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そのときは、理事によろしく~Handsome woman~

「まったく、私を待たせるとはいい度胸しているな。私は1秒たりとも待たされるのは嫌なんだ。時間と言うのは有限で、実に尊いものだ。私を待たせないためにも、瞬間移動をマスターしようというぐらいの気概は欲しいものだな」

 放送で呼ばれ理事長室に行くと、理事長と秘書の木村さんと無茶な注文が僕を待っていた。

「いや、瞬間移動とか無理ですからね」

「そうやって否定するな、君の姉はタイムスリップを可能にしたんだ。いくら似ていない弟といっても君にだって何かしらびっくり人間になれる素質はあるのだろう」

「そんな素質2秒で捨てましょう。で、要件は何ですか? 時間の尊さを僕に伝えたいから呼んだわけじゃないでしょう?」

「ああ、そうだったな。まあ適当に座りたまえ。目の前で立たれるとなんかイラッてくる。イラッ☆」

 理事長は年甲斐にもなく、どっかのアイドルのポーズをとる。あんたのそれこそイラッてくるんっすけど。

「何を言う。私はまだ現役ピチピチだ。この見た目だけならその辺のアイドルグループにも入れるぞ」

「ママさんバレーでもしてろ」

 悪態をつきながら椅子に座る。

 さて、ここにおりますは、我が学園御崎原高校の理事である御崎原峰子様でございます。年齢は非公表だが、実はこう見えて……

 ズシャ!!

 頬を何かが掠める。頬に触れるとツーと血が流れてきた。何かが飛んでいった方向を見てみると、そこにはナイフが刺さっていた。

「ってちょっとあんた殺す気か!?」

「当然だろう。年齢なんていう女の知られたくないデリケートな話題その2を貴様は世界中に公表しようとしたのだからな、その罪は万死に値する。」

 何言ってんのこの人!? 世界中に公表って何!?

「気にするな。ちょっとしたメタ発言だ」

 意味が分かりません。

「まったく、君はどうしてこうも話題をそらすかね。話をややこしくする素質が君にはあるのではないか?」

 ややこしくしてんのはあんただろ!?って突っ込もうかと思ったが、これ以上反論したらなにされるか分かったもんじゃないのでこの程度にしておくことにした。相手はなんと言ってもこの学園の経営者で、僕はそこの社員に過ぎない。彼女がその気になれば僕を何時でも切り捨てることだって出来るのだ。

「まあそれは置いておこう。要件というのはズバリ、美桜のことだ」

 やっぱりそう来たか。姉さんの今後の立場やらの面倒なことはどう処理すべきか僕も考えあぐねていたところだ。理事長は傍らにいた木村さんに目配せをし退出させる。退出する際木村さんはこちらに一礼して部屋を出る。うん、いかにも美人秘書って感じだな。

「やっぱりって顔をしているあたり予測済みだったか。まあ必然的にそうなるわな。後、今は理事長と呼ばなくてい。峰子さんで結構だ」

 峰子さんはそういいコーヒーに口をつける。峰子さんと呼べって言うことは今は親戚の叔母……じゃなくてお姉さんとして僕に接しているわけか。

「10年前、美桜がタイムスリップしたとき世間はどう彼女を扱った? 答えは謎の失踪。一時はマスコミも連日こちらに押しかけてきたこともありそれなりに話題になった。しかし、まあ幸か不幸か分からないがその後すぐに総理大臣が変わり、世間の関心のベクトルが変わった。そして、同じ年に未曾有の大型テロまで起きたんだ。そんな荒れに荒れた21世紀の幕開けだったわけだ。一女学生の謎の失踪は新しい情報も何も出ず、いつの間にか世間様からフェードアウトしてしまった」

 理事長はコーヒーを飲み干し一息つけて、

「世間がこちらに関心をなくしたころ、親族会議が開かれてな、美桜の一件をどうしようか話し合ったんだ。まったく、あの時ほど他人に嫌気がさしたこともなかったよ。君も知っての通り、美桜が残した発明品はまあ、正直くだらないものが多かったが、中には実用的なものもあった。しかしまあ、あいつは特許とか云々にさほど興味を持ってなかったこともあって、美桜の発明品の多くは特許未申請のものだったんだ。もっと俗っぽく言うと金のなる機械なわけだ。今まで君達の世話を面倒がってた連中もこんな美味しい話はないとハイエナのごとく群がってきたわけだ。君も覚えているだろ? 今まであったことのない大人連中から、いきなり「俺達は親戚」だなんて言われたのを」

 


 忘れもしないさ。今までろくに何もしてこなかったくせに中学生相手に金をせびろうとやってきた連中を。





 親父達が死んでから僕たちの面倒を見ようとしなかったくせに、こんなときだけ現れる。当時の僕は大人というものを信用できないでいた。結論を言うと、幸いなことに親戚の中では唯一僕たちに良くしてくれていた峰子さんが後見人となってくれたことで、なんとか事態の収拾を迎えることが出来た。

 峰子さん自体も大変だったのだろう。姉がいなくなった屋上を空けたのは理事長を座を次いだばかりの峰子さんだし、そういった面ではこの人が責任を追及されるのも無理はない。しかも僕の世話をすると言ったとき、名前も知らぬ遠縁ババアにこう言われていた。

「どうせあんたも特許が欲しいんでしょ!? そうに決まっているわ! 本当はあんたがあの子を消したんでしょ!! 自分が独り占めするために。アタシ知ってんのよ?あんたの経営している高校、資金難の赤字経営だってね?」

 全て峰子さんの自作自演だという。本当に馬鹿げた話だが、奴らにはそう映ったのだろう。それを聞いた僕は黙っちゃいられなかった。今にも殴りかかろうとしたそのとき、峰子さんは僕の手をとり親戚連中に宣告した。

「特許も家も別にどうだっていい、お金が欲しいのならどうぞくれてやる。それでも足りないってのなら私からも払ってやろう。だが手切れ金と取ってもらって欲しい。私たちに金輪際近づくな。貴様らに航を、美桜を引き取る権利はない! 帰るぞ、航。ちょっとばかし長いが美桜を待つんだろ?」

 あいつらにそう言って峰子さんは僕を連れて帰った。




「まあ、あの馬鹿親戚連中がどうなってるか知らないが、赤字と言われた学校経営も、クラブの強化やら大学進学率の高さを売りにして何とか軌道に乗ったし、特許については実は美桜が失踪する前に、特許の出願を他人に移譲していたんだ。例えば養護施設にだったり、時には志ある発明家達にな。それを知った連中の顔は本当に傑作だったよ。そういや、ちと前にタイガ○マスクが流行ったが、美桜のやつ、時代を先取りしよったな」

 峰子さんは机に置かれた写真立てを見て笑う。そこには姉さんが渡した特許によって笑顔になった人たちが写っているのだろうか。

「さて、脱線してしまったな。美桜の話だが、彼女は今15歳だ。10年前中学を卒業して高校に上がろうって時にこっちに来てしまった。入学に関する費用やらこっちに納めたのに学校に行けなかったわけだ。制服も着たかっただろう。友達と一緒に青春を過ごしたかっただろう。あのスーパーブラコンに限ってないかもしれないが誰かと恋に落ちたかもしれない。その全てが出来なかったわけだ」

「峰子さん……まさか……」

「今は理事長と呼びたまえ、南雲先生。」

 急に仕事モードに入った。あれ? なんだろ? この後の展開が読めてきたぞ?

「よって南雲美桜を2011年度新入生としてわが校に向かい入れます!! 君が来る前に確認として美桜に聞いたら、『うん! それ面白そう!! じゃあ私こう君のクラスね!!』と即答されました。あいつは君の名前を出すとすぐに騙されそうだな。ハッハッハッハ」

「やっぱりそうきたかよチクショォォォォォ!!」


 南雲姉:生徒(15)

 南雲弟:先生(24)


 姉さん、貴方は僕に安らぎを与えてくれないのですか?


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