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栄冠は君に輝く~Major League~

 甲子園、そこは高校球児達の聖地。彼らがそこで見せる熱いドラマは見る人を感動させる。

「ま、僕はそうやってみんなで頑張る行事は余り好きじゃないんだけどね」


「てめーの好みなんか知らねえよ!!」

 この教師に対してけしからん口の効き方をする男は、古村潤平、戒名青梗菜(ちんげんつぁい)南無(ある)。ま、良い奴だったよ。

「なに勝手に人を殺しとんじゃあ!! なんだよ青梗菜って! 地味に中国語の発音しやがって! しかも南無ってなんだ南無って! あるってルビ振るぐらいなら最初から普通にしろよ!!」


「はいはいそーですね」


「すっげームカつく!!」

「で、僕に文句を言うために来たわけ? そういうのノーテンキューなんで」

 僕だって暇じゃないんだ。天文部室で伊織の入れるお茶を飲み、山本を弄って遊ぶと言う僕にしかできない大事な仕事があるんだぞ?

「呼んだのてめーじゃねーか! そもそも個人面談だろ!? 俺だって練習抜けてきたんだ、ちゃっちゃとやってくれ」

 そう。夏休み前の故人面談なのだ。

「だから殺すんじゃねーよ!! 最早ホラーじゃねえか!」

 失礼、個人面談だ。

「ああ言えばこう言う。君は子供だなぁ。あれだろ? 小学校の給食でカレーの中のグリーンピース取り除いて食べるタイプだろ? スプーン曲げとかいって力業でスプーンを曲げて折ってたんだろ? 女子にフルーツポンチを逆さまで言うよう脅してたんだろ?」


「しねーよ!! しかもなんで給食ネタ縛りなんだよ!?」


「で、結局君は何がしたいの?」

 さっきから否定ばっかりで、面談する気有るのか?

「唐突に話戻すんじゃねーよ!! もう終わりな! 何時までもせんせぇの暇つぶしにつきあってやるほどこっちは暇じゃねえんだよ」

「ほうほう、もういくつ寝るとお正月と。半年ぐらい寝ないと来ないぞ?」

「んなこと一言も言ってねーだろうが!!」

「はいはい次の人な。後ろ支えてるんで出てった出てった」

 ハゲ男爵はプンすかしながらドアを開けようとする。

「おい古村」


「んだよ」


「頑張れよ」


「……、ああ」

 ツンデレな奴。



――



『『ありがとうございましたっ!!』』


 地区予選もあれよあれよと言う間に進んでいき、我らが御崎原高校は準決勝まで駒を進めた。認めるのは癪だが、中学時代鉄人とまで謳われた古村の加入が部員たちにとって起爆剤となったらしく、例年以上にチームが纏まったと顧問の黒崎先生は言う。クラスの生徒が活躍するのは教師としても嬉しいことだ。今度からアイツのことを動けるハゲと呼んでやろう。しかし次の対戦校というのが、ある種因縁のカードだったりする。そう、彼がいる学校なのだ。



地区大会 準決勝 私立御崎原高校VS私立名木学院高校(なぎがくいんこうこう)

 プレイボールっ!!


 先攻 御崎原高校

 1 美樹(遊)

 2 鹿目(左)

 3 暁美(右) 

 4 巴 (三)

 5 古村(投)

 6 志筑(一)

 7 上条(捕)

 8 佐倉(中)

 9 中沢(二)


 後攻 名木学院高校

 1 秋山(右)

 2 中野(遊)

 3 田井中(一)

 4 中西(投)

 5 琴吹(捕)

 6 山中(中)

 7 真鍋(二)

 8 鈴木(三)

 9 平沢(左)



――



 覚えているだろうか? トラのマスクをした職質上等のエスダブルさんを。そしてその中身が英語能力に難がある中西君だということを。

 中西君はかつて古村と戦った男だ。古村が彼にはなったデッドボールが原因で、古村は野球から遠ざかっていたが、先日の中西君もといエスダブルさんとの一打席勝負をし、そこでかつての彼を取り戻したのだ。古村にとって中西君は、かつての罪を償うべき相手でもあり、甲子園へ進むためには倒さなければならない高い壁なのだ。


『ストラーイク!! バッターアウト! チェンジ!』


「速いね、中西さんのボール」

「そうですね。しかも彼のボールはただの速球じゃありませんね」

「ふん! 私のほうが速い球投げれるわ!!」

 僕らは今日の試合が気になることもあり、球場に足を運んでいた。べ、別に古村が心配なんてことなんかないんだからね!! というツンデレ芸はこの辺にして、なぜか姉さん、伊織、理名ちゃんという修羅場必死トリオと観戦することになってしまった。とは言っても、水泳対決やらをしていくうちにこの三人も仲良くなったらしい。そのうち三人でCD出しそうだな。

「伊織、ただの速球じゃないってどういうこと?」

 野球素人の目にはストレートにしか見えないんだけどな……。

「ああ、それなんですが……。っと次の彼の投球の時に解説します。それに、今は彼を応援したほうがいいんじゃないでしょうか? なんたって先生のお気に入り生徒ですしね」

 マウンドには鉄人と呼ばれるあいつが立っていた。いつも以上に凛々しく見えるのは、球場補正のせいだろうか? それともあれがあいつの本気なのだろうか。


『ストライクッ!! バッターアウト! チェンジ!』

 古村も負けじと勢いのある速球を放ち三者凡退に抑える。

「スピードだけでは彼のほうが上ですね」

 伊織が解説するように、古村のボールは中西君のそれよりも速い。しかしスピードだけってどういうことだ?

「見たらわかると思いますよ? 中西さんがストライクを二つ取った後に投げる球に注目してみてください」

 三球目ね。バッターをうち取る球ってことか?


『ツーストライクワンボール』

 さて伊織が言うように、ストライクが二つ点灯した。

「ジー」

「ジー」

 姉さんと理名ちゃんもツーストライクの後のボールに興味津々のようだ。穴が開くぐらい中西君を見つめている。

『はっ!』

 大きく振りかぶって投げられたボールは、やっぱり古村に比べると遅い。

『いけるっ!』

 四番の巴君が最高のタイミングでバットにボールを当てる。これはホームランか!?

「えっ!?」

「ほほー、そゆことね。なるほどなるほど」

 姉さんは驚愕し、理名ちゃんは何かに納得したようなそぶりを見せる。そしてバットが捕らえたボールは……。

『アウト!』

 天高くアーチを描くと思われたボールは、掃除機に吸い寄せられるように中西君のグラブの中へ入っていく。

「どうですか? お分かりいただけましたか?」

 解説役がすっかり板についた伊織が楽しそうに聞いてくる。僕にはさっぱり分からなかった。

「いや……、二人は分かったの?」

「うん、少しだけど」

「もちろん! 私の眼力を舐めてもらっちゃあいけないわ!! あのピッチャーが投げたボールだけど、実はストレートじゃなかったのよ」

 ストレートじゃない?

「そ。正確には……、なんだっけ? ファウストボール?」

 なんだ、そのゲーテの詩みたいなボールは。

「ファストボールですよ」

「そうそうそれそれ……、ってなに手柄横取りしてんのよ!? まあ要はアメリカ式速球ってこと! ハンガリーな私とか日本人にはなじみが薄いけど直球ストレート速球ファストボールはべつもんなのよ。まあ、詳細な知識がほしけりゃ麻生伊織に聞くことね」

 すとれーと? ふぁすとぼーる? 野球に対する知識無振りな僕にはさっぱりだぞ……。

「さっき香取会長が言ったように、ストレートとファストボールは似て非なるものです。見てもらったほうが分かりますね」

 伊織はグランドに目を向ける。バッターボックスには古村が立っており、ツーストライクという絶好のファストボール? チャンスだ。

「中西さんが投げた球ですが、実は」

 バットがボールを捉える……、あっ!!

「ボールが曲がった?」

「ご名答です。あれが中西さんの武器でしょう。芯で捉えたと思わせて、実はバットの根元で曲がってるんです」

「ムービングファストボール、だよね?」

 姉さんが答える。

「そうです。けどよくご存知でしたね? 日本ではファストボールの歴史は浅いのに……」

 その言い方からすると、姉さんがタイムスリップした間に日本で台頭してきたのだろう。

「へへ、パワプロしてたから……」

 あー、そういやそんなのあったっけな……。

「ツーシームファストボールというのが一番かもしれませんね。こういう風にボールの縫い目に対して人差し指と中指を平行にかけるんです」

 そういやさっきファールボール拾ってたっけな……。

「こうすることで1回転で2ヶ所の縫い目でしか空気をかけないので微妙な変化が生まれるんです。しかし彼はすごいです。そもそも習得が難しいのに、カットファストボールにシンカー、スプリットフィンガードファストボールと来ました。これでシュートも投げてきたら彼のボールを内野より先に飛ばすのは骨が折れそうですね」

 伊織は感心している。

「ぜひともオリックスに入ってほしいですね……」

 あの短冊書いたのお前だな。

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