゃったなぁ……」
今からなら船出してもらえるかな? 僕の戦場はここじゃない。