不思議な転校生~YUKIRIN☆~
「転校生…ですか?」
「そうだ。どうかしたか?」
「いえっ、別に……」
随分珍しい時期に来るもんだ。6月も半ば、クラスがまとまってきてるタイミングで転校生と来たもんだ。ついつい何かあると勘ぐってしまう。
「まあ私も事情は知らないし、知る権利はないと思うが、確かに妙なタイミングでもあるな。ラノベなら間違いなく一悶着あるぞ?」
発想の基準がラノベってのもどうなのかな? けど理事長の言いたいことは分からなくもない。理事長に読まされた作品の多くは、転校生キャラが出てきた。日常を非日常に落とし込むには、非日常を日常の中に入れたらいいのだろう。ゴメン、自分でも何言ってるか分からない。
「ということで、既に非日常なクラスに入れることにした。担任、ファイトだな」
サムズアップして言う。しかし淡々と言うため、バカにされているようにしか思えなかったり。
「既に非日常って……、そうだけどさ」
姉が過去からやってきたり、腹話術少女がいたり、40億の天才がいたり、鏡の中でバトッたり……。そんな日常。うん、なと日の間に非って言葉入れたいよね。
「で、いつ来るんです?」
「それがな、非常に言いにくいんだが、」 理事長は渋い顔をして、
「明後日なんだ」
「パードゥン?」
「明後日なんだ」
「へ~、明後日なんだぁ~ってアホかぁぁぁ!!」
近すぎだろっ! 準備の時間無いじゃないの!!
「私だって知らされたのは今日の朝なんだ。準備の時間が無いのはこちらとて一緒だ」
なんか色々急な転校生だなぁ……。
「明日学校に挨拶には来るみたいだ。とりあえず、彼女をお願いする。にしても色々謎が多い子でな……、一体どこまでガチなんだ?」
理事長は困り果てたように資料を渡す。
「え~と、名前は音無響子……、なにこれ? 未亡人が来るの?」
「むしろ私は今時のJKがめぞ○一刻から名前を取られるのが可哀想だ」
「本名なの!?」
「偽名だろうな……。何となくそんな気がする」
「しかし何でこんなデタラメな経歴の子を疑いもなく編入させたんですか……、ラピュタ王とかセクシーコマンドー部とか中学生の悪ふざけにしか見えませんよ」
「まあ三ヶ月ぐらい前まで中学生だったからな」
「そういう問題ですか?」
「とにかく、ここまで謎しかない生徒は生まれて初めてだ。上手い具合に本名聞き出してくれ」
一体何なんだ?
――
「はいお電話代わりました、南雲です。はぁ、病院ですか……、はい、伊藤はうちの生徒ですが……、ってええっ! マジっすか……。分かりました、わざわざありがとうございます」
翌日、僕も待っていたのは、普通一般人代表の伊藤が路地裏で倒れており、病院に運ばれたという衝撃的なニュースだった。
「いくら夏前だからって外で寝る必要無いのに……」
いやそういう問題ではないけどね。
「なんか最近そういうの多いよな……」
ここんところ通り魔が多発しているらしい。しかし、被害は全て未然に防がれているという。生徒達にはなるだけ集団で帰らした方が良いだろう。
――
「音無響子です。宜しくお願い致します」
放課後、噂の謎だらけどころか、上から下まで謎しかない転校生が訪れてくる。
「ゴメン、それ偽名だよね……」
いくら何でもその名前は冗談だよ……、ね?
「ッ!? どうして分かったんですか!? もしやエスパー?」
そんなにビックリするとこッ!?
「いや、いくら個性の時代だからって、そんな日本一美人な管理人の名前そのままは親の配慮0じゃんか……」
「バレてしまっては仕方ありませんね! 真実の名前は不二詩雪、通称ゆきりん。どこにでもいる普通の女子高生ですっ☆」
語尾に星をつけながら言う。う~ん、偽名を使う子は普通なのか?
「この歳なら普通でしょ」
厨二病は高校まで引きずらないで欲しいです……。
「気軽にゆきりんっ☆って呼んで下さい」
ゆきりん……、自分で言うなよ……。かえって痛々しさが増したぞ。
「不二さんはどうしてこんな時期に転校を?」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。まあマトモに取り合ってくれるか分からないけど……。
「ゆきりん、です」
「はい?」
「ゆきりんのことはゆきりんと呼んで下さい。じゃないとアナタの実家を爆破しちゃいます」
テロ宣言!?
「あのー、不二さん?」
「さーん!」
「不二さーん!」
「にー!」
「……ゆきりん」
「なんですか?」
漸く反応する。ゆきりんって呼ばないとだめなのか?
「苗字で呼ばれるの嫌なんです。不二さん不二さんってゆきりんは日本一高い山ですか!? 縁起いいんですか!?」
あー、言われてみればそうだな。僕はさっきからマウントフジの名をひたすら連呼してたってわけですか。確かに職員室で富士山富士山言ってたら言ってる方も痛いよな……。心なしか周りの目が白い。
「じゃあ詩雪ちゃんとかでいいじゃん」
ゆきりんもゆきりんで白い目で見られるじゃんか。
「詩雪ってね、たまにこう書かれるんです」
左手にペンを持ち、踊るようにスラスラと紙に書く。
『死遊鬼』
字がきれいだな。なになに……? 死と遊ぶ鬼……。
「暴走族かよ!? そんな当て字真っ先に思いつく奴が凄いよ! そもそもまず『ゆ』を『遊』で変換する奴がいないよ!」
「だからゆきりんと呼んで下さいね☆」
だめだコイツ。早く何とかしないと……。
――
「あっ、よく分からん展開ではぐらかされた」
「こう君、どうしたの?」
伊藤が入院しているという病院に向かうべく、車を走らせる。助手席には姉さんが座っている。そういや姉さん車に乗せるの初めてかも、なんてことを思ったり。
「いや、HRでも言ったけど、時季はずれの転校生が来るじゃんか」
「みたいだね。また変なタイミングだね」
生徒側からしても同じような感想を抱いているらしい。
「まあ明日になれば全て分かるんだけど、恐ろしいぐらいにキャラが立ちすぎててさ。間違いなく一悶着あるよ」
それは確信をもって言える。
「なんで分かるの?」
それはね……。
「転校生キャラは現状をぶちこわすために来るからさ!」
M原K一しかり、A美ほむほむしかり。物語にアクセントをつけるのが奴らの役割さ!
「メタいよ……、こう君。でも前から思ってたけど、転校生が来るとさ、基本都合良く席空いてるよね」
「なんなんだろね、あれ。こちとらわざわざ資材室から持ってきたというのに……」
「なんか私たちってありがちな展開に喧嘩売ってること多いよね」
「王道と邪道を織り交ぜてるんだよ」
「だからメタいって……」
――
「うわぁ……」
「これはヒドい……」
人生において、人は主役にもなれば、脇役にもなりうる。何かと事件に巻き込まれるのは主人公補正と思っていたが、
「もう拓也なんか知らないっ!」
「な、なんで殴られにゃならんのよ……、不幸だ」
「兄貴! お母さんが持って行きなさいってリンゴ買ってくれたのよ! 剥いてあげるからありがたく思ってよね!!」
「私が剥くわよ!」
「あ~、なんで喧嘩するんだよ!!」
「はいっ、兄さん」
「あいつらと違って小鳥は優しいなぁ。少しは見習って欲しいよ」
「鈍感……」
「ん? なんか言った?」
「いやっ、別に」
「茶番だ……」
「茶番だね……」
伊藤拓也。平均平凡と言う今時エロゲ主人公でも、もちっと個性があるのに彼と来たら本当に無個性だ。しかし、モテるね……。
「ラノベにありがちだけど、こういう露骨なハーレムものの良さがいまいち分からないのよね」
「こう君割と敏感だもんね」
「それはどうも」
「でも私の愛には応えてくれない」
「民法見直そうか」
伊藤ハーレムは看護師さんが来るまで騒がしく過ごしていた。
――
「ここで良いです。ありがとうございました」
伊藤ハーレムご一行を家まで送る。車で来といてよかったな。
「それじゃまたな」
「幼なじみに双子の妹……。出来すぎてるよね」
「あの辺は勝手にラブコメやってるんだろうな」
「転校生も何か絡んだりして」
「まさか……。でも有りそうで怖いのよね……」
『ゆきりんっ☆』
またクラスが賑やかになりそうです。
――
「不二詩雪で~す! 皆さん気軽にゆきりんっ☆てお呼びくださ~い!」
『……』
このリアクションが世間の目です。
「あれあれ~、みんなテンション低いぞ~」
「君が高すぎるんだ」
「つれないな~。で、ゆきりんはあの空いてる席に座るのですか?」
空いている席は二つある。うち一つは、欠席してるだけなんだけど……。
「あの席は休んでるだけなんだ。向こうの席に座って頂戴」
新たに用意した席に案内する。ってあの席って……。
「よろしくねっ☆」
「あ、アナタはっ!?」
「あれれぇ? どこかでゆきりんにお会いしたのですか?」
「いいえ、何でもないわ……、これもヤツらのシナリオ通りと言いたいの?」
「……、ふーん」
今更ながら配置的に最悪じゃないかな……。厨二病×2ってやっちゃった感しかしないんだけどな、早速謎会話繰り広げてるし。
「アナタとは友達になれそうです! ゆきりんをよろしくなのです!」
「え、ええ。そうね……」
chaosの名を持つ陣内と、お電波転校生ゆきりん。厨二と電波が交差するとき、物語は始ま……らないで下さい。