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姉が過去からやってきた。  作者: ゴリヴォーグ
結婚していいのかわからない男
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白砂と終戦記念日とエクレア様と天文部~Hundred!!~

「いつもありがとう。助かるよ」

「いえいえ。私も好きでやってますので」

 入学して数日がたった。名前の順が一番最初という見る人が見ると理不尽な理由で僕はクラス委員に任命されてしまった。まあ先生はまだ新任ということもあり、僕が色々手伝った方が何かと円滑に進むのはあったんだけど、中にはクラス委員じゃなくてもいいだろうと思うような内容もあったっけ。でも話してみると南雲先生とは話が思いのほか合い、最初は頼まれていた仕事も、いつの間にか自分から手伝うようになっていた。もしかしたら僕の家庭の話を知らないからだろうか、これまでの先生達よりも近い距離で接してくれる。


「なあ、麻生はクラブとかしないの?」

 ちなみに、麻生と呼び捨てにするのはこの先生だけだったりする。

「あまり気が乗らないんですよね。スカウトはほぼ毎日来るんですが……」

「出来れば授業中に来るのだけは遠慮願いたいなぁ」

 先日は授業にも乱入されるというもはや迷惑の域を超えてしまった勧誘まであった。あれはさすがに僕もあきれたけど……。

「なんか申し訳なくなってきました」

「はは、麻生は関係ないよ」

 不可抗力といえば不可抗力だ。全部僕の意思に反している。

 しかし、自分で言うと顰蹙を買ってしまうかもしれないけど、僕は運動については9割万能だ。唯一水泳みたいなプールに入る競技を除いてはそつなくこなせる自信はあるし、現に、

「陸上部にどうぞ!!」

「柔道部はあなたを待っているっ!!」

「女子サッカー部へ!!」

「水泳部へどうぞ!!」

 とまあ、あらゆる運動部からの誘いを受けていた。どこから情報がまわったかは知らないけど、体力測定で少し本気になったのがまずかったと思う。勧誘してくれるというのは嬉しかったけど、正直言うと僕は入部する気になれなかった。運動が嫌いってわけじゃないけど、クラブとしてまでやるまで至らなかった。


「じゃあさ、天文部なんてどうかな?」

「天文部?」

 うーん、そんなクラブあったっけな? クラブ紹介の際にはいなかった気がするけど。

「ああ、つい昨日申請された、未完成ホヤホヤのクラブ希望団体だよ」

「で、どうしてそれを私に?」

 まあどうせ雲先生が顧問でしたってオチなんだろうけど……。

「ああ、昨日顧問頼まれたから。特に何もせずに部室で寛いでるだけでいいって言われたから、とりあえず3人集めたら顧問になるって言ったんだ。といってもあいつら3年だろうに。受験勉強しなくていいのかね?」

「天文部ですか……」

「暇なら来る? あの二人と一緒だとなんと言うか僕の身が持たないというか……」

 溜息をつく。どうやら天文部設立希望の二人に苦労させられているらしい。

「まあ今日は特にありませんし……、案内していただけますか?」

 まあ、見に行くぐらいならいいか。



――



「美少女キターーーーーーーーーーー!!」

 えー。根城にしているという地学室を訪れた僕を待っていたのは、眼鏡をかけた美人が奇声を発している現場。ドアを開けて美少女と叫ばれるのは初めての経験だ。

「お前は黙ってろ。見ろ、彼女どっからどう見ても引いているだろうが。開けちゃいけないパンドラの箱を開けたみたいな顔しているじゃないか。お前は落ち着くことを覚えろ。ああ、すまないな。適当に座っててくれ」

 良くも悪くも普通という雰囲気がよく似合う男性が突っ込みを入れる。見ると先生は頭を抱えている。

「なによー、朔ちゃん。だって美少女なのよ? 興奮しないほうが罪と思わない?」

「美少女のくだりは否定しないが、興奮したほうが罪だろうが」

「ああそうよね、秀ちゃんのストライクゾーンはランドセルを着用しているようなロリっ子だもんね」

「な、何出鱈目言ってやがる!! 俺は小学生じゃなくて身長145cmから150cmの神の範囲が一番なの! この5cmの間の人間は尊いんだよ!! 合法ロリしか認めねえ!!」


「先生、帰っていいですか?」

「そうだな。僕も帰ろうかな……」


「「ちょっとまって!! さっきの冗談!!」」


 二人とも目が獣みたいになっていたって言うのは言及しないほうがいい、よね?



――



「いや、さっきはお見苦しいものを見せてしまった。お前も謝れっ!」

「止めさしたの朔ちゃんじゃない……、遅くなったけど天文部へようこそ!! 私は白砂梓しらさごあずさ。あずにゃんって呼んでいいにゃん」

 猫みたいなポーズをしてアピールする。こういう時は、

「よろしくお願いします、白砂先輩」

「あずにゃんって言ったじゃん!!」

 鋭いかみそりのような突込みが入る。

「まあ、ほっといてくれ。こいつ疲れてんだわ」

「私はモルダーか!?」

「で俺は八月十五日朔太郎なかあきさくたろう。変な苗字だが、本名だ」

 八月十五日って……、

「終戦記念日先輩?」

「はは、よく言われるよ」

 困ったように言う。たぶんこの苗字の人はこの人意外に会うことがないだろうな。人生を五回転生してもお目にかかれないと思う……。

「読めるわけ無いよねえ、こんなDQN苗字」

「苗字は仕方ねえだろ!! そういうお前も白砂ってなんだよ白砂って!!」

「あら、私の苗字は由緒正しき白砂の血が流れていることをお忘れかしら?」

「でもお前は問題児だろ」

「久々にキレちまったぜ。屋上出ろよ」

「おーやるのか? 十七年目の決着をつけてやろうじゃねえか!」


 僕、別にいなくてもいいよね?

「先生、帰りましょう」

「そうだな、つき合わせて悪かったな。おいしい洋菓子カフェが有るんだけど行くかい?」

 洋菓子ッ!?

「先生、エクレアはありますか?」

「あ、ああ。あそこの名物だぞ。特に王様エクレアってのが……、どうした? 麻生さん怖いんですけど……」

 エクレアエクレアエクレアエクレアエクレアエクレア……。

「エクレア食べたい、ここ帰る!!」

「ちょ、うわあああ!!」



――




「いやあ、幸せぇぇぇ……」

 ここは天国なのでしょうか!! 僕が今まで食べてきたどのエクレアよりも巨大な王様エクレアに、色とりどり(黒一色だけど)が僕に最高の幸福を与えてくれる。こんなの初めてなの!!

「よく食うんだな……、ははっ、お金足りんのかぁ?」

 へっ?

「あのー、ここどこですか?」

「洋菓子喫茶アントワネット」

「僕は今何を……」

「幸せな表情でエクレアを貪ってるね」


 やってしまったああああああ!!


「な、何ですか先生……」

 なんと言う醜態を見せてしまったの……。今まで積み上げてきた僕のイメージが……。


「いやさ、普段と違う一面が見れてなんか面白いなって」

 へっ?

「いやさ、麻生は何事も完璧にするからさ、パーフェクトウーマンかと思っていたんだけど、お茶目な一面あるんだなって」

「僕だって人間です……」

「悪い! そういう意味で言ったんじゃなくて……、あれっ?」

 先生はワタワタしだす。

「麻生さ、一人称僕なんだな」

 あっ。あまり意識してなかったけど、一人称が僕に戻っていたようだ。

「変と思いますか? 女の子なのに僕って」

 受け入れられないってのは分かっている。そもそもなんで自分のことを僕だなんていうようになったかも覚えていない。自分でも分かるのは、壊滅的に似合っていないって言うこと。まぁ先生だってこんな変な生徒は嫌だろう……。だけど先生はニコッと笑って、

「いいんじゃない? 男だって私って言うし。イーブンじゃないかなぁ」

 僕の心の中のモヤモヤした不安を一瞬で払ってくれた。

「えっ?」

「なんなら今から一人称私にしようか?」

 悪意も軽蔑も何一つない笑顔。なんでかな、僕はそれにすごく救われた気がする。

「先生の前だからですよ?」


「ん? なんかいった?」


「先生の前だけなら、自分の素を出せるかもしれませんって話です。もうう先生には何も飾りません。ありのままの僕で接しますよ」


「そっか。そりゃよかった」



 思えばこの時、初めて彼を意識したのかもしれない。



――



「今日から天文部に入部させていただきます麻生伊織です。先輩方、先生よろしくお願いいたします」

 翌日僕は天文部の部室に入部届けをもって訪れた。

「朔ちゃん、夢じゃないよね……」

「あ、ああ。昨日のあれでよく入ってくれる気になってくれたな……」

「ま、これで三人だから正式にクラブとして認められるな」


「「天文部キターーーーー!!」」

 手と手を取り合って喜ぶ先輩方。あそこまで喜ばれたら見ているこっちまで嬉しくなってくる。


「でもどうしてまた入部する気になったんだ? 昨日のあれを見たら普通この部屋に寄り付こうとも思わないけど」

 先生は首を傾げて考えている。


「ああ、それはですね」


「素でいれる時間がたくさん欲しいだけです」

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