極道料理人~Gang star cook~
「この人が鶏の中身です」
日本を陰から牛耳っていると言っても過言ではな「過言です」……、割り込むなよっ!! まあ熟練の名探偵もビックリなお仕事の早さで、伊織は鶏男の正体を割り出した。流石チート、今までの苦労は何だったんだろうね……。
「ズタズタやぁ……、私のプライドズタズタやぁ……」
「?」
ほーら、また一つ大変なものを壊していきましたよ。気付かないのも優しさです。
「この人は……、知らない人です」
度会は写真の男を見る。プロレスラーみたいにガタイのいい男だ。鶏のマスクの下に隠されていた素顔は、まんまやーさんである。他に例えようがないぐらい、純度100%のヤのつくお仕事の方だ。間違っても堅気じゃない。
森永さんは考える素振りを見せて、
「ヤのつくお仕事って……、ひょっとしてヤキイモ屋さん?」
その発想は無かった。
「じゃあ薬剤師?」
惜しいけど最後二文字いらなーい。
「分かった! ヤクザイ」
?を消しちゃったよ! 最早薬じゃん! 薬剤じゃん!
「しっかし悪役レスラーじゃないの。キモ鶏の方がマシに見えるって……」
確かにそのままお茶の間に出すもんじゃないよな……。お子ちゃまには刺激が強すぎるだろ。頬に傷を付け、にらみを聞かす彼はチャンピオンの風格よりは、組長の風格の方が有るんじゃなかろうか。包丁よりも長ドス持ってそうだ。頭の中で仁義なき戦いの音楽がエンドレスリピートで流れ続ける。夜道で会ったら、間違いなくジャンピング土下座からのスライディング土下座をして有り金全部を払うレベルだ……。小指は……、有るな、うん。10本揃ってました。
「伊織さん、誰なの? この龍が如くに出てきても違和感がないお方は」
「彼は岡村剛次郎。見ての通り、ただの料理人です」
どう見てもコックに見えねえよ!! セガールの方がまだコックしてるよ!!
「人間を調理するんすか? 小麦粉は麻薬で、ケチャップは血で……」
料理の道を極めし者、極道だあああ!
「何を言ってるんですか?」 ジョークを素で返されるのが地味に辛いです。滑ったみたいじゃん。
「まあ初見ですと、あっちの世界の住人と思いこんでしまうのも無理ありません。実際に彼は元暴力団という異色のとんでも経歴を持っていますしね。岩波組の若頭まで登りつめましたが、現在は堅気として隠居生活をしているそうですね。しかしどういうわけか、鶏のお面をかぶってキッチンロワイヤルに参戦しました。何故顔を隠してまで番組に出たのかの理由までは分かりませんでしたが……」
ちょっと待て! 岩波組と言うと、最近組長が出所した指定暴力団じゃないか!! この鶏男凄いとこから出てきたなぁ……。
「でも質問! はいっ! この人と度会ママにどんな関係が有るの?」
確かにそうだな。彼の出演時のみスタジオ見学に来ていたことを考えると、何らかの関係はあるはずと見て良いと思う。僕は勝手にスターウォーズ的な展開が有るんじゃないかと思っていたぐらいさ。
パパパパーンパーンパパパパーンパーン……♪
――
『度会スカイウォーカー……、私はお前の父だ!』
『なんだって!?』
『コーホー』
『うわああああああ!!』
――
「どったの? 笑いをこらえて」
森永さんが訝しげにこちらを見る。
「いや、頭の中でダースベイダーの音楽が流れてきてさ」
度会は知らない人と言ったから、その線は薄そうだ。
――
『度会スカイウォーカー……、私はお前の父の従姉の旦那のテニスのダブルスペアだった男だ』
『なんだって!?』
『コーホー』
『うわああああああ!!』
――
ってところか?
「じゃあ度会パパはどこにいるのかしら?」
だよな。パパに関しては目撃情報もないみたいだし……。
「でも鶏男の正体が分かったわ。しかし、元とはいえヤクザが絡んでくるなんて……、これは事件の匂いがしてきたぞ」
口ではそう言うが探偵さんは楽しそうだ。
「面白い。暴いてやろうじゃないの、そして見つけてやるわ。その先にある真実を」
探偵って言う人種は事件を楽しむ者なんかね?